序
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ポルトゥーナ王国の国王は、正妃を含めて三人まで妃を娶ることが出来るように法律で決まっている。これは、隣国ナルビクとの戦争で王族の数が激減した際に作られた法律で、国王が複数の妃を娶ることで、王家の血を増やすことが求められるようになったのだ。
ポルトゥーナのフェルナンド王には十人の子供がおり、イザベルデは八番目の姫として第二側妃となったエリザベートから生まれた。
元々、ヴァールベリ王国のカール第二王子の元には、第一側妃マルガリータの娘であるヴィアンカ第六王女が嫁ぐはずだったのだが、親善大使としてカール王子が国を訪れた際に、
「私が結婚したい!私がカール王子と結婚するわ!お姉様とではなく、私と結婚するべきなのよ!」
と、イザベルデは我儘を言い出した。
イザベルデも、イザベルデの母であるエリザベートも、側妃のマルガリータが大嫌い。親も憎ければ子まで憎いとなった二人は、ヴィアンカ王女を隙あらば虐めるようなことを続けてきたし、彼女の持つものは全て奪い取るようなことをして来たのだった。
側妃マルガリータは何の政略もなく、王の思いだけで娶られた妃であり、彼女に大きな後ろ盾は何もない。正妃がとやかく言うようなこともなかった為、エリザベートとイザベルデ親子は好き勝手なことが出来たのだ。
ヴァールベリ王国の第二王子カールは、中性的な美しさと背徳感を感じるような色気を併せ持つ王子だった為、イザベルデとエリザベートが興味を持つのには十分な容姿をしていたし、元々、ヴィアンカの物は全て奪って来たのだから、婚約者を奪うのもまた、当たり前のように行われることになったのだ。
「私が結婚する!私がカール王子と結婚する!」
と、イザベルデが主張すれば、その母親であるエリザベートも娘を擁護するような形で、
「ヴァールベリ王国はポルトゥーナの属国とするために、陰で色々と動いているのは知っているのですよ?であるのなら、頼りないヴィアンカを送るよりも、イザベルデを送った方が有効に活用出来ますわよ」
と、フェルナンド王に囁いた。
この時、ヴィアンカ王女とカール王子は密かに愛を育んできたこともあって、激しく抵抗をしたのではあるが、イザベルデの母、エリザベートは広大な穀倉地帯を持つハプランス王国の姫君。ポルトゥーナ王国もヴァールベリ王国も、ハプランスから穀物の輸入をしている関係もあり、二人の訴えが聞き入れられることはなかったのだった。
「イザベルデ王女、あなたは大きな間違いをしておりますよ」
不敬にもイザベルデに対して直接物申して来たのは、カール王子の側近、ファレス・ヴァルストロムだった。
「他人から奪うことで得られる幸せは一瞬の物。その幸せを永遠のものとしたいのであれば、自らの意思で一から選び、努力した末に勝ち取らなければ意味がありません」
「あなたは随分見当違いのことを言っていますのね」
イザベルデは憤慨しながら言い出した。
「私はカール殿下にお会いした時に、一目惚れをしてしまったのです。私の意思でカール様を選び、努力をした末に妃の座を射止めましたのよ?」
イザベルデが努力をしたのは、ただ、母に向かってわがままを言った程度のこと。そのイザベルデの母であるエリザベートはマルガリータとその娘のヴィアンカが憎かった為に、カール王子を奪い取っただけのこと。
ヴィアンカとカール、二人を引き裂いてまで勝ち得たものがそれほど素晴らしいものとなるのだろうか?そう、ファレスは問いかけているのだが、イザベルデは目を閉じて耳を塞ぎ、何も聞かなかったことにしたのだった。
結局、麗しき花婿は花嫁であるイザベルデに対して、
「私が生涯、貴女を愛することはない」
と、宣言し、あくまでも義務として、夜伽を共にしたのは結婚式を終えた夜の一度だけ。
「貴女の我儘によってこの結婚が決められたという話は聞いております」
姑となった王妃は、憂いを含んだ眼差しでイザベルデを見つめて来た。まるで問題児を見るような眼差しに、イザベルデの心は大きく軋み始めている。王妃はイザベルデと同じように他国から嫁いで来た身であるため、イザベルデにそれなりに気遣いを見せてはいたものの、やはり実の母と同じようにいく訳がない。
幸いにもすぐに子供を身籠ったイザベルデは、ヴァールベリ王国の妃としての教育も中途半端に投げ出すことに成功したが、
「ああ・・そうだ・・あいつをまずは殺してしまおう」
と、ヴァールベリ王国に嫁いでまだ半年も経たぬうちに、ファレスの殺害を計画するようになるのだった。
ファレスの殺害には大きく関わった、便利な手駒として良く働いてくれたレベッカだったけれど、
「妃殿下には貸しを一つ返して頂きたく思います」
と、言い出した時には激しい苛立ちを覚えたものだった。
ヴィキャンデル公爵家の結婚披露宴に横槍を入れるのは、今のイザベルデには簡単なことだけれど、誰かに命じられて何かをやるということ自体が気に食わない。
その日は四歳になる息子を膝の上に乗せながら庭園で紅茶を楽しんでいたイザベルデは、
「妃殿下、どうやらレベッカ夫人の死刑は決定となりそうです」
と、慌てた様子で侍女頭が声をかけてきた為、思わずため息を吐き出した。
「だから何?侯爵家の嫡男を殺しているのだもの、死刑は妥当だと思うのだけれど?」
「ですが・・本当に大丈夫なのでしょうか?」
ここに来て、ポルトゥーナ王国の手先となって動いていたレックバリー子爵家とオーケルマン伯爵家にヴァールベリ王国の査察が入るようになったのだ。
「そちらはすでに切り捨てているから大丈夫よ」
イザベルデは艶やかな笑みを浮かべながら言い出した。
「すでに手を打っているの、本国ではお母様も動き出しているし何も問題はないわよ」
そう言って、息子の為に開いていた絵本のページにイザベルデは視線を戻したのだった。
続いてイザベルデ編 開始となりました!!
G Wに突入し、物価高と光熱費上昇によって、外には出ずに家でのんびりしようか〜という方も楽しめるように、毎日更新で進めております。ここから一話更新となりますが、お楽しみ頂ければ幸いです!!またジャンルは違うのですが『緑禍』というサスペンスものも掲載しておりまして、ただいま佳境にさしかかっております。そちらも楽しんで頂ければ幸いです!!
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