第十四話 仕事に逃げる
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前世では婚活の荒波を乗り越えられず、最終的には暴走タクシーに轢かれて未婚のまま死んでしまった私、グレタは、
「またか・・」
と、前世で散々吐き出した言葉を、また、吐き出しているという次第です。
正直に言って、ヴィキャンデル公爵が慣例を破ってオスカル第一王子につくとか、そんなことはどうでも良い。王国の継承争いとかそんなもの、本当の本当に私には何の関係もないもんね。侯爵様はバリバリの第一王子派みたいだけれど、うちの実家である子爵家は中立派だもん。関係ないもん、そうだもん。
それよりも、最後の最後まで引っ掛かっていたのが、侯爵様の煮え切らぬ態度よ!散々、私に対して甘々の声を掛け、手を出し、拘束し、今までベッタリとくっついていたというのに、帰ってきたらほら見たことか!
義妹のヘレナ嬢は侯爵家の籍から完全に外して、本邸から別邸に住まいを移した?それってきちんと結婚出来るようにするために、一旦、籍を外して立場を明確にしたところで、改めて私(正式な妻であるグレタ)と離婚をした後に再婚しようという気、満々という奴でしょう!
過去(前世)にも居たよ、居た、居た。俺が好きなのはお前なんだ、一番好きなのはお前なんだ、お前が居なければやっていけない、生きていけないと、ご大層なことを言いながら、
「ごめん、彼女に気付かれたみたいだから、もう会えない」
とか言い出す奴!
本命はいつだって何処かの誰かで、いつだって私は選ばれない。
「お前はしっかりしているから」
「あいつには俺が居ないと駄目だから」
「お前は一人でも大丈夫だろ?」
クソが、本当にこの世の中にはクソみたいな男しか存在しないのか。何故、一瞬とはいえ忘れていたのだろうか?新婚ごっこに本気になりかけていたとでも?アホらしい、どこの世界に転生しようと、世の中の真理はそう変わることはない。何故、忘れかけていたのか?バカなのか?
「お・・お嬢様!お嬢様!どうされたのですか?」
公爵令嬢の訪問を終えた私は一旦、着替えのために部屋へと戻ったんだけど、私を出迎えたアンネが、慌てて私の元へと駆け寄ると、
「お嬢様がここまで号泣するだなんて!公爵令嬢の攻撃はそこまで鋭いものだったんですか?だったらお部屋まで付いて行けば良かったです!」
と、デバガメ感丸出しのことを言いながら、涙で濡れた私の顔をゴシゴシと持っていたフキンで拭き始めた。どうしてフキン?そこはハンカチなんじゃないの?
「お嬢様!大丈夫ですよ!このフキンはまだ一回も使っていない新品ですから!」
そうじゃない、そうじゃない。
「お嬢様、侯爵夫人なんてもの、嫌になったらやめれば良いんです!私はいつだってお嬢様を応援していますから!きっと旦那さまも許してくれますとも!」
アンネは私の顔をゴシゴシ拭きながら言い出した。
「そもそも、侯爵様は色味は地味でも、容姿が淡麗過ぎて地位もあるような方でしたから、女性からの人気もそれは凄いものだったのです。そんな方の奥方となったお嬢様に、妬み嫉みやっかみ恨みが見上げるほどの高さまで積み上がるのは当たり前のことですし、公爵令嬢様の攻撃が泣くほどの鋭さを増していたとしても、それは当たり前のことだと思うのです」
「アンネ、ヴィクトリア様は私に対して決して攻撃的ではなかったのだけれど?」
「だったら、真実愛する相手との今後の未来についてでも話し合われることになったのですか?」
アンネは昨日、自らストーン商会にまで顔を出しているので、不在中の王都の噂などをある程度仕入れてきているようで、
「ヴィクトリア様は随分と侯爵の義妹であるヘレナ様と懇意にされていたようですし、ヴァルストロム侯爵家だけでなく、ヴィクトリア様のご実家であるヴィキャンデル公爵家もまた、侯爵様の後妻にはヘレナ様が相応しいだろうとお認めになっているそうですよ?」
と、訳知り顔でそんなことを言い出したのだった。
噂の内容とは反対に、ヴィキャンデル公爵家も、ヴィクトリア嬢も、王妃様を利用してまで約束を反故にしたヘレナに対して、強い怒りを感じている。だけど、今までの交流を見て、世間一般的には非常に親密な間柄のように考えられているのだろう。
「どうします?国外に行きますか?どこの国に行きますか?予定が決まり次第、すぐにでも船をおさえますけど?」
船嫌いのアンネがすぐに船を手配すると言い出すくらいに、私は心に傷を負っているように見えるのだろう。
何を馬鹿な、私は婚活の荒波に揉まれまくり、変な男にばかり引っかかり続け、いつだって結婚まで到達出来ずに座礁し、沈没し続けていた経験があるのよ。こんなクソみたいなことで傷ついてたまるか!
真実の愛とやらを後生大事にして、そっちの方へ行ってしまうというのは知っていたことなんだよ!今まで(前世で)何本、そういった系統の小説を読んでいたと思うわけ?こちとら、そう言ったテンプレ展開については熟知しまくっていると言えるんだよ!
「全ては絆されかかっていた自分が悪い!」
「お嬢様!やっぱり絆されかかっていたんですね!」
「アンネ!こういった時には仕事よ!仕事しかないのよ!」
「はあ・・」
涙でぐっしょりと濡れたフキンをアンネはその場で絞りながら、
「それで?お嬢様はこれから何処にお仕事に向かうんですか?」
と、真剣な眼差しで私を見つめながら言い出したのだった。
アンネとしては、ここで私が選ぶ場所によって旦那様(私の父)への報告がだいぶ変わってくることになると覚悟をして見つめていた訳だけれど、
「子爵家の領地に移動するわ!」
と、私が宣言すると、大きなため息を吐き出したのだった。
「領地に行って!風船を作って、作って、作りまくって来るわ!」
「何故ここで風船?」
「それは!ヴィクトリア様の披露宴パーティーの会場設営の受注を受けたからよ!バルーンアートで斬新でお洒落でド派手なものにして欲しいとのことなの!」
「ああ〜」
アンネは胡乱な眼差しとなって私を見つめながら言い出した。
「お嬢様、本当に嫌なことがあると、仕事に逃げる傾向にありますよね」
「そうね」
確かに、それは前世からの習慣みたいなものなのかもしれない。
G Wに突入し、物価高と光熱費上昇によって、外には出ずに家でのんびりしようか〜という方も楽しめるように、毎日二話更新で進めていきます。またジャンルは違うのですが『緑禍』というサスペンスものも掲載しておりまして、ただいま佳境にさしかかっております。そちらも楽しんで頂ければ幸いです!!
サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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