第四話 ペンは剣よりも強し ①
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
大衆紙でもある『サンライフ』で私がペンを手に取ったのは5年も前のことになるけれど、当時、十五歳の私が作り上げた『伯爵夫人の夜のお楽しみ』は当時の編集長に、
「エグい!エグ過ぎる!」
と、言わしめる程の出来だった訳ですよ。
「次回作はいつ出来るの?」
「君が作るもの(お貴族様の裏情報も交えたネタ)なら、いつでも、どんなものでも大歓迎だからね!」
と、言われ続けるほどのもので、ナディアおばさんに呼び出されたアデルなんかは、
「お嬢様!遂に次回作が出来たんですか!」
と、侯爵邸に駆けつけるなり、
「次はおばさんのエロじゃなく、若いお姉さんのエロがいいです!しかも薄幸の美少女もの!」
開口一番で言い出したのがこれだもん。みんな、やっぱりエロが好きなんだよね!
「申し訳ないけれど、今回はエロじゃなくてグルメなのよ」
「えええ?」
「しかも、最終的には『サンライフ』は『エスタード』とコラボします」
「えええ?エスタード紙ですって!」
アデルは小刻みに首を横に振りながら言い出した。
「無理ですよ、無理無理無理、うちみたいな三流新聞が、お貴族様のお貴族様によるお貴族様のための一流紙とコラボだなんて!無理!無理!無理!」
「無理じゃありません!」
『エスタード』の購読者は貴族、『サンライフ』の購読者は平民。この両方にアピールしなければ国を動かすところまで持って行くのは難しい。
「まずは『サンライフ』でスクープ記事を流すから、そのスクープ記事を追いかける形で『エスタード』には後追い記事を書かせます」
「はい?」
「まずは一発『サンライフ』で大きなネタを発信します。ここまでは理解出来た?」
「はあ〜・・」
アデルは二十六歳の若手の記者なんだけど、発想力が柔軟で、過去にも私の手足となって動いてくれたことがあるのです。特に告発本でもある『伯爵夫人の夜のお楽しみ』は一冊の本にもなってバカ売れしたので、その収入の一部はアデルにも渡っているのです。
「分かりました!グレタ様が動くというのなら、俺は手足となって動くのは当たり前のことです!それで、一体何から始めればいいのでしょうか?」
「それじゃあ、編集長に交渉して、明日の一面はこの記事を載っけてくれないかしら?」
「え?明日の一面?」
ギクリと体を強張らせたアデルはすぐに時計に視線を走らせた。
ここから明日の一面の記事を差し替えするというのなら、彼の瞬発力が頼みとなるのは間違いない。
「ここに私が書いた記事があるから、これを載っけて貰えれば嬉しいのだけれど」
「拝見させて頂きます」
アデルはそう言うと、私が差し出す記事の文面に視線を走らせていく。
子爵家所有のストーン商会を大きくするきっかけとなったのが『髪ゴム』と『シュシュ』だったんだけど、当時、前世の記憶までは思い出してはいないけれど、ざっくりとした知識だけはボチボチ思い出していた私は、領地にあるゴムの木に目をつけることになったって訳です。つまりはゴム製品が出発点となって、女性の小物を中心に流行を発信し始めた訳だけれど、そこからミモレ丈のドレスに到達するまでの間に『化粧品』に興味を持つのは自然の流れだったと言えるでしょう。
当時、安陽の紅茶が貴族の間で大流行するのと同時に、安陽から『白粉』が輸入されることになったわけ。肌を白く見せることが可能な白粉は貴婦人たちの間で大流行!うちの商会でも『白粉』を取り扱うかどうかで話が持ち上がったんだけど、
「白粉はうちでは扱わないということで決定です」
と、私が言い出したので、ストーン商会では頑ななまでに扱わなかった商品になるのです。
当時白粉については、
「なんか嫌な予感がする」
と、私が言い出した所為で、うちの人たちは『危ない商品』なのかもって思い込んだみたいです。それで、私は結婚式の日に突き飛ばされて、転がっている石(岩ともいう)に頭を打ちつけて前世の記憶とやらを思い出した訳ですが、そこで、ここら辺の時代の白粉には鉛による健康被害が出ていたってことを思い出したって訳ですよ。
私が一体どんな世界に転生したのかも分からないけれど、前世と同じようにお貴族様たちが好んで白粉を大量に使っている訳ですよ。そして、この時代ならではなんですが、子供の生育率が非常に悪い。その原因に白粉が関係しているんじゃないかってことで、貴族と平民層に分けて調べて貰ったんですよね。
情報はお金になる、これ、商人の鉄則なんですけれども、うちで懇意にしている商会なんかも白粉には手を出しているところは多いので、もしも鉛が含まれているのなら、早めに手を引かないとお貴族様相手に損害賠償とか生じることになってしまう。
結局、白粉の健康被害は本国の方(安陽国)で問題となっていて、お貴族様向けの高級品にはほとんど鉛は含まれていなかった(と言っても、一部の商品には入っていたけれども)。問題は平民に広まり始めている安い白粉の方で、安陽では売れなくなった鉛入りがヴァールベリ王国で安売りされていたってわけで・・
「グレタ様、これって本当の話なんですか?」
記事に記される白粉による鉛中毒で、この一週間だけでも乳児の死亡が分かる限りで十二件に登るという所まで読んで、真っ青な顔色となってアデルが問いかけて来たのだった。
「勿論、本当の話よ」
ここ一週間の乳児の死亡は医療局に問い合わせて調べたものなので、信ぴょう性はかなり高いものになる。
「一週間でこの人数だから、過去に鉛中毒で死んだのは・・と考えると、かなりの数になるのは間違いないの」
「こ・・んな大きなネタを『サンライフ』なんかの一面に載せちゃっていいんですかね?」
乳児の死亡の原因が白粉だったなんて、庶民が絶対に食いつくネタになることは間違いない。
「それこそ、エスタード紙に載せても良いくらいのネタだと思うんですけど」
白粉に鉛が入っていただなんて、誰もが知らないことだった。肌が白く見えて美しいということで、胸元まで白粉を塗ることは多く、その胸元に塗った白粉を乳児が口に含むことによって中毒を起こして死亡する。
そんな恐ろしい事実こそ、大手の新聞社に記事にして載せた方が良いとアデルは思っているのだろうけれど、
「被害は庶民の間で広がっているのよ?だというのに、お貴族様しか読まないエスタード紙に載せて意味があると思う?」
私の言葉に、あっとアデルは声を上げた。
「三流紙だったサンライフがなかなか上に上がれないのは、スクープ記事が圧倒的に少ないからよ。私は馴染みがあるからという理由でサンライフを選んだのだけれど、別に他の新聞会社に持って行っても良いのだけれど?」
「いやいやいやいや!」
アデルは飛び上がって言い出した。
「是非とも!うちの一面に載せさせてください!」
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、これから国の駆け引きと女のドロドロを混えながら話がどんどん進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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