第八話 グレタの報告
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結局、なし崩し的にベッドへと引き摺り込まれた私こと、夫に子作りへの協力を求められているグレタですが、夫の厚い胸板に自分の頬を押し付け、大きなため息を吐き出しながら言い出したわけです。
「エスタード紙は勝手にしてくれて良いと言われたので、勝手にテコ入れをして、近々、社長もそっくり交代するつもりでいるんです。私は内部事情にも精通しているトム・グランドを次の社長にしようと思っているんですけど、何か問題はありますかね?」
「そういうあっさりとしたところ!嫌いじゃないがな!」
夫はぐりぐりと私に頬ずりをしながら言い出した。
「実際、君がテコ入れをしてからのエスタード紙は非常に面白い。貴族が利用する白粉の全商品を調べたところ、鉛入りの白粉が一部の商品から発見されたのだろう?いつの間に調べていたんだ?」
「商売上、怪しいなと思った時点で商会の者に調べさせるようにしたんですよ」
「白粉に鉛が混入しているかもしれないだなんて、良くそんな発想に至ったな?」
「それは異国の本で読んだのもあるのですが・・」
私ったら、転生者あるあるをしているのかもしれない・・何でもかんでも、異国の本を読んだで誤魔化そうとするやつよ。
「庶民に売られる白粉があまりにも安すぎるので、なんか変だなと思ったんです。もっと早くに調査結果が出ていたら、乳児の死亡を阻止することも出来たんでしょうけど、イレネウ島でデトックス茶の開発をしていた関係で、対応が遅くなっちゃったんですよね」
「そういえば、遂に王妃陛下に緑茶を飲ませることに成功したらしい」
「ええ?鉄壁のガードとか何とか言っていませんでした?」
「溺愛する孫が奮闘してくれたらしい」
「孫?」
というと、オスカル殿下の息子であるルドルフ王子がおばあちゃま(王妃)にデトックス茶を飲ませることに成功したってことかな?
「それで?王妃様の反応はどうだったんですか?」
「口の中がさっぱりすると、大層喜ばれたらしい」
「うーん」
口の中に苦味が残り続けるのがミディ中毒の症状でもあるのだけれど、鉛中毒でも口中の不快感が残るのよ。
「王妃様がご使用される白粉も鉛入りかどうかを調べた方が良いと思うんですけど、鉛中毒とミディ中毒の症状は結構似通っているので、見分けるのに難しい部分もあるかもしれませんね」
鉛中毒の症状は、頭痛、倦怠感、脱力、手足の震え、骨や関節痛の増強による歩行障害、口中の金属味による食欲不振、嘔吐、腹痛、人格の変化ってことなんだけど、ミディも同じような症状を呈するのです。初期症状を見分けるのは専門家の知識が必要なのかもしれないな。
「なあ、それって使えないか?」
夫が急に私の顔を覗き込みながら言い出した。
「今、貴族たちは鉛中毒に対して非常に警戒しているし、恐れてもいる。その恐れを安陽茶にも向けることって出来るんじゃないか?」
夫は青灰色の瞳をキラキラ輝かせながら言い出した。
「安陽国から輸入した白粉に鉛が含まれているというのなら、安陽茶にも含まれているかもしれない。そう考えるように新聞で仕向けるのはどうだ?そうしたら、みんなが安陽の茶を飲みたいとは思わなくなるだろう?」
「そりゃもちろんそうですよ」
私は満面の笑顔で言ってやりましたとも。
「そう仕向けるために、まずはサンライフで平民向けに鉛入りの白粉への注意喚起を行ったんです。今は貴族むけにエスタード紙を使って、鉛入りの白粉は貴族も使っていたというスクープを飛ばしているところなので、明日からは安陽茶って本当に大丈夫なのか?実は鉛が含まれているんじゃないかという特集を組むつもりなんです」
「私が思いつくようなことを君が思い付かないわけがないんだったな」
あからさまにがっかりする夫の頬にキスを落としながら私は言ってやりましたとも。
「丁度、軍務大臣を麻薬の使用とか横領とかで捕まえてくれたので、紅茶には実はミディが含まれていたっていうスクープを出すことにしましょう!」
「安陽の紅茶にはミディが含まれていたのか?」
「いや、調べていないんで分かりません。だけどですね、自分が破産するほどの資金を投じて紅茶を買うなんて、正気の沙汰とは思えないじゃないですか?そこまで夢中になる紅茶を広めたのがイザベルデ妃なんだから、特定の人にはミディ入りの紅茶を使うとか、十分に有り得る話だと思うんですけど」
「それでは、市民や貴族の訴えに応じてということにして、安陽茶の成分を調べてみよう!鉛が入っているのではないかと調べてみたら、実はミディが含まれていたという筋書きが一番良いな」
「そのように、エスタード紙では進められるように準備をしておきますね」
「その間のサンライフは?」
「サヴァランを特集させるつもりです」
麻薬とグルメの二刀流、このネタで庶民と貴族たちを翻弄させていきましょう!
「目をつけていたお店は購入して開店準備も進めていますし、そもそも、王都のパン屋にはサヴァランをうちの工場から卸しているような状態なので、準備はギリギリ間に合うかと思います」
なにしろ、兄にまる投げでサヴァランを作る食品工場を、ヴィクトリア嬢の披露宴パーティーに間に合わせる形で作って貰ったので、そのまま工場ではサヴァラン(紅茶のシロップ漬け)を作り続けて貰っているような状態なのよ。
「ロムーナ茶には毒が入っているという噂も広がっているんだけど、複数の貴族家からは、ロムーナ茶とサヴァランの購入を望む声も出ているの。ヴィクトリア様の披露宴パーティーはかなり無理しながら手伝ったけど、成果はそれなりに上がっているのを実感しているわ!」
「ゔー〜ん」
「貴方は王宮の中、私は王宮の外を担当ってことは前にも言ったと思うけど」
「その、主婦は家の中、働き者の夫は外の真逆をいっているような役割分担が気に食わない」
顔をくちゃくちゃにして悔しがる夫は、そのまま私に覆い被さるようにして、降り注ぐようなキスを落としていったのだった。
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
モチベーションの維持にも繋がります。
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