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第三話  ヴィクトリア公爵令嬢

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ヴァールベリ王国の今代の王は、二番目の王子として生まれ、体が弱い第一王子を退ける形で王位を継ぐことになった。彼が王位を継ぐ決定打となったのはオルランディ帝国の皇女を妻として娶ることになったことと、ヴィキャンデル公爵家が王位に就くための後押しをしたからにほかならない。


 王国では前王の継承に深く関わった者は、次代に繋ぐ際には傍観を決め込むことが不文律の掟となっている。これは、何代にも渡って継承に関わることで永続的な権力を一つの家が持つことを恐れたからにほかならない。


 今代の王の継承にはヴィキャンデル公爵家が関わったことにより、現在、第一王子オスカルと第二王子のカールが継承争いをしていても、一歩も二歩も離れたところから見守る姿勢をとっている。


 そんなヴィキャンデル公爵家の令嬢であるヴィクトリアの母は、ナルビク侯国の姫君となる。ナルビク侯国は第二王子妃であるイザベルデの祖国ポルトゥーナの隣に位置する国であり、両国の仲は非常に悪い。


 ロトワ大陸の西方に浮かぶ島国であるヴァールベリ王国は、大陸との交易にナルビク侯国の港を利用していた。こちらの方にも船を停泊させたいポルトゥーナが八番目の王女であるイザベルデを送り込むことで、交易の拡大を狙ったのは間違いない。


 ヴィキャンデル公爵家としてはポルトゥーナの王女イザベルデが輿入れしてくるということに嫌悪感を示したものの、八番目の王女ということと、カール王子自体に皆がそれほどの期待をしていなかったこともあり、最終的には王女が嫁いできても何も問題がないだろうと判断した。


 まさか王妃があそこまでイザベルデ妃を気に入るとは、その時は誰もが思いもしないことだったのだ。


「お父様!お父様!お父様!」


 ヴィキャンデル公爵は娘のヴィクトリアを目の中に入れても痛くないほど溺愛しており、飛びつくようにして抱きついて来た娘を受け止めながら、普段は岩のように厳しい顔が蕩けきっているようにデレていた。


「ヴィクトリア、君は今、幸せかい?」

「ええ!お父様!私は幸せよ!」


 ヴィクトリアは母の祖国となるナルビク侯国のハラルド・ファラーゲンの元へ輿入れする予定で居たのだが、それに待ったをかけたのがイザベルデ妃だったのだ。


「公爵が娘を溺愛しているのは有名な話ではないですか。であるのなら、令嬢は国外に出さずに国内に嫁がせた方が良いのでは?」


 ポルトゥーナ王国の王女であるイザベルデとしては、ヴァールベリ王国の公爵令嬢が侯国へ輿入れすることで、より強い繋がりが出来ることを恐れている。


「確かにそうよ!ヴィクトリアが国内に残った方が、公爵も公爵夫人も幸せじゃない!」


 イザベルデ妃を溺愛する王妃が追従するような形で言い出した為、半年後に結婚する予定だったヴィクトリアの結婚は、突如、頓挫する形となったのだ。


 ヴィクトリアの元には国内の貴族令息の釣り書きが山のように送られて来ることとなったのだが、その全てが第二王子を次の王へと押している家門となる。イザベルデ妃が自分の派閥へヴィキャンデル公爵家を取り込みたいと考えているのは間違いない。


 ヴィクトリアの結婚相手は政略などで決められたものではなく、幼い時から恋を育んで来たからこそ許した相手でもあるのだ。公爵としても娘には国内に嫁いで貰いたかったのだが、娘には愛する人と結婚して欲しいと思ったからこそ、二人の結婚を進めたのだ。その結婚が、イザベルデ妃の思惑一つで潰されることが公爵には気に食わなかった。


 だからこそ、国内でヴィクトリアが結婚しなければならないと言うのなら、絶対に第二王子の派閥の人間だけは選ばないと考えていた。丁度、オスカル第一王子の腹心とも言われるステラン・ヴァルストロムが侯爵位を継いでいた為、ヴィクトリアが国内で結婚をしなければならない事態となるのなら、ステランの元へ輿入れさせようと密かに話を進めていたのだ。


 そんな時に、ナルビク侯国のハラルド・ファーゲルランから、ヴィクトリアがヴァールベリ国内で結婚をしなくても良いように手配をしたから、何も心配せずに嫁いで来るようにとの連絡が入ることになった。


 ハラルドは本当にヴィクトリアのことを愛していたのだ。それもなりふり構わない程度に、深く深く愛していると言えるだろう。自分の結婚に横槍を入れられたハラルドはオルランディ帝国に渡り、皇帝に直接直訴する形で交渉を行なった。


 帝国はヴァールベリ王国との交易をナルビク侯国の港を利用して行なっていた。それが将来的にポルトゥーナ王国の港しか交易に使えないとなれば、荷を運ぶ陸路での移動が長くなり、その分の費用はもちろん加算されることになる。


 そもそも帝国としてはポルトゥーナ王国にでかい顔などされたくないし、交易に口など出されたくない。八番目の王女で力が無いからと輿入れを許したが、帝国のやることに口を挟むことになるというのなら話は違ってくることになる。


「皇帝からヴァールベリ王国へ抗議の手紙が送られていることと思います。ヴァールベリ王国の王妃様とて、皇帝であるお兄様の言うことに逆らうことはありますまい」


 そもそも、王族ではなく公爵家の令嬢の輿入れの話なのだ。しかも、今代の王が王位に就く際には尽力をした忠臣とも言われる家である。


 結局、ヴィクトリアの結婚への横槍は無くなった。ヴァルストロム侯爵の結婚式に公爵令嬢であるヴィクトリアが出席したのは、もしかしたら自分が結婚したかもしれない相手だったからだ。


 突如、ストーメア子爵家の令嬢と結婚をすることを決めた侯爵だったけれど、侯爵の結婚には数えきれないほどの噂が付きまとうことになる。その噂の出所がイザベルデ妃の陣営によるものなのは間違いなく、今度は一体どんな悪巧みをしているのかと興味を持っていたところ、

「こ・・こ・・こんなに素晴らしいパーティー会場は今まで見たことありませんわー!」

 と、ヴィクトリアは興奮の声をあげることになったのだ。


 なにしろストーメア子爵令嬢が自ら開発したという『バルーン』で飾り付けられたパーティー会場は庭園に設けられており、子爵令嬢自作のケーキは、参加者全員を驚倒させるものだった。


 ヴィクトリアが、

「ヘレナ様!ステラン様の為にこれほど素晴らしいパーティー会場を作るだなんて!貴女ってなんて素晴らしい人なのかしら!」

 と、言い出したのはわざとだ。


 ここでステランの義妹であるヘレナは自分が用意したものではなく、花嫁となるグレタが用意したものであると宣言すれば良かったのだ。だけど、彼女は決して否定はしなかった。


「お父様!我が国で行うハラルド様との披露宴パーティーには、ヴァルストロム侯爵と同じような会場を作って貰えるようにヘレナ様には了承頂きましたが・・」

 披露宴会場で、ヴィクトリアは散々、ヘレナを煽てあげた末に、自分の披露宴もこれと同じように用意してくれないかと直々に頼んだのだ。


 もちろん、ヘレナは二つ返事で了承をしたのだが、

「披露宴で使われた『バルーン』をヘレナ嬢は手に入れられていないみたいですの」

 困り果てた様子でヴィクトリアは言い出した。


「花嫁のグレタ様は行方不明、ストーン商会は『バルーン』はグレタ様の管理下ゆえ、何処にしまわれているのかも分からないし、そもそも余分の『バルーン』があるのかどうかも分からないと言われているそうですの」


 公爵は鼻を鳴らしながら言い出した。

「確か披露宴では同じように準備をすると契約までしていたように思うのだがね」

「ナルビク侯国の要人を招いてのパーティーとなりますもの、本当に、心配で、心配で」

 心配と言っている割には満面の笑顔の娘の肩に手を置いた公爵は、

「向こうがどう出るか楽しみだな」

 と言って意地悪そうな笑みを浮かべたのだった。



『サヴァランと紅茶をあなたに』の改訂版ですが、読んでいただきありがとうございます!王国編となり、これから女のドロドロも混えながら話が進んでいきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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