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第十八話  新しい披露宴

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ヴィキャンデル公爵は、第二王子妃となったイザベルデ妃殿下が大嫌いだった。

「イザベルデは他国から嫁いだので、我が国の慣習になれないのは仕方がないこと。私も帝国から嫁いだ時にはそれなりに苦労をしたものです。皆にも温かな目で見守ってもらいたい」

 と、王妃様が言い出すものだから、イザベルデ妃の教育は遅々として進まぬまま終わり、彼女はヴァールベリの王宮で『ポルトゥーナ王国方式』を貫き通しているのだった。


 他国に嫁いで心寂しい思いをしているのだから、皆には配慮をして欲しい。そんなことを言いながらあっという間に二年の月日が流れて、第二王子妃は我が物顔で王宮の中を歩くようになったのだ。


 イザベルデ妃が王国に持ち込んだ『茶の文化』は多くの貴族を魅了したが、紅茶に傾倒すればするほど『ポルトゥーナ王国の方が正しいのだ』と言い出す人間が増えてくる。ここはヴァールベリ王国だというのに、ポルトゥーナ王国の方が正義だとするのなら、我が国の品位はどうなってしまうというのだろうか?


 苛立ちが溢れてくる中、遂には娘の結婚にまでも口を出してきた。イザベルデ妃としては、ナルビク侯国寄りの人間は排除したい。ヴィキャンデル公爵家の正夫人はナルビク侯国から輿入れした姫だが、その娘を侯国に輿入れさせることで、より親密な関係性を構築されては困るから。


 頭に来るにも程がある。

 そちらがそういうつもりなのであれば、こちらだって相応の動きを見せてやろう。


 娘のヴィクトリアは披露宴会場では『バルーンアート』を全面に押し出すと言い出したのだが、この度、グレタ夫人が試作品として持ってきた風船アートを見て、公爵は雷が落ちたような天啓を受けることとなったのだ。


 これは使える、ナルビクとヴァールベリ両国の国交がより確かなものだとアピールするのに『バルーンアート』は使える!


 自らバルーンアートの制作指揮に乗り出した公爵は、グレタ夫人の協力を経て、壮大な作品を完成させることが出来たのだ。会場となるのは公爵家の庭園となるのだが、そこには優雅に翼を広げる鷹と咆哮するライオンの風船オブジェが作り上げられたのだ。


 ナルビク侯国の国旗の中央には勇ましい鷹が、ヴァールベリ王国の国旗の中央にはライオンが咆哮する姿が描かれる。鷹の羽の部分にはもちろん茶色の風船が使われているのだが、グラデーションをつけるために上から絵の具を塗りつけるほどの凝りようだ。嘴のカーブを作るのが一番苦労したところで、これにはグレタ夫人と風船職人が不眠不休となって尽力してくれた。



 ヴァルストロウム侯爵家の披露宴会場は、風船のトンネルに風船のお城でファンシーで可愛いが正義の出来栄えだったが、

「「「あっちの方が遥かに楽だった・・」」」

 と、バルーンアートに関わった職人だけでなく、ストーン商会のすべての人間が言い出した。


 公爵の拘りが入った時点で一切の可愛いはなくなり、見上げるほどに大きな鷹とライオンに全力を傾けた力作となったが為に、ファンシーな風船のトンネルなどは作らない。一応、入り口に両国の色である緑と赤を彩った風船の門を作っただけ。それでも来場者は巨大な風船の門に驚きの声をあげていた。


 とにかく、鷹とライオンが凄かった。その鷹とライオンの周囲を取り囲むように両国の旗が高々と掲げられ、まるで共同戦線を張った両国がこれから敵地に乗り込むかのような威風堂々たる姿を見せている。


 そのライオンと鷹に挟まれる形で置かれた長卓にはケーキのスポンジを積み上げてクリームが塗られた塔のようなケーキが置かれ、ヴァールベリ王国の国の花である真紅の薔薇と、ナルビク侯国の国の花である緑の葉が色濃いゼラニウムの花が飾り付けられていた。


 見上げる高さの風船オブジェは威風堂々としているものの、招待客が座るように用意されたテーブルは披露宴パーティーでいつも用意されるような見慣れたものだった為、

「ここは普通なのね」

 と、白髪をきれいにまとめた老婦人が、ホッとため息を吐き出しながら案内された椅子に腰をかけたのだが、

「あら、何かしら?」

 テーブルの上には自分の名前が記されたカードが置かれている。


 そのカードは新婦自らが用意したもののようで、五歳の時に夫人に初めてお会いした時にはこれほど綺麗な人は見たことがないと思ったこと。今日は楽しんで欲しいということが書かれていた。


「まあ!メッセージカードなのね!」

 老婦人はなんとなく隣に座る嫁の方を見ると、嫁も同じようにメッセージカードを手に取って、うっすらとその瞳に涙を浮かべている。


「何が書いてあったの?」

 と、老婦人が問いかけると、

「私がヴィクトリア様に作ってあげたクッキーについて書かれていたのです」

 と、嫁は嬉しそうに答えた。


 結婚をした花嫁は招待客に対してお礼状を書くのは当たり前のこととなるのだが、テーブルの上に置かれたメッセージカードは定型文でも何でもない。花嫁が全ての招待客に宛てた個人的なものであるらしい。


 それは老婦人が考える以上に心温まるもののようで、皆がほっこりとした笑顔を浮かべて、書かれたカードの内容について話に花を咲かせている。


「今日はハラルド・ファーゲルラン、ヴィクトリア・ヴィキャンデル両名の披露宴のパーティーにご参加いただきありがとうございます」


 テーブルに回って来たのがグレーの上等な布で仕立てたスワローテールコート、絹サテンに花模様を織り出したウェストコート、足がスラリと長く見えるデザインのトラウザーズを着た若者で、緑色のネッカチーフをしているのでナルビク侯国の人間なのだろう。


「私はグルームズマン、花婿の付き添い人となるエルゲン・ラングヘーレと申します。この度は披露宴の司会進行をお手伝いすることにもなっております」

 エルゲンは顔立ちがとても整った若者だった為、辞儀の一つにやたらと花がある。


「これから新郎新婦が入場となり、皆様のテーブルまで挨拶に回ることとなりますが、お時間が限られている関係で、お一人、お一人にお声をかける時間がございません。そのため、皆様の前には新婦からのメッセージカードをご用意させて頂きました」


 そう説明してエルゲンが指示を出すと、給仕の者たちが花びらが入った小さな籠を全員に渡していく。


「こちらの花びらは、皆様の祝福の気持ちを表すアイテムでございます。新郎新婦がこのテーブルまでいらっしゃいましたら、花びらを撒いて出迎えてください。皆様からフラワーシャワーを受けた二人の幸せは約束されたものとなるでしょう」


 老婦人は花びらの籠を受け取って、ふむと言いながら小さく頷いた。フラワーシャワーは田舎の教会でやることも多いけれど、ナルビク侯国では高貴な身分の者もするのかもしれない。


「花婿の付き添いであるグルームズマンの私たちはグレーの衣装を着ております、花嫁の付き添いであるブライドメイドはグレーのドレスを着ております。新郎新婦に何か御用がある際など、声をかけて頂ければ幸いにございます」


 見回してみれば、エルゲンと同じような衣装を着ている若者たちが同じようにテーブルを回っているし、ブライドメイドとエルゲンが言ったように、グレーのドレスを身に纏ったレディたちもまた、同じように説明に回っていた。


 グルームズマンはシックで上品なスーツを身につけ、ブライドメイドはミモレ丈でありながら決して下品にはならず、可憐な花の妖精のようなグレーのドレスを身に纏う。付き添い人たちは皆お揃いの衣装を着ているため、特別感を醸し出しているのだが、

「あのドレス!可愛い!私も欲しい!」

 と、隣で孫娘が興奮の声をあげている。


「まあ!何て新しい披露宴パーティーなんでしょう!」

 老婦人は驚きの声をあげながら、新しい風を感じていたのだった。


G Wに突入し、物価高と光熱費上昇によって、外には出ずに家でのんびりしようか〜という方も楽しめるように、毎日二話更新で進めていきます。またジャンルは違うのですが『緑禍』というサスペンスものも掲載しておりまして、ただいま佳境にさしかかっております。そちらも楽しんで頂ければ幸いです!!

サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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