第十九話 奇妙なパーティー
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戦争への議論は加熱の一途を辿り、議員の根回しのために陰ながら動いていたレベッカが夜も遅くなってから家に帰ると、娘のヘレナが二通の招待状をレベッカに差し出して来たのだった。
「ヴィクトリア公爵令嬢が私たちに招待状を出すなんて・・」
ヴィキャンデル公爵家は今の王が王位を継承する際に深く関わったことから、二人の王子の継承争いについては関わらない。その為、令嬢の披露宴パーティーに招待されるのは公爵の親族や派閥の人間に限られるのだろうと思っていたのだが、
「是非ともお母様と一緒に参加くださいと書かれているのよ!」
潤んだ眼差しで自分を見上げるヘレナを見下ろして、レベッカは大きなため息を吐き出した。
心情としては招待状を無視をして、披露宴パーティーを欠席してしまいたい。正式にヴァルストロム侯爵家の籍から抜けてしまった今では、自分たちの一挙手一投足全てが、レベッカの生家でもあるレックベリー子爵家に影響を与えることになるからだ。
子爵家に影響を与えるからこそ、絶対に欠席をすることなど出来やしない。せっかくの招待を無下に断ることで相手側の顔に泥を塗り、これ以上の悪印象を持たれることとなったなら目も当てられない。
「大丈夫よお母様!私とヴィクトリア様はお友達ですし直々にお声も掛けて頂いたのよ!それに、自分の披露宴パーティーには仲の良いお友達を招待したいと思うものじゃないですか!」
ヘレナは嬉しそうにドレスの準備をしていたが、お友達だろうが、お友達じゃなかろうが、パーティーへの参加は決定だ。
公爵令嬢の披露宴パーティーの日はあっという間にやってきた。美しいドレスを身に纏った二人がパーティー会場を訪れたところ、エントランスに設けられた巨大な風船の門を見上げて、あんぐりと口を開けることになったのだ。
前回は風船のトンネルで、あれもあれで相当凄かったのだが、今回は風船の門の先に用意された見上げるほどのオブジェに驚愕することになったのだ。
ナルビク侯国の国旗に掲げられた動物は鷹、ヴァールベリ王国ではライオンになる。風船で作られた巨大な鷹とライオンが飾られているのだが、その間には両国の花で彩ったテーブルが置かれて、今まで見たこともない高さのケーキが用意されている。そのケーキのてっぺんにも小さな両国の旗が刺さっていることからも分かる通り、公爵家としてはナルビクとヴァールベリ両国の国交の親密さを招待客に主張したいと考えているのだろう。
イザベルデ妃が輿入れして以降、王国はポルトゥーナ王国寄りの政治方針をとっており、ナルビク侯国とは疎遠になりがちではあったのだ。自分の娘が侯国に輿入れすることを良い機会として、アピールする場にしようとしているのだろう。
「全ては無駄なことだとは思うけれど・・帰ったら早速、イザベルデ妃様に報告しなくちゃいけないわね」
そう心の中でレベッカは呟きながら、パーティーの開始の合図を待つこととなった。すると、最初にヴィキャンデル公爵の挨拶があり、次にナルビク侯国からわざわざやってきた三人の大臣の挨拶。乾杯の挨拶、新郎新婦によるグルームズマンとブライドメイドの紹介。グルームズマンによる風船オブジェの説明、運ばれてくる両国の料理の説明。挨拶・挨拶・説明・説明・説明と、あまりにも普通の披露宴パーティーの流れから逸脱しているのだ。思わず周囲を見回してみれば、招待客たちは食事に舌鼓を打ち、説明や挨拶に相槌を打ちながら楽しそうにしている。
一通りの食事が終わったところで(披露宴パーティーでコース料理形式なのもまた異例中の異例だったのだ。普通は即座に談笑、ダンス、談笑、ダンス、ダンスで、食事もアルコールも、皆がそれぞれ好きな時に食べるので、晩餐をしているのと同じ感覚で食事をとることはない)新郎新婦によるケーキカットが行われた。
何でも新郎が新婦に対して一生食べ物には困らせないと誓う儀式のようで(ナルビク人はヴァールベリ王国って面白い儀式があるのね〜と思ったし、ヴァールベリ人はナルビク侯国って面白い儀式があるのね〜と皆が思っていた)二人でカットしたケーキは用意された純白の皿に載せられると、皆の前で新郎が新婦に手ずから食べさせるというパフォーマンスが披露されたのだった。
その後、招待客の前にはサヴァラン(タクラマ神聖語であなたを愛していますという意味)のフルーツとクリームで彩られた、紅茶のシロップに濡れた焼き菓子が振る舞われ、新婦が大好きなオレンジ風味のフルーツティーに皆が驚きで目を見開き、そうしているうちに幸せのお裾分けということで、新郎と新婦がケーキカットした巨大なケーキが料理人によって切り分けられて、招待客へと振る舞われる。
「まあ!次は花束贈呈ですって!」
花束贈呈とは、一体、誰に贈呈するというのか?招待客は次に一体何が起こるのか分からず、ワクワクしているのが良く分かる。
「ええ、私はヴィクトリア様とはお友達だから、このパーティーについても色々とアドバイスはさせて頂きましたのよ」
親族席以外は年齢でテーブルを分けられているようで、レベッカは娘のヘレナとはわかれて、老婦人半分、同じ年代の婦人半分という席に座らされていたのだった。ヘレナは、特別仲が良い令嬢たちと同じテーブルだったことから、ヴィクトリア嬢が配慮したのだろうと考えたのだが・・
「あの娘ったら!また!」
あまりの怒りに、レベッカは持って来た扇子を中央からへし折りそうになってしまった。
ステランの結婚式で、あの奇妙でキテレツで呆れるほど豪快なパーティー会場を自分が兄の為に用意したなどと嘯いて、窮地に陥ったばかりだというのに、舌の根も乾かぬうちに、また調子に乗ったことを友人相手に話して盛り上がっているらしい。
『お父様、お母様、今まで私をまばゆいほどの愛で育ててくれてありがとうございます・・』
どうやら新郎新婦による花束贈呈が始まったようなのだが、そんなことを気にしている場合ではない。今すぐ娘の口を塞いで、飛んで家に帰りたいとレベッカは思ったが、
『あの時、悩んでいた私をお母様はこう励ましてくださいましたね。そしてお父様はあの時、何も言わずに私の肩を優しく撫でてくれました。あの時の優しさは、終生忘れないと言えましょう・・』
なかなか新婦の手紙とやらが終わらない。
周囲の老婦人は新婦の手紙に感極まって泣いている人もいたのだが、そうじゃない、そうじゃない。感謝の言葉は個人的に送ってもらう形として、さっさとこの奇妙でキテレツでおかしな会を終わりにして欲しい。
最初、巨大な両国のシンボルを形作ったオブジェを見上げた時には、これは披露宴パーティーを隠れ蓑とした両国の決起集会なのだと思ったし、早速、ポルトゥーナ側に報告をしなければとレベッカは思っていたのだが、蓋を開けてみれば、決起して一致団結することもなく、両親への感謝の言葉で披露宴のメインイベントは終了しようとしているようだ。
これ以上、ヘレナが余計なことを言わないうちに、早く終われ!早く終われ!と、レベッカがひたすら念じていると、
「結婚おめでとう!ヴィクトリア嬢の感謝の手紙に私も思わず心を打たれてしまったよ!」
一人、拍手をしながらヴァールベリ王国の第一王子であるオスカル殿下が舞台に登場したのだった。
G Wに突入し、物価高と光熱費上昇によって、外には出ずに家でのんびりしようか〜という方も楽しめるように、毎日二話更新で進めていきます。またジャンルは違うのですが『緑禍』というサスペンスものも掲載しておりまして、ただいま佳境にさしかかっております。そちらも楽しんで頂ければ幸いです!!
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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