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第二十三話  他人事ではない

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「皆さん!これは決して他人事ではないのです!」

 これはヴァルストロム侯爵家に起きた個人的な話では決してないのだ。


「レベッカ夫人は元々はオーケルマン伯爵と婚姻していたということは、ヴァールベリ王国の貴族なら誰もが知っていることと思います。何故、オーケルマン伯爵は夫人と離婚してまで新しい恋を選んだのか?そもそもその恋は本物の恋だったのか?」


 レベッカ夫人が真実の愛とやらの為に夫に捨てられたのは有名な話だった為、招待客のざわめきが大きくなっていく。


「オーケルマン伯爵が真実の愛の相手だと言って、妻を捨ててまで手に入れたのはカティア・リリエベル子爵令嬢でした。伯爵家当主が子爵家の令嬢を熱烈に愛したが為に、妻を捨てて令嬢を娶った。その令嬢の家が所有する領地では鉄鉱山が発見されて、採掘された鉱物が我が国の監視の目を潜り抜ける形でポルトゥーナ王国に流れているのを知っていますか?」


 これが、我々がイレネウ島から帰還後に探り当てた大きな真実。


「リリエベル子爵家の当主が病で亡くなり、庶子扱いだった弟に当主交代をしているのを知っていますか?その新たなる当主となった男が、実はポルトゥーナ王国の間諜だったのを、この中の誰が知っているのでしょうか?知っていたとしたら、それはポルトゥーナ王国に関わりのある人間に他ならない!」


「そ・・それは・・まずいじゃないか!ポルトゥーナ王国が貴国から大量の鉄鋼を輸入しているのだとしたら、それは戦争の準備をしているのに違いない!」

 ナルビク侯国の太った大臣が椅子を蹴倒して立ち上がりながら言い出した為、私は大きく頷いて答えた。


「そうです!だからこそ!今!この場で!国の存在を揺るがしかねない、この大きな問題を明るみにさせて頂いたのです!」


 私は未だに隙あれば逃げ出そうとする妻の腰を引き寄せて言い出した。

「敵は非常に巧妙です。オーケルマン伯爵がポルトゥーナ側の人間だとしたなら、離縁されたレベッカ夫人もまたポルトゥーナ側の人間です。そもそも夫人の生家である子爵家は、先代の時代に外交官としてポルトゥーナと深い関わりを持っていたのです」


 今、現在、オーケルマン伯爵家とレックバリー子爵家には役人と警邏の人間が調査に入っているはずだ。


「奴らは何処に潜伏しているか分かりません。麻薬によって得た豊富な資金力を持ち、何でも金で動かそうとしてきますし、その麻薬を使って人心を巧みに操作するのです」


 そうして、見上げるほどに巨大な、両国の象徴とも言えるオブジェを見上げながら私は宣言をした。

「この風船オブジェは私の妻のグレタが、両国が今こそ結束しなければならないという意志を込めて作り出したものなのです!」


 私は顔を引き攣らせている妻を見下ろして、満面の笑顔を浮かべながら言い出した。


「これからは両国が互いに手を結び協力をしなければならない!卑劣な行いをする敵を互いに手を取りながら駆逐しよう!その意思が、この二つのオブジェには込められているのです!」


 妻は微かに首を横に振っているが、あえて無視をすることに決める。

「私の兄は、そこに居る女の姑息な手段によってミディ中毒となって死にました」

 すでにレベッカは兵士に捕えられ、両手を拘束されて猿轡まで噛まされていた。


「敵が一体どこで麻薬を使って来るのかが分からない。ミディは抗不安薬としても用いられていただけあって、少量であれば体への負担も軽い。ほんの少量ずつ、食事などに加えられていたとしても、気づくことは本当に難しいのです。だからこそ、私と妻はこれ以上麻薬患者による悲劇が起こらぬようにするために、イレネウ島で麻薬症状の改善に特化した茶の栽培を始めたのです!」


 そこでオスカル殿下が合図をすると、パッケージしたお茶のセットと、箱詰めされたサヴァランのセットが給仕の人間によって招待客に配られる。


「皆に聞いて欲しい!」


 オスカル殿下の言葉に、皆の視線が集中する。

「我が国の研究機関の検査によって、イレネウ島の茶には麻薬に特化した解毒作用があるということが判明した。健康な者が飲んでも何の問題もない、代謝を促し、より健康を促進する作用があるとされている。また、少しでもミディの脅威に自分の体が晒されていた場合は、紅茶を含んだ際に、口中の苦味が取れて爽やかさを感じたはずなのだ」


 殿下は招待客を睥睨しながら言い出した。


「今言ったように、敵が何処に潜伏しているのかは分からない。侯爵が言っていた通り、いつの間にか自分や家族が標的となって攻撃を受けている場合も多い。だからこそ、不安がある者は今配ったロムーナ茶を試して欲しい。サヴァラン(焼き菓子)にも解毒作用がある紅茶が含まれているので、大事な人と是非とも分け合って食べて欲しい。そうして、何か困ることがあれば、すぐに私に相談して欲しい。我々は狡猾な敵に立ち向かう為にも、互いが助け合わなければならないのだから」


 オスカル殿下の言葉が終わると、本日の花婿であるハラルド・ファーゲルランが楽団に指示を出して演奏が始まる。それは結婚を祝うポピュラーな曲であり、誰もが知っている馴染みの曲でもあった。


「殿下からの頼り甲斐あるお言葉、まことに有難うございます!」

 ヴィクトリアをエスコートしたハラルドは、豪胆にも今までの雰囲気をぶち壊す勢いで恭しく殿下に辞儀をすると、

「侯爵、貴重なロムーナ茶とサヴァランを用意してくれて有難う。我が国としてもロムーナ茶には非常に興味があるので、今後の購入についても後ほど相談をさせて頂きたい」

 と、こちらの方を向いたハラルドは、茶目っ気たっぷりにウィンクをしながら言い出した。


 ここでウィンクをする肝の太さが凄すぎる。さすが、ヴィクトリア嬢を妻にするために、直接オルランディ帝国まで赴いて、皇帝に直訴する男なだけあると言えるだろう。


「今日の披露宴パーティーは、何処かのレディが自分のアイデアだと吹聴していたようなのだが、この素晴らしいパーティーを企画して、準備の為に奔走してくれたのは間違いなく、グレタ・ヴァルストロム侯爵夫人であると我々は宣言しよう!夫人はこの素晴らしいパーティーを成功させるために、身動きが取りづらいドレスを脱いで、麗しきスーツを着用してまで奔走をしてくれたのだ。この素晴らしいパーティーを有り難う!皆さん、夫人に拍手を送りましょう!」


 ハラルドの側近達は、あっという間にグルームズマン(花婿付き添い人)として有能な働きを見せたと話に聞いてはいたが、ハラルド自身、場を仕切るのに卓越した力を持っているようだ。


 妻に向けられるたくさんの拍手を受けて、私と妻は揃って観衆に向けて辞儀をした。

 後から人に聞いた話だが、トラウザーズ姿の妻と、軍服を着用していた私たちが辞儀をした時には、まるで舞台の一場面が終了したように招待客達は感じたのだという。


 そうして、ここではじめて、新郎新婦は皆の前でダンスを披露した。新郎新婦の後には付き添い人達がダンスをして、その後にカップル達がこぞってダンスを始める。


 ダンスをしたり、お酒を飲んだり、好きな時に好きなものを食べて、思い思いにお喋りをする。いつもの披露宴パーティーがここでようやく始まったということになるのだが、今起こった断罪劇の刺激が残ったままの状態だった為、皆が話に花を咲かせ続けたのは間違いない。


 本当なら、今起こったことを親族達と共有するために、すぐにも会場を後にしたいところだったのだろうが、

『ここで席を立ったら花嫁が悲しむだろう?』

 という公爵と花婿の無言の圧力によって、それが叶うことはなかったのだが。


G Wに突入し、物価高と光熱費上昇によって、外には出ずに家でのんびりしようか〜という方も楽しめるように、毎日二話更新で進めていきます。またジャンルは違うのですが『緑禍』というサスペンスものも掲載しておりまして、ただいま佳境にさしかかっております。そちらも楽しんで頂ければ幸いです!!

サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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