第二十二話 誤解から始まる結婚生活
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見たこともない程の素晴らしい披露宴会場を用意するほどの熱量で、涙を流すほど結婚が嬉しいと言うのなら、私にはその情熱に対応するだけの暇はない。だからこそ、着替えの為に移動するという花嫁を捕まえて、
「君を・・愛する暇がない」
と、申し出た。私は本当にバカだった。
船の上で男装姿の花嫁を発見した時には、結婚に対する恐ろしいまでの執着、執念、怨念から、私を追いかけて来たのかと思ったのだ。そうして彼女と話せば話すほど、私の花嫁が私に対して一切の執着などしていないことに気が付くのだった。
彼女が私へ向けてくる感情は、殺意と、殺意と、殺意。淑女たるものが「殺す」「ぶっ殺す」「死ね!」などと言うのもどうかと思うのだが、あまりにも態度が悪い私に対して、彼女の言動は仕方がないものかもしれない。
貴族の義務だと言って抱いても文句も言わず、その後、放置し続けても文句も言わず、そんな私に呆れ返りながらも、彼女は素晴らしい手腕によって『デトックス茶』なるものを作り出した。
「このお茶が兄の時にもあったら・・」
兄は死なずに済んだのかもしれない。
「侯爵様がきちんと罰を与えてくれるのなら、それで良いんです!」
そう言い切った幼い子供の心に出来た大きな傷を思うと、心が苦しくなる。
麻薬がなければ、ポルトゥーナ王国が我が国を狙うようなことがなければ、私がイレネウ島をオスカル殿下より買わなければ・・幼い二人の父親は死なずに済んだのかもしれない。誰が悪いのか、結局は私が悪いのか、消化しきれない思いに押し潰されそうになっていると、
「侯爵様・・」
妻が私の元までやって来た。
「侯爵様・・大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない」
茶畑は標高1800メートルのイルヴォ山の裾野に広がっているのだが、麓には紅茶を精製するための建物が無数に並び、そこに新しい住居や、麻薬患者のための収容所まで建ち並ぶようになった為、切り開いた森から運ばれた木材が山積みとなっていたのだ。
「グレタ・・私が全て悪かった・・」
自分を見上げる妻を掻き抱きながら、彼女の黄金に輝く髪に顔を埋めながら訴える。
「許してくれとは言わない。だけど、この戦いにだけは協力して欲しい」
「それは・・もしかして・・」
妻は私の背に自分の手を回しながら言い出した。
「私も一緒に王都について来て欲しいってことですか?」
「・・・駄目か?」
「駄目ってわけじゃないんですけど・・」
妻は逡巡しながら私の顔を見上げたのだった。
「私はイレネウ島に居て、貴方は王都に戻った方が、貴方にとっては都合が良いのではないかと思うのですが?」
「何故だ!」
私は妻の体を力いっぱい抱きしめた。
「一緒に王都に行こう!そして共に戦って欲しい!」
自分がこれほど情けない男だったのかと、呆れ返るような思いではあったのだけれど、この有能すぎる妻を遥か遠い島にひとりぼっちで置いていけるほど、私は人間が出来てはいない。
私の今までの所業を考えたら、ここで彼女を自由にした方が良いのかもしれない。だけど、でも、絶対に無理。これからの戦いにグレタ無しで挑むのは、武器も持たずに死にに行くのと同じようなものだ。
「く・・苦しい・・しかも・・鼻水がついている・・」
ハンカチを取り出した妻は、私のドロドロの顔を丹念に拭くと、
「真実の愛は尊重しますから」
と、意味不明なことを言い出した。
真実の愛?真実の愛?
「もしかして、君はそこまで私のことを」
「はあ?」
妻の呆れ返った顔を見るに、私を愛しているとか、そういう話ではないらしい。
「ここにはマウロさんも居るし、マリー姉妹も頑張ってくれているし、島民の皆さんもお金のためと麻薬撲滅のために頑張ってくれているみたいなので、私が王都に行っても大丈夫だとは思います」
「それじゃあ、一緒に王都に行ってくれるんだね?」
「・・・仕方ないので行きますよ」
「船の出発は五日後になる、それまでは新妻を歓待するから!」
「いまさら感が半端ないんですけれども」
私は完全に間違えていた。愛する妻を満足させるためにも、この五日間は死ぬ気で取り組まなければならないのかもしれない。
◇◇◇
麻薬患者の治療にも使えるという素晴らしい紅茶の開発に成功した時点で、第二王子の妃であるイザベルデ妃殿下の思惑とか、イザベルデ妃の祖国であるポルトゥーナ王国の野望なんてケチョンケチョンに出来るだろうと思ったんだけど、私の夫である侯爵様は元々軍人で、商売なんてものについては門外漢な人でもあるのです。
紅茶だったら何でも売れるんだろう!なんて思惑から王都でイレネウ産の紅茶を売り出した訳だけれど、売れるわけがない。何しろイザベルデ妃のシンパが警戒の目を光らせているだろうから、今、王国では安陽の紅茶しか売れないような仕組み作りが出来上がっているのだろう。
侯爵様が何の派閥にも入っていないのであれば、いくら素晴らしい紅茶であっても王国で売りに出すのは難しいところだったけれど、侯爵様の後ろには第一王子であるオスカル殿下がいるのだ。
イザベルデ妃の力が大きくなりすぎて、今は逆境にいるオスカル殿下だけど、やりようによってはひっくり返すことは可能だと思うんだよね。
そんな訳で、王国で出す紅茶の店舗展開を考えていたんだけど、
「グレタ、今日は早く寝よう」
と言って、夫が私をベッドの中へと引き摺り込んでいく。
私に泣き顔を見られてからというもの、傲岸不遜で態度がひたすら悪かった夫は改心をすることに決めたらしく、朝起きれば自ら朝詰みの花束を用意して私の枕元に置いていくし、食事も無理やり3食、一緒に食べる上に、寝るのも一緒状態。
「アンネと一緒に合コン、合コン言いすぎたかしら・・」
今の状況で私に離婚されたら困ると考えた夫は、離婚後に私が合コンするのを恐れている節があるのだが、
「お嬢様、そこは、私、愛されちゃっているのね!きゃっ!困っちゃうわ!と言うべきところなのでは?」
と、意味不明なことをアンネが言ってくる。
「愛されてる〜?」
「愛されているでしょう〜!」
いやいや、これは愛されているのではなくて、都合が良い妻に今は離れられたら困るからの配慮であって、愛とか愛とか、ない!ない!ない!
「もー・・お嬢様ったら〜」
アンネはうんざりした様子で顔をくちゃくちゃにしたんだけど、なんでそんな顔をするのかしら?
「とにかく、王都に戻ったらいつものホテルに滞在することにするから」
「はあ〜?」
今日もアンネの態度が非常に悪い。アンネはちっとも分かっていないけれど、王都には義妹ヘレナがいるのよ!ヒロイン登場で、当て馬状態の妻は即座にお役御免となることでしょう!
これは書き直し作品となるのですが、これからいよいよ本国へと移動します!
最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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