表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
55/113

第六話  ペンは剣よりも強し ③

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 貴族による貴族のための新聞『エスタード』をオスカル殿下が買い取る形となって以降、社長命令によって『ヴァールベリ王家は素晴らしい!』という礼賛記事ばかりを書かされていた記者のコリン・ハーディは、うんざりしながら項垂れた。


 ここ数日の『サンライフ』は脅威の売り上げを伸ばし続けている関係で、正統派と呼ばれる『エスタード』は大きく水をあけられる結果となったのだ。


 そもそも、オスカル殿下が新聞社を買い上げて以降、売り上げ自体が右肩下がりに落ちている。お貴族様であれば『エスタード』を購入している我が家は王家に対して忠誠を示しているということになるのだが、お貴族様でもない富裕層の平民からは、

「碌な情報が載っていない『エスタード』など買う価値もない」

 という判断を下されることになったのだ。


 貴族による貴族のための新聞と言っても、平民の富裕層を取り込んでいるからこその『エスタード』紙であって、圧倒的に数が少ない『貴族』だけを相手に売っていたら新聞社としての価値は無くなってしまうだろう。


 そのうち王家による王家のための『広報誌』となるのではないか。近い将来、きっとそうなるだろうと思うだけで、やる気がドーッと無くなっていく。正統派である新聞社で働く誇りが粉々に打ち砕かれるような思いに、毎日駆られているのだった。


「コリン・・おい!・・コリン!」

「はっ!はい!」

「お前、今時間あるか?」

「そりゃありますけれど」


 編集長であるトム・グランドは手に持った新聞紙を握り締めながら言い出した。

「これから外に出るが、お前に付き合って欲しいんだ」

「はい!時間的には全く問題ないです!」


 なにしろ今は、イザベルデ妃が愛する焼き菓子(ババ)についての特集記事を書いているところだったので、こんなクソ記事を途中で停止させることが出来るのなら、地獄の底までだってお供をしたい気分のコリンなのだ。


「出先まではどうやって移動しますか?」

「辻馬車を利用しようと思う」

「辻馬車ですか?」


 最近のエスタード紙は経費削減という名の元に、個人で馬車を雇わずに辻馬車を利用するように通達されているのだった。編集長様でも辻馬車か・・と、コリンが暗澹たる思いでいると、編集長の手に握り締められているのが、今話題の『サンライフ』であることに気が付いた。


「それで、これから何処に向かうのでしょうか?」

 まさかサンライフに殴り込み?暴力に訴えて出るなら自分は非力だからな〜と、そんなことをコリンが考えていると、

「ヴァルストロム侯爵邸に向かう予定だ」

 と、編集長は苦虫でも噛み潰したような顔で言い出したのだった。



 最近、ヴィキャンデル公爵家のヴィクトリア嬢がナルビク侯国のハラルド・ファーゲルランの元へ嫁ぐとあって、大々的な披露宴パーティーが行われることとなったのだ。


 この披露宴パーティーではオスカル殿下による断罪が行われることとなり、ヴァルストロム前侯爵夫人がその場で逮捕。ナルビク侯国とヴィキャンデル公爵がオスカル殿下の後ろ盾となることを(大々的に発表した訳ではないが)公としたのだった。


 これでオスカル第一王子の後ろにはナルビク侯国、カール第二王子の後ろにはポルトゥーナ王国がつくことになり、犬猿の中である両国の代理戦争のような形を呈することとなったのだが、

「そのことは記事には載せないように」

 という命令が社長から下されることになったのだった。


「新聞という情報ツールを使って、両国の仲の悪さを煽るようなことは避けた方が良い。そもそも、第一王子と第二王子の確執を明るみにするのは民心の不安を誘発することにもなるだろう」


 結局、社長は何だかんだと言い訳を言っていたが、忖度に忖度を重ねた結果、重要な記事は社説でちょっと触れるだけの程度で終わり、その日の一面は『バルーンアート』でお茶を濁すことになったのだ。


 ヴァルストロム侯爵といえば最近結婚をしたグレタ夫人が、義妹のヘレナと侯爵を取り合ったとか、奪い取ったとか、三角関係に終止符を打ったとか、ついに憎き義妹を修道院に追放処分したとか、そんなことを噂されている人物ではあるけれど・・

「編集長、まさか今から夫人に取材をして、女の愛憎関係をスクープ記事にするとか、そういうことじゃないですよね?」

 思わずコリンが問いかけると、

「うるさい、黙れ」

 と、編集長は答えて、悪魔のような顔でコリンを睨みつけたのだった。


 編集長は事前に面会の問い合わせをしていたようで、出迎えた侯爵家の家令は嫌な顔一つせずにコリンと編集長を応接室へと案内してくれたのだった。


 二人掛けのソファに座ると、侍女が二人の前に紅茶と茶菓子を置いていく。編集長が口をつけたので、コリンも口をつけると、それが安陽の紅茶ではないことにすぐに気がついたのだった。


 ヴィキャンデル侯爵の披露宴パーティーには、コリンも取材のために会場に入っていたのだが、これは、どデカいスクープになるぞと興奮に胸を高鳴らせていたものだった。その時に、

「記者さんも喉がお渇きになりませんか?よかったら飲んでみてください、美味しいですよ?」

 と言ってメイドに渡されたのがこれと同じような紅茶で、あの時はオレンジの風味が紅茶と良くあっていたのだが、今日の紅茶にはリンゴの風味が加わっているようだった。


「フルーツティーというやつですかね?」

「そうだな」


 貴族の家に記者が訪問をしたとして、いつでも何処までも待たされるのはいつものことだ。今日は待つだけで半日は潰すつもりでいたコリンが、美味しいフルーツティーで喉を潤していると、間もなくして噂のグレタ夫人が侍従と侍女を伴って応接室へとやって来たのだった。


サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ