第五話 それは間違っている
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「奥様、一体どうしてこの船に乗り込んでいたのですか?しかも男装までして、怒ったりしませんから、正直にお話し頂けると助かります!」
そう言って私の前に紅茶を置いてくれたのは侯爵の秘書となるウルリックさん。侯爵に代わって結婚式で着るドレスを持って来てくれたり、披露宴会場の装飾について相談に乗ってくれたりと、私としては、結婚式当日にようやっと顔を合わせた侯爵なんぞよりも、よっぽど会った回数が多い秘書さんである。
色目が地味でもイケメンそのものの侯爵に仕えているだけあって、ウルリックさんは黒髪、黒瞳と、色味がダークそのものの癖に・・イケメン!侯爵はガタイも良いことから戦士!っていう感じなんだけど、ウルリックさんは執事!っていう感じのイケメン。
そいつら二人とスィートルームの応接室で顔を合わせている平民の男装の私ってどんな風に映るのかな。色味は派手だけど、容姿が地味過ぎるが故に、イケメンの前にモブ現れる的な?マジでどうでもいいけどね!
「どうせ追いかけて来たんだろう!」
フンッと鼻を鳴らして横を向く侯爵を殺してやりたい。
「奥様、どうか殺してやりたいなどと口で言うのはやめてください」
あれ?また心で思っていたことが口から出ていたかな・・
「奥様、私には奥様の気持ちはよく分かります!あれほど丹精込めて作り上げた披露宴パーティーの会場は、全て、ヘレナ様が侯爵のために用意したものだと喧伝されてしまいましたものね!」
「そ・・それは!それで良いんじゃないんでしょうか〜!」
裏返った声で言う私の言葉に、ウルリックさんの形の良い眉がハの字に開く。
哀れな者を見るような眼差しになっているけれど、やっぱりウルリックさんも私のことを痛いって思っていた?痛いって思っていたの?確かにゼ○シィ情報満載の会場設営になっちゃったけれども!あれはヘレナが設営したものなんだって!みんなにもそう思ってもらいたい!
「私は君に、確かに『君を愛する暇はない』と言ったはずだが?」
侯爵がそんなことを言い出した為、私は前のめりとなって侯爵を見上げた。
「侯爵!そこは間違っています!」
「確かに侯爵は間違っています!」
私を応援するようにウルリックが声をあげている。
私は思わずウルリックさんを見上げて、うんと、一つ大きく頷いた。ウルリックさんの言ってやれという眼差し、確かに受け取りました!
「侯爵、そこは『君を愛する暇はない』ではなく『君を愛することはない』と断言しなくては駄目じゃないですか!」
私はビシッと侯爵に人差し指を突き付けながら決め台詞を決めた。
「僕は君を愛することはない!」
侯爵があんぐりと口を開けたけれど、自分の台詞の間違いに気が付かなかったのかしら。
「新婚初夜で、新婦がドキドキしながら新郎をベッドの上で待っている時に突きつけるのがなお宜しい!」
「なんなんですか、その鬼シチュエーション」
「良くある展開じゃないですか?次の日から船で移動だから、新婚初夜を待つ花嫁に向かって言う暇がなかったから『君を愛する暇がない』になっちゃったんですか?だったら『夜まで待っている暇がないから今言うぜ』になるのでは?」
「侯爵は『今言うぜ』なんて言いません!」
全てにツッコミを入れてくるウルリックさんを見上げた私は、侯爵に向きを変えると、
「事情はヘレナさんとその取り巻きから聞いて全て把握しています」
と、侯爵に訴えた。
とりあえず子爵家から金を引っ張るために私と結婚したのであって、真実愛するのは義妹のヘレナであって、私は名ばかりお飾り侯爵夫人となったけれども、子爵の令嬢が正式な侯爵家になったんだから、とりあえずは有り難がってろってことだね。
「それに、暇がないって言えば私だって暇がないんです。紅茶が捨てられる前に、早いところ買収を決めなくちゃならないんですから」
「どういうことなんだ?」
ようやっと自分を追って来たストーカーではないと判断した侯爵が、前のめりとなって私に問いかけてきた。ということで、私は今回、何故、イレネウ島まで行くことになったのか説明することにしたのだった。
「イレネウ島のオーナーって、本土の紅茶ブームに乗っていち早く、自分の島で紅茶の栽培を始めたところまでは先見の明がある。標高1800メートルのイルヴォ山に目をつけたところも流石だなって思ったんです。だけど、紅茶の栽培を標高の低いところでしかやらないし、挙げ句の果てには出来が悪いって言い出すし?ハイクオリティーの紅茶を作るなら標高四千フィート、つまりは標高1300メートル以上の高所で栽培しなくちゃ、味が落ちるっていうのに、そこで栽培しないで、失敗した、失敗したって言っているらしいんですよ」
私は思わずため息を吐き出した。
「紅茶の栽培は、ハイクオリティは四千フィート以上、ミディアムクオリティなら四千から二千、ロークオリティなら二千フィート以下っていうのは常識でしょう?だというのに、ロークオリティーしか出来ない!事業は失敗だって言って茶葉を捨てようとしているって言うからびっくりしちゃったんですよ!こんなおバカなオーナーには任せてはいられない!これは買収しちゃった方が早いのかなって思って、半年前に船の予約をしたんです」
「何故、船の予約を半年後にしたんだ?」
侯爵の質問に私は胸を張って答えた。
「私の専属の侍女がすっごい船酔いしやすいんで、船旅がなるべく短くなるようにするために、島行きを半年後に設定したんです」
「それで君が直接買い付けに行くわけか?」
「そうですね、私の名刺をお渡ししておきますよ」
私はそう言って、胸ポケットから出した名刺(実はこの世界には名刺というものがない。現在、うちの子爵家のみが使用をしている)を差し出した。
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