第六話 地雷女
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
地雷女というと、地雷を踏んではいけない、要するに近づいてはいけない女のことを指すと思います。私こと、侯爵夫人となったグレタは、前世の知識で地雷というものがどういうものかを十分に理解しておりますとも。
一般的には彼氏への依存度が高くて束縛が強すぎる女だとか、情緒が不安定すぎてメンヘラ気質の女だとか・・見かけは清楚系に見えるんだけど、近付いてみたらとんでもない女だった!みたいな女が一般的に『地雷女』と言われていますよね。
前世、私が婚活の荒波を乗り越えようともがき苦しんでいたわけですが、見かけが清楚でもないし、メンヘラでもないし、執着系でもないので、自分は絶対に『地雷系』ではないと思っていたんですよ。
だというのに、お見合いコンサルタントのお姉さんが、
「多分ですけど、貴女のその趣味の多さが地雷臭を匂わせているんですよ」
と、言い出したってわけです。
私は当時、それなりに高いお給料を貰っていた為、ワインやお茶にハマり、数々のワイナリー(国外含む)を見学しつつワインへの造詣を深め、お茶に関しては茶摘み体験まで行い、各種のお茶の精製に挑戦するほど、趣味に没頭していたのです。
コンサルタントのお姉さん曰く、
「自作の紅茶、自分で珈琲豆の焙煎まで行う。恋人止まりで考えれば『楽しそうな趣味だね〜』で終わる話も、いざ、それが結婚相手として考えた時には『ちょっとこの人ヤバそうだな』と考えるようになるんです」
だそうです、驚かないわけがありません。
「えええ!紅茶を自分で作ってオリジナルブレンドを作り出すなんて!女子力高めに見えて素敵女子アピールになると思うんですけど!」
「そういう方って、そのうち、自分のお店を開きたいと言い出しそうじゃないですか?」
お姉さんは、ため息を吐き出しながら言い出した。
「家に招いた時にお茶を提供して『あっ!おいしいね』なんて言われた時に『自分でブレンドしているの〜!美味しいって言って貰えて嬉しい〜!』と、言い出すくらいで丁度良いんです。静岡だったらあの茶畑、滋賀だったらあの茶畑なんていう話は言語道断!こだわりの強すぎる女性は、男性にとって嫌厭する対象にもなるのです」
「えええー!それって個人的な思い込みの部分も大きくないですか?」
「それじゃあ、自分に当てはめて考えてみてください」
お姉さんは、えへんと咳払いをしながら言い出した。
「もしも、お見合いの相手が蕎麦打ちに凝っていたとします」
「そういう男性の方って、たまに居たりしますよね」
「その男性は、蕎麦をご自分で打つほどの凝り性で、最近ではご自分で蕎麦の栽培までされているというのです。もちろん蕎麦の栽培が出来る場所は限られているので、車で長時間の移動をしています」
「ど・・ドライブにもなって良いじゃないですか」
「その男性は自分が打つ蕎麦にはかなりの自信を持っているので、もちろんお見合い相手である貴女にも手打ちの蕎麦を振る舞います。こだわりの蕎麦はとても美味しいので、貴女も蕎麦の味には非常に満足することとなります」
「食べさせて貰った蕎麦が美味しいんですよね?すっごく良い展開に思えるんですけど?」
「そうして、蕎麦を食べ終わった後に、その男性はこう言いました。『いずれは自分の店を持ちたいと思っているんだよね』と。今はサラリーマンとして働いていますがいずれは脱サラをして蕎麦の店を開きたいという野望があるのです。出来たら貴女にも協力してもらいたいと口には出しませんが、雰囲気で醸し出していたとします」
「うーん、ちょっと無理かなー」
私は言いましたとも。
「今のご時世で飲食店を開いて、成功するのはかなり難しいし、お店を開く時の資金援助とか頼まれそうで、怖いっていうか何ていうか、私には無理かなーと思います」
「そこなんですよ!」
お姉さんは眼鏡の奥にあるつぶらな瞳をピカリと光らせながら言いました。
「出会って数日の男性から、今の会社を辞めて蕎麦屋をやりたい。もちろん僕の夢に妻として協力してくれるよね?なんて匂わされたら地雷臭を感じますよね?店があるから子供たちの事は君に全てを任せることになると思うけど、それは仕方がないことだよね?だって妻なのだから協力してくれるのは当たり前。もちろん店が転けた時の資金援助も・・なんてことまで想像したら、絶対に結婚するのは嫌だと思いますよね?」
「え?そんな匂いを私が醸し出しているということですか?」
「そうです!」
「えーっ!こんな趣味があるんです!程度の話題しか出していないと思ったんだけどな〜!」
「とにかく、店を開きたい云々は男性に対して禁句ですよ。ただでさえ、男性の皆さんはお給料からごっそりと税金を引かれているような状態で、将来的に妻や子を養うということに対して大きな不安を感じているのです。一緒に生きていくのにお金が必要なのに、成功するんだかしないんだか分からない『将来はお店を持ちたい!』なんていう未来の話までされた暁には、ドン引いちゃうんです!」
「えー?私、お店開きたいなんて言ってない」
「言っていましたよ!そんな未来もあったら良いな程度の発言でしたけど、そこに引っかかりを感じる男性はこの世の中には山ほどいるんです!」
前世、婚活市場を散々彷徨い歩いた私は、子供の夢のように、
「パン屋さんをやりたい!」
「ケーキ屋さんをやりたい!」
「カフェを経営したい!」
なんて言い出す女子は『地雷女』と言われる(諸説あり)ことを知っている。
店をやる?大いに結構!だけど、その資金、まさか僕に出せとまでは言わないよね?仮に自分で全てやるとして、もしも子供が生まれた時に、誰が面倒を見るの?仕事が大変な僕を誰が支えてくれるの?もしも店の経営が危なくなったら、まさか僕に負債の返済に協力してくれだなんて言わないよね?と、大半の人間はそう考えるらしい。
いきなり素人が店やりたいと言い出した時、それが他人事なら、
「そうなんだ〜、頑張って〜、開店したらお店に遊びに行くね〜」
程度の答えで終わるけど、これを結婚した相手が言い出した暁にはなかなかの覚悟が必要ですよ!
私の夫であるステラン・ヴァルストロム侯爵は、軍人なので体つきは逞しいし、背は高いし、褐色の髪に青灰色の瞳と色味は地味だけど顔立ちはやけに整っている。容姿も良ければ地位もある(財政については傾きかかっているところがある)そんな夫に対して、満を持して言ってやったわけです。
「そういう訳で、まずは王都にパン屋を開いて、そこでまずはサヴァランを置いて、売れ行き具合を見た後で、サヴァラン専門店を開こうと思います!」
これが地雷!地雷発言です!店を開く、それは禁忌にも等しい言葉!ただでさえ侯爵家の財政は傾いている状態だというのに!パン屋?パン屋を開くだと!しかもサヴァラン?焼き菓子?意味不明、即座に罵倒が降り注ぐだろうと覚悟をした私が身構えていると、優雅に紅茶を飲んでいた夫である侯爵様が言い出した。
「わかった、そうしよう」
秘書のウルリックも、何故だか何も言わずに、うんうん頷きながら私が言ったことをメモにとっている。何故!何故なの!そうじゃない!そうじゃない!そんな反応じゃなくて、もっと取るべき態度というものがあるでしょうに!
『サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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