第一話 ルドルフ王子
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ヴァールベリ王国の第一王子であるオスカル殿下には息子がいる。ルドルフ王子は六歳で、
「ああ、王妃様が正気に戻ってくれるのなら、何の問題もないというのに・・」
という母マデレーンの嘆きの言葉を耳にして、
「おばあさまったら正気じゃなくなってしまったんだな!」
それは困った!どうしよう!と、子供ながらに頭を悩ませることになったのだった。
リリベル子爵家が所有する鉱山の鉄鉱石が無断でポルトゥーナ王国に輸出されていることが判明することとなったのだが、
「その指示を出したのは私です」
と、王妃様が言い出した。
「兄である皇帝の指示で私がそのように差配したのです、何か問題があるとでも?」
とまで言い出したので、ナルビク侯国から来た三人の大臣は驚嘆することになったのだ。
ナルビク侯国はオルランディ帝国とかなり親密な関係を築き上げて来たという自負がある。それこそ、帝国との仲の良さを競い合うことになったなら、ポルトゥーナ王国に負ける気はしないほど、蜜月関係と言っても良いだろう。
その帝国がポルトゥーナへの鉄の輸出を密かに認めたというのなら、背後からナルビク侯国を狙っているのに他ならない。帝国はポルトゥーナ王国と図って挟み撃ちにするというのなら、侯国は滅亡まで待ったなしの状態となってしまう。
「いや、待ってくれ!待ってください!」
そう言って待ったをかけたのがオスカル殿下で、今ではすっかりイザベルデ妃の言いなりとなっている王妃が、どれだけ正気なのか、真実を語っているのかが分からないとまで言い出した。
「貴国が帝国と対抗するためにと戦力を集中させている間に、ポルトゥーナが背後を狙うつもりかもしれない。もしもそのような状態でポルトゥーナが勝利を収めれば、敵は帝国に対して謀反を起こそうとした侯国を倒しただけと吹聴することも十分にあり得る」
とにかく今は皇帝の意思がどうなのかを確認することが必要であるとして、その場は一旦収めることとなったのだが、王国の議会も紛糾しているような状態なのだ。そもそも、王妃様は正気なのか、正気ではないのか?そこの判断がなかなか難しいような状況に陥っていると言えるだろう。
「おばあさまー!」
ルドルフ王子は秘密の抜け道を潜り抜けて、祖母が住まう離宮へと突撃すると、侍女たちの間をすり抜けて、おばあさまの元へと突進したのだった。
なにしろ王妃にとってルドルフは初孫で、目の中に入れても痛くないほど溺愛している。王族としての作法は気にしなくても良いというように、この離宮では許されているのだった。
「おばあさま!僕、今日はおばあさまにプレゼントを持って来たの!とっても美容に良いって聞いたから、絶対におばあさまにプレゼントしたいって思ったんだ!」
「まあ、ルドルフ?美容に良いって何を持って来たの?」
「お父様がお母様にプレゼントしたんだけど、今はまだお母様は飲めないから僕が飲んでいるの」
「まあ、オスカルは何をルドルフに飲ませているのかしら?」
「お茶だよ!緑色のお茶なんだ!」
お茶と聞いて、周りの侍女に動揺の色が走った。
「殿下、その緑色のお茶とは、安陽から渡って来たお茶なのですか?」
「え?違うけど?」
王妃は安陽の紅茶を愛しているため、それ以外を口にしようとはしないのだ。ルドルフ殿下が持って来たという茶は色も緑だと言うので、王妃様は飲まないだろうと侍女たちは思い込んでいるところがある。
「ええ?美容に良いって・・健康に良いって・・お父様が言っていたし・・僕も飲んでいるから大丈夫だと思って・・僕・・僕・・」
あっという間に涙を浮かべたルドルフの頬を、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。その涙を見て再び侍女が動揺を露わにしていると、
「ルドルフ、おばあちゃまに、その美容に良いと言うお茶を味見させてくれないかしら?」
と、王妃様が自ら言い出したのだった。
緑茶には血中コレステロールの低下、抗酸化作用、体脂肪低下、リラックス作用に脳細胞の活性化、利尿作用も含まれる。利尿作用を促すことにより、体内に溜まった毒素を排出し、神経伝達物質であるGABAで脳への酸素供給量を増やし、脳細胞を活性化する作用がある。
デトックス茶の中でも一番効果があるという『緑茶』をルドルフが選んだのは、
「これを母上が一口でも飲んで頂けたら良いのだが・・」
と、最近めっきり頭髪が薄くなっているルドルフの父が、項垂れながらそんなことを言っていたからだ。
「緑茶の淹れ方は紅茶とは違うので、私が淹れさせて頂きます」
王妃の離宮までルドルフ王子についてやって来たリリアはルドルフの専属侍女であり、ルドルフ王子の母となるマデレーン妃とは年の離れた従姉妹同士の関係である。まだ十六歳のリリアは素朴な容姿をした娘なので、警戒心を相手に抱かせないのが彼女の美点でもあるのだった。
「実はこの緑茶、浮腫を取って痩せる効果もあるようなんですよ」
リリアは茶器の準備を手伝ってくれた侍女にこっそりと囁いた。
「ビタミンCも多く含まれているから美容にも良いと言われているんです」
「びたみんしいって何なのかしら?それが美しくなる成分ってことなの?」
痩身と美容に心ときめかない女性は王宮の中にはまずいない。
「新しく発見された成分だそうですよ。ちなみにマデレーン様の離宮に勤める侍女は全員、オスカル殿下が持って来てくださったお茶を飲んでいるのです。おトイレの回数も増えてすっかり痩せた人もいるし、肌艶も急に良くなった人もいるほどで」
「そういえば貴女もちょっと痩せたのではなくて?」
「あっ!分かります?」
リリアは自分の頬を撫でながら言い出した。
「私なんかまだまだで、緑茶を飲んだ私の従兄の変わりぶりは恐ろしいほど凄い物でした」
リリアの従兄は重篤なミディ中毒患者だったのだが、この緑茶を飲んで驚くほどの回復を見せたのだ。現在、王宮の中であっても麻薬の汚染はどこまで広がっているか分からない状態だった為、オスカル王子は自分の妻の離宮で働く者にはロムーナ茶を飲むように推奨している。
「ねえ、私にも出来たら分けてもらいたいんだけど」
「緑茶は難しいですけど、紅茶だったら問題ないです。ティーバッグって知っていますか?コップとお湯があれば簡単に淹れられるお茶なんですけど」
「いいえ、知らないけれど、それも美容の?」
「そうです、私たちが普段飲んでいるのはそちらの方なので、それでも良かったら今度持って来ますよ」
お茶の準備をしたリリアは、王妃様が口にする前に自ら毒見を買って出た。お茶といえば茶色の液体を想像してしまうものだけれど、コップの中の液体は鮮やかな緑色で、
「おばあさま、このお茶は紅茶のように発酵させていないからこういう色になるのですって。フレッシュハーブティーというものを最近はお母様も飲んでいらっしゃるのですが、そちらもお茶なのに緑色をしているのです」
そう言ってルドルフは美味しそうにお茶を口にした。
「まあ、緑色のお茶だなんて初めてだわ」
王妃様はそう言ってお茶に口をつけると、うっとりと目を閉じながら言い出したのだった。
「最近ではずっと口の中に苦味が残り続けていたのだけれど、ルドルフのお茶を飲んだからスッキリしたわ」
「本当に?だったらこれからも飲んでみたらもっとスッキリして良いと思います」
ルドルフは興奮に顔を赤らめながら言い出した。
「痩せるし、綺麗になるし、お口の中もスッキリすれば、おばあさまも毎日楽しく過ごせるでしょう?」
「毎日、楽しく?」
王妃様はしばらく考え込んだ後、
「最近の私は・・何か楽しいことが・・あったかしら・・」
呟くように言い出した。
そんな祖母と孫の交流を眺めながら、リリアはこっそりと自分の拳を握り締めていた。王妃様の周りには鉄壁の守りのようなものが出来上がっていて、なかなか近くに行くことも出来ないような状態となっていたため、リリアとしてはルドルフ王子を利用出来たら良いのではないかと前々から考えていたのだ。
そのルドルフ王子から、
「おばあさまを正気に戻したい!」
と、言われたリリアは一計を講じたわけだけれど・・
「なんだか私、時代を今、動かしちゃったのかも!」
と、心の中で興奮の声を上げていたのだった。
本日、17時にもう一話、更新しています!!
G Wに突入し、物価高と光熱費上昇によって、外には出ずに家でのんびりしようか〜という方も楽しめるように、毎日更新しています。またジャンルは違うのですが『緑禍』というサスペンスものも掲載しておりまして、ただいま佳境にさしかかっております。そちらも楽しんで頂ければ幸いです!!
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!イザベルデ編となり、女のドロドロ、国同士の駆け引きも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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