表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/113

第二十二話  それだけでは終わらない

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 私、ステラン・ヴァルストロムは空いた時間を利用して、妻が滞在しているというヴィキャンデル公爵邸を訪れたのだが、

「ちょっと遅かったね、彼女はもう行ってしまったよ」

 と、同情を露わにした公爵に出迎えられることになったのだった。


 なにしろ、僅かの時間で今までとはまるで違った披露宴パーティーを行うとあって、公爵家の中も混乱状態となってはいたのだが、総責任者となったグレタはあっちこっちに飛び回っているような状態で、全く捕まえることが出来ずに居たわけだ。


「君の妻が飛び回っているのには私の娘が原因でもある。それにしても、君の妻は変わっているし、優秀すぎるほどに優秀だ」

 公爵はシガールームに私を案内すると、優雅にソファに座って葉巻の煙を吐き出しながら言い出した。


「それこそ、君が噂通りに離婚をするのなら、うちの親族の中で優秀な者を見繕って結婚相手にしてしまおうかと考える程度には優秀だよ」

「私は絶対に離婚しません」

 向かい側のソファに座った私は、目の前に置かれた珈琲を飲みながらもう一度言った。

「私は、絶対に、離婚しません」

 公爵は大きなため息を吐き出すと、

「それで?人払いをしたが、一体私に何の話があると言うのだね?」

 と、問いかけて来たのだった。


 これは結婚披露宴の八日前のことであり、私はこれからオスカル殿下の後ろ盾となる公爵と腹を割って話をしなければならなかった。


 私は公爵に対して、王家から購入したイレネウ島がポルトゥーナ王国に籍を置く商船によって麻薬の汚染が進み、非常に深刻な状態にまで陥ったこと。安陽国をミディという麻薬漬けにした上で侵略戦争を仕掛けようという論調が進んでいるが、実際問題、我が国自体が麻薬に汚染されている恐れがあるという話をした後で、

「実は、私の兄は病で亡くなったということにはなっているのですが、本当はミディ中毒によって亡くなったのです」

 侯爵家の秘密を打ち明けたのだった。


「次期当主が麻薬中毒などということが公となれば、我が家への打撃は相当に大きなものとなるため、今まで極秘としていたのです」

 そこで公爵は驚きで目を見開くと言い出した。

「君の兄君となるファレス殿は元々、体が強い方ではなかったゆえ、流行病で亡くなったものと思い込んでいた」


「我が兄の死の真相が公爵であり、極秘の情報網を持つ貴方様にも伝わることはなかった。本来なら、使用人伝で広がってもおかしくないところを、こと、麻薬関連については驚くほどに広がらない」


「裏にポルトゥーナ王国が絡んでいるからか・・」


 イザベルデ妃が輿入れしてからというもの、この国は徐々に徐々に、おかしな方向へ舵切りをしているような状態だった。その裏に何かが関わっているのだとすれば、海を挟んだロトワ大陸西岸にあるポルトゥーナ王国に他ならない。


「これは我々ヴァールベリ王国だけでなく、ポルトゥーナの隣国ナルビク侯国にも関わる話なのではないかと思うのです」

 実際にベルダとアルメンの両国は麻薬を間に挟んだ戦いで滅びる結果となったのだ。深刻な被害がこれ以上広がる前に、終止符を打つ必要が必ずある。


「公爵様、令嬢の披露宴パーティーはまさに格好の機会と言えるでしょう。祝いの場を汚す行為のようで本当に申し訳ないのだが、両国の国家存亡の危機でもあることを知って貰う機会として貰いたい。どうかご理解いただけないだろうか?」


 オスカル第一王子とか、カール第二王子とか、誰が王位を継承するかで争っているというだけの話では無くなっているのだ。これは国の存亡を賭けた戦いの序幕に過ぎない、相手が一歩も二歩も先を行くというのなら、こちらは駆け足となってでも追い越さなければならないのだから。



 殿下から名前を呼ばれた令嬢のうち、一人はその場で失神してしまったようだが、その場で公爵家の者たちが身柄を拘束していく。私の妻であるグレタに暴力を振るったというのも大いに問題となるが、ここは公爵主催のパーティーなのだ。会場の設営や披露宴の内容に自分が関わったなどという嘘を言うことは、公爵家に対する不敬にもなる。


「お兄様!お兄様は私を愛しているのでしょう!お兄様!」

 侍従達に連れて行かれる中、最後までヘレナは叫び声を上げていた為、招待客の視線が私の方へと集中する。そこで、私は妻をエスコートしながら群衆の前へと進み出る。


 このままでいけば、私と義妹ヘレナと正妻グレタとの三角関係に公爵家が巻き込まれたという形になってしまうだろう。下衆な眼差しを送ってくる輩が何人もいるが、私は胸を張って言い出した。


「本日、このような祝いの場で、このような醜態を晒す結果となったことに対して、私から謝罪申し上げます。ですが、実はこの義妹ヘレナと義母レベッカの悪意の行動は、ポルトゥーナ王国が絡んでのことと判明しましたので、今、この場にいる皆様と危機意識を共有するために、あえてこの場で断罪をさせて頂きます」


 私は妻の手を握りながら大きな声を張り上げた。

「レベッカ夫人、貴女はアンデルバル公爵のサロンで私の兄であるファレスに接近し、言葉巧みに誘い出したうえで、気分が良くなるからと言って麻薬であるミディを勧めましたね」

 レベッカの両脇にはすでに二人の近衛が立っており、彼女が逃亡しないように両肩を押さえつけている。


「レベッカ夫人、貴女は私の兄を麻薬中毒にした上で、私の父の元へ、もしかしたら兄が麻薬中毒なのではないかと進言しに行きましたね。すでに前後不覚状態となった兄と、嫡男が中毒患者となって大いに心傷ついた父を言葉巧みに唆し、最終的にはミディを大量に投与した上で兄を殺害。まんまと父の後妻として貴女は侯爵家に潜り込んだ」


 レベッカの周囲に座る夫人達が、怯えたように立ち上がる。そこで給仕の者が別のテーブルへと案内したため、そのテーブルにはレベッカ一人が座る形となったのだ。


「貴女は私と娘のヘレナを結婚させることで、ヴァルストロム侯爵家を乗っ取るところまで考えた。娘の夫が不幸の死を遂げれば、娘の腹の中の子供が次期当主となるのは決まったもの。腹の中の子供は別に私の子供でなくても、髪と目の色が一緒であればいくらでも誤魔化せる。何しろ我が侯爵家は曽祖父の時代から軍部と深い関わりがあったから、我が家の力が欲しかった」


 我が国を占領をするのなら軍部の掌握は絶対だ。


「貴女は私の親族達に金をばら撒いた上で、地ならしは終えたようなものだった。私はグレタと結婚したが、この汚れた花嫁衣装からも分かるとおり、暴力を振るった上で殺すつもりだったのか?それとも麻薬漬けにした上で殺すつもりだったのか?」


「嘘よ!嘘よ!嘘よ!」

 レベッカは大声を上げて叫び出した。

「そんなの嘘よ!全部作り話!何処に証拠があるって言うのよ!」

「証拠なら今すぐ用意をしてやろう」


 私の合図を受けて、年老いた男と痩せた女を秘書のウルリックが連れてきた。

「皆さん、この者達は兄の面倒を死ぬまで見ていた当家の医者と、兄の乳母にあたる者です。もちろん、彼らは兄が麻薬中毒患者だったということは知っていた。それも、病床で死ぬまで麻薬を与え続けた者達です」

 この二人が生き残っていたのは僥倖だったのだ、死んだものと思っていたらしいレベッカの顔が凄いことになっている。


「お前達は誰に命じられて兄が死ぬまでミディを与えたんだ?」

「そ・・それは・・奥様です」

「奥様に言われてやりました」

「それで、お前らはレベッカから大金を貰ったのだろう?」


 二人は首を横に振りながら震え声で訴える。

「金なんて、そう言っていただけで、すぐに殺されそうになりましたし」

「逃げるのに精一杯で、そんな・・」

 観衆の前に引き出された二人は座り込んだまま、そう言って項垂れたのだ。



G Wに突入し、物価高と光熱費上昇によって、外には出ずに家でのんびりしようか〜という方も楽しめるように、毎日二話更新で進めていきます。またジャンルは違うのですが『緑禍』というサスペンスものも掲載しておりまして、ただいま佳境にさしかかっております。そちらも楽しんで頂ければ幸いです!!

サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ