第十五話 前世も今世も扱い一緒
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
翌朝、専属侍女であるアンネが私の世話をしながら、
「一年後には合コンをしてくれるって言っていたのに〜」
メソメソ泣きながら、グジグジ文句を言っていた。
「だ・・大丈夫だって、アンネ、きちんと一年後には離婚するから」
「はい?」
「よんどころない事情(戦争が始まったら安陽国まで行かなくてはならない)があったが為に、正妻である私に子供を仕込んでおこうというだけの話であり、そこに『愛』とかそんなもん存在しないから、一年後には離婚出来るでしょう」
あっ、妊娠したら子供を出産しなくちゃいけないから、一年以上かかってしまうかもしれないけれど、離婚するのは間違いない事実だから、アンネと合コンは出来ると思うんだよね〜。
「えーっと、無事に夜のお勤めも終えて正式な妻になったと言うのに、お嬢様は一体何を仰っているのでしょうか?」
朝になったら侯爵は居なかったんだけど、素っ裸の私の元へ訳知り顔のアンネがやって来て、お風呂の準備をしてくれたんだよね。そんな訳で、朝からアンネに丁寧に体を洗われている私なんだけど、赤い花が全身に咲きまくっている(こちらではキスマークをそんな風に呼ぶ)私を洗いながら、訳が分からないといった表情をアンネは浮かべていた。
「私は一応のところ正妻で、よんどころない事情により早いところ私に妊娠して欲しいと言うのが向こうの都合なんだけど、侯爵の本命は何処まで行っても義妹でしょう?」
「えええ?」
「例え私が妊娠して出産したとしても、ていよく離婚をして、後から義妹を嫁に迎えた上で跡取りとなる子供を作ることだって出来るでしょうに」
「えーっと、お嬢様との間に子供が居るというのに、そんなことが可能なのでしょうか?」
「それは、例えば私が妊娠した期間に私が間男を招き入れていたとか、そういう嘘八百を捏造して、生まれた子供は自分の子供ではないと主張すれば良いでしょう?」
「はあああああ?」
「真実愛する人というのは別枠なのよ」
そう、別枠なの。それは前世でみっちりと目の当たりにしているし、体験しているし、理解しているのよ。
「よんどころない事情によって、貴族の義務だとか、子供を作ることは使命だとか言っているけれど、平和な世の中が続けばすぐに考えを改めるわ」
戦争が起こった場合、自分が本国を離れることになるから、侯爵家の後継が必要になるというだけの話であって、戦争うんぬんがなくなれば、即座に離婚をして真実愛する人を嫁として迎え入れることになるでしょう。
「えっ・・とお・・それって・・無茶苦茶酷くないですか?」
両手が泡だらけのアンネが憤慨しながら言い出した。
「自分の妻のことを一体何だと考えているのでしょうか?」
「ていの良いお飾り?」
「手を出しておきながらお飾りですか」
怒りで顔を真っ赤にしたアンネが言い出した。
「子供を自己都合で作って、必要がなくなったら捨てるとか酷くないですか?本当に!本当に!信じられない!」
あまりの怒りにアンネの体はブルブルと小刻みに震えている。
「勝手にも程がありますよ!お嬢様が子爵家の出だからですか?それとも自分が侯爵様だからですか?都合良く扱うにも程がありますよ!」
「あっちが都合よく扱うんだから、こっちも都合良く考えれば良いんだと思うの」
前世でもそうだった、私は所詮都合が良い女。寂しいなとか悔しいなとか、そんな気持ちの前に『またか!』と真っ先に思っちゃう。
「子供が出来ようが出来なかろうが、近々、そのよんどころない事情は解消するつもりだし、私はさっさと離婚をして、妻の座をヒロインに明け渡そうと思っているのよ」
「そのヒロインって何なんですか?」
「侯爵家の借金問題も解決をして、さっさと離婚をしたら、新大陸へ行こうかな」
「ええ?」
「新大陸では良質の鉱山が発見されているのよね、一念発起して鉱山を購入して一人ゴールドラッシュしちゃおうかな」
「はあ?」
「ほら、捨てられた侯爵夫人なんて社交界では格好の餌食になるのは目に見えているじゃない?だからこその新大陸、新しい土地での出会い!」
「ええ〜!嫌です!嫌です!嫌です!」
アンネは両手をバタバタ動かしながら言い出した。
「新大陸まで行くのに船で三十日以上かかるって言うじゃないですか!嫌です!嫌です!船酔いするから嫌です!」
アンネは船酔いするので、船の旅が大嫌い。今回だって、イレネウ島まで最短で行ける船に乗るために、移動する日にちを半年以上も後ろ倒しにした程なのよ。
「アンネはこっちに残ってもらって、自力でお相手を見つけたら良いじゃない」
「嫌です!嫌です!私は何処までもお嬢様について行くんです!」
「実家の近くで結婚相手を自力で見つけなさいよ〜」
「合コン!合コン!合コンで見つけます!お嬢様企画の合コンを私は待っていますから!だからせめて近隣諸国への移住にしてください!」
アンネの中で国を出ることは決定事項となっているらしい。
「ロトワ大陸に商会の支店をたくさん出しているじゃないですか!その支店の何処かに移動すれば良いじゃないですか!新大陸まで行くのは私!絶対に無理ですから!ね!ねえ!」
我がヴァールベリ王国はロトワ大陸の西方に浮かぶ島国なので、他国に移動するには船を利用しなければならないんだけど、流石に、新大陸までは遠すぎて無理だというアンネの意見に流されているのかもしれないけれど。
「子供が生まれたって、愛する人の子供じゃないなら自分には関係ないとか言い出すでしょうし、すぐにお払い箱になるでしょうから、ロトワ大陸に移住するにしても、何処の国にするかは今から考えておいた方が良いかもね」
「侯爵様って、一体どれほどの鬼畜なんですか?」
アンネは顔を真っ青にさせると、
「私、お嬢様のことは絶対に!お嬢様とお呼びし続けることにします!」
と、そんなことを言い出した。
「絶対に奥様とは呼びません!お嬢様がこんな境遇に置かれるのなら、侯爵様の妻になったとは私は思いません!奥様なんていう風には絶対に呼びませんから!」
実家から連れて来た侍女であるアンネに出来る唯一の当てつけ行為がそれだろう。
「良いんじゃないかな?向こうも私のことを妻とも思っていないでしょうしね」
結婚式はおざなりに行われて、その後の披露宴では義理の妹をぶら下げて挨拶回りをしていたくらいだし。本人も周りも不本意でしかない結婚だもの。子供が出来ようが、出来まいが、戦争が阻止出来たらお払い箱になるのは間違いないものね。
ああ、今世でもこんな感じになっちゃうのよね。
「イレネウ島に縁切り神社と縁結び神社ってないのかしら・・」
ついつい、神々しい神秘の力に縋りつきたくなってしまうのは、前世からの慣わしかもしれないんだけど・・
「ジンジャーってなんですか?」
この世界に神社はないのよね〜。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!