第十一話 ヴィクトリア公爵令嬢
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私の夫であるステラン・ヴァルストロム侯爵は、十五歳から軍に入っていたと言うだけあって、とにかく腹がバキバキに割れている。筋骨隆々なのは良いんだけど、やはり腰のくびれがセクシーだ。私は内腹斜筋とか下腹筋、大臀筋とか、大好きだ。
男性であれば、豊満な胸に魅力を感じたり、魅惑のヒップラインにうっとりしたりするのだろうけれど、私は侯爵様の胸筋も好きだ。いいぞ!とってもいいぞ!
兎にも角にも、魅惑の筋肉を楽しめるのも島に居る間だけ。王都に帰れば真実の愛がどうちゃら〜と言い出して、侯爵様は義妹が待つ侯爵邸へと帰るのだろうと思っていたら、
「新婚の花嫁を放置するわけがないだろう!」
と言って、王都に戻ったばかりだというのに寝室に連れ込まれてしまったのだった。
気がつけば朝、今日はヴィクトリア公爵令嬢が侯爵様所有の隠れ家(元々は男爵家の家だったけれど、没落したので侯爵様が購入していたらしい。街にも近く、内装もしっかりしているので要人を招いてもギリギリ許される程度の家)を訪れる予定なので、私は朝から忙しい。
「侯爵様!起きてください!朝ですよ!朝!」
「グレタ、なんだまだ物足りないのか?」
「この獣!早く起きてって言っているでしょう!」
「む・・むむむむむ・・」
侯爵様は獣だ、とにかく軍人の体力は舐めたらあかん。朝からスイッチが入りそうになる夫を華麗にスルーした私は、新品のベッドから飛び降りたのだった。
なにしろ公爵令嬢は午前中にもこちらを訪問すると言うのだ、何をそんなに急ぐ必要があるのか全く理解できないけれど、侯爵も同席の上で話したいことがあると言うのだから、嫌な予感しかしないのは間違いない。
「グレタ、名前」
「はい?」
腕を掴まれた私をベッドに引き摺り込んだ侯爵様が言い出した。
「侯爵様とまた呼んだ」
「ゔゔゔゔ・・」
私は自分の夫をひたすら『侯爵様』と呼んでいた。それは自分の夫である侯爵と一線を引き続けるための私なりのこだわりでもあったのだが、
「新婚旅行から帰ってきた侯爵夫人が夫のことを名前で呼ばずに『侯爵様』などと呼んでいたら、世間から何と言われるか分かったものではない。君だって周りがどう判断するのかを十分に理解しているよな?」
と、夫は青灰色の涼しげな瞳でじっと私を見つめながら言い出した。
逞しい腕と足で私が身動きできないように拘束した状態で、私に名前呼びを求めてくる侯爵はムカつく!本当にムカつく!
だけど、夫が言っていることも良く分かるのだ。今日から面会するのは身分も高い方々なわけだから、名前呼び一つでも細心の注意を払う必要がある。
「さあグレタ、私の名前を呼べ」
俺様かよ!
「さあ!」
くそ〜、覚えていろよ〜。
「ステラン様!」
私は硬い胸を押し除けながら言いましたとも。
「ステラン様!本当に起きないとまずいですって!まさか公爵令嬢をベッドの中からお出迎え〜なんてことにするわけじゃないですよね!」
「確かに・・それはまずいな」
そう言ってステランはブチュブチュ私にキスを落とすと、ようやっとベッドの上で起き上がったのだった。
船を降りたのが昨日の昼過ぎで、ストーン商会に面会予定のヴィクトリア公爵令嬢の情報を集めるように命じておいたんだけど、そうこうしている間にベッドに引っ張り込まれて、今は朝!時間がない!時間がない!
入浴を済ませた後にかき込むように朝食を食べること・・は出来ないから、お上品に、それでも高速で朝食を済ませると、公爵令嬢を迎えるための準備を即座に始める。
ヴィクトリア公爵令嬢は何の花が苦手なのか、お好きな紅茶はなんなのか。最近好んで食べる焼き菓子は何なのか、商会が伝えてきた情報を読み込んだ私は、令嬢が好みそうなロムーナ茶とサヴァランを用意する。
なにしろこれから王国中にロムーナ茶とサヴァランを流行させまくって稼ぎまくる予定でいるのだ。公爵令嬢とこんなに早くから面会するのは七面倒くさいけれど、これを利用しない手はないとも思っている。
そうこうするうちに公爵家の馬車が到着したので(本当に早いな!)夫と一緒に笑顔、笑顔で出迎える。夫が腰を引き寄せてくるので密着状態となっているけれど、ここは仲の良さを見せつけた方が良いのかもしれない。
なにしろ夫は顔だけはやたらと美しい、貴婦人たちからの人気も物凄く高い男なのだ。もうすぐ結婚する予定のヴィクトリア様も、本当は私の方が好きなんでしょう?と、ステランに対して確認したいがためにやって来たのかもしれないし。
ストーン商会が送って寄越した情報によると、ヴィクトリア嬢の結婚相手であるハラルド・ファーゲルランという人は、ヴィクトリアを溺愛して溺愛して溺愛して仕方がないというような人物らしい。
そんなナルビク侯国の要人に要らぬ嫉妬をされるくらいなら、私たち夫婦は愛し合っているので、令嬢とは全く関係ないんですアピールは必要かもしれない。
馬車から降りてきたヴィクトリア嬢だけれども、くるくるとカールした黄金の髪の毛が太陽の光を浴びて輝き、新緑の大きな瞳を長いまつ毛が彩る、ザ・西洋のお人形さん!みたいな令嬢で、後光が差しているように私には見えた。
こんな令嬢からマウント攻撃をこれから受けるのか・・マジでキツくな〜い?思わず半分魂が抜けたような状態で隣に立つ夫を見上げると、すでに夫は貴族の仮面をスチャッとかぶってニコニコ笑っているというのに目がちっとも笑っていない。
「ヴィクトリア様!ようこそいらっしゃいました!本邸にお招き出来ないためお断りをしたというのに、人の話をきちんと聞かないからこんなあばら屋を訪れる羽目になってしまうのですよ。令嬢は常識と計画性というものを学んだ方が良いのでは?」
ちょっと!ちょっと!アンネ以上に直球!直球すぎるよステラン様!
「まあ!私はきちんと計画をして動いておりますことよ!ご心配しなくても結構!それにここはあばら屋というよりかはワンちゃんのお家という感じで、こぢんまりとしたところに私は好感を持ちましたわ!」
公爵令嬢の返答が直球!直球すぎるー!お貴族様というのは、遠回しに迂遠的に、まわりくどく言うのが常識だと思っていたのだけれど?
初っ端から睨み合う二人に私がただただ呆然としていると、
「きゃわーん!グレタ様!お会い出来て嬉しいですわー!ギリギリ!本当にギリギリでした!ここでお会い出来たのは確実に天の差配によるものでございましょう!」
と、ヴィクトリア嬢が私の手を両手で握り締めながら興奮の声を上げたのだった。
えーっと・・一体どうなったこれ?マウントは何処に行った?
『サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
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