第十三話 真実の愛野郎
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「そのロークオリティを誰も飲みたくないと言っているから困っているのだが?」
長い足を組み直した侯爵様は、胸の前に腕を組み、不機嫌そうに私を見上げている。どうやら今の大スベリでタバコを吸う気も失せたようで、現在、不機嫌そうな美しい顔が私を睨みつけているわけだ。
「別に高位身分のお貴族様だけをターゲットにする必要はないんですよ!」
私はガーゼで出来た袋に茶葉を詰め込んだ後に紐で縛りつけると、自作のティーバッグを作り上げたわけです。カップにティーバッグとお湯を注ぎ入れて、アンネが用意した砂時計をひっくり返す。
時間にして3分半、ロムーナ茶葉のロークオリティにはこの程度の時間がちょうど良いと感じたので、ティーバッグを使って四人分の紅茶を用意すると、それぞれの前に置いて味見をするように進めたのだった。
毒味も兼ねてまずは私が一口飲むと、
「さあ!さあ!どうぞ!これも一つの『紅茶』ということになるので、まずは味を見て頂きたいんです!」
と言って、みんなに飲むように勧めたわけ。
「ロークオリティの紅茶といえば、香りは弱く水色が濃いと言うのが特徴なのですが、このロークオリティーの茶葉はティーバッグにするには最適なのです」
私は恐る恐る口をつける侯爵と秘書のウルリックを眺めながら説明をする。
「袋状にしたガーゼの中に茶葉をティースプーン二杯から三杯程度入れまして、紐で縛るようにして袋を閉じます。そうして紐部分はコップの外に垂らしたまま、3分半、待つと出来上がり。まずはストレートで飲んでもらえますか?半分まで飲んだら砂糖を入れて、味の確認をお願いします」
「また、ケッタイな飲み方だとつくづく思うが・・」
おそらく侯爵は日中に飲んだアイスティを思い出しているのだろう、こちらでは紅茶を冷やして飲むなんてことはまずやらない。ティーバッグだって、今のところ存在していないんじゃないのかな?
「ポットを使わなくても手軽に飲めるとは思わなかった。軍の輜重部に持って行ったら、きっと購入したいと言い出すだろう。だがしかし、手間は簡単でも味は二の次という感じでは一般には売れないと思うのだが」
「綺麗なサロンやらお花が咲き乱れる庭園でお茶会をやるようなお貴族様連中にはそりゃあ売れないですけど、それ以外には売れますよ」
「平民向けというわけか」
「そうです」
前世の私が、子供の頃からどれだけティーバッグのお世話になってきたことか。パンと言えば紅茶、紅茶といえばティーバッグ。お手軽にさっと茶色になればそれで良くって、味なんか二の次、三の次だったのは間違いない。
「今、現在、市民にまで広がった珈琲だって、最初は特権階級の人だけの飲み物でした。珈琲豆だってクオリティーが高い物もあれば低い物もある。生産量を見れば、ロークオリティーの豆の方が多いのが当たり前で、それらを効率的に処分するために、市民にまで珈琲は好んで飲まれるようになったのです。だとしたら、紅茶だって同じことになるのは目に見えているでしょう?最高級品は特権階級に消化されたとしても、その他についてはどうなるか」
「いずれ市民にまで広がるのであれば、自分たちで勧めてやれということか・・」
侯爵は灰青色の瞳を細めながら言い出した。
「ロムーナの紅茶を平民階級にまずは広めるということか?だとするのなら、貴族階級の人間は、ロムーナ茶は平民が飲むものだからと言って蔑むことになり、より安陽茶に傾倒することになるんじゃないのか?」
「そんなことにはさせません」
私は紅茶を飲みながら笑みを浮かべる。
「大量に余っているロークオリティの紅茶の販売方法を今は提示しただけであって、倉庫の中にはミディアムクオリティが沢山残っているんです。ミディアムにはミディアムなりの特性を活かした飲み方がいくらでもありますし、やり方一つでいくらでもひっくり返すことが出来ますよ」
前世、結婚出来なくて、紅茶に、ワインにと走った私は、最後の最後には、茶畑にまで出向いて緑茶、紅茶、ウーロン茶まで作ったことがあるのだ。
結婚する相手もおらず、子供もおらず、暇に明かして没頭した趣味のようなものだったけれど、同じ茶葉の木からどうやったら多種多様なお茶が出来上がるのか、そのレシピなんかは頭の中に入っているのですよ!(参加費分だけは元を取ろうと頑張っておりました!ケチ根性ばんざーい!)
「私はロムーナの茶葉を使って様々な『お茶』を作ることが可能です!この知識を使ってヴァールベリ王国の貴婦人たちをヒイヒイ言わせてやることも可能!」
私は即席で用意したプレゼン資料を侯爵の前に広げながらぶち上げた。
「イレネウ島は可能性しかない島だと私は宣言します!王家から買い入れた負の遺産!紅茶を栽培したところで駄物しか作れない島、そんなことはありません!私に任せてくれれば金を生み出す島へと即座に変身させて見せましょう!この島には大金を稼ぐ可能性しかない!」
この島には可能性しかないもの!お前の素性を知らないし、信用出来ないから売り渡すことが出来ないと言うのなら!クライアントの経営課題を明らかにし!課題解決のために戦略はいくらでも提案出来ますのよ!
「お金をガッポガッポ稼いだら!真実の愛も貫き通せるでしょうし!私も何の憂いもなく離婚できます!」
「お嬢様!離婚したら合コンですね!」
「アンネ!共に頑張りましょう!」
ガシリッと手と手を握り合う主従である私たちを呆れた様子で侯爵は見つめていたけれど、貴方の恋愛は邪魔しません宣言をしているのよ!離婚はすぐにします宣言をしているのよ!もうちょっと有り難がって涙の一つでも流して貰いたいと思うのは、私の要求が過剰すぎるってことなのでしょうか?
「奥様!そんなに旦那様と離婚をしたいのですか?」
堪らずといった様子で問いかけてきたウルリックに胸を張って答えたわよ。
「それを皆が望んでいるのですもの!」
義妹ヘレナに侯爵様は、二人の愛を貫くために私が邪魔なのは間違いない。
「ええ〜!そんなこと望んでおりません!誰も望んでおりませんとも!」
秘書はそう訴えたけれど、肝心の侯爵は私が用意したプレゼン資料に夢中で、耳にも入っていないような様子だわ!
そりゃそうよね!自分の予想に反してさっさと離婚出来そうな内容が、事細かに資料には述べられているのだもの!真実の愛野郎はここで私の偉大さにひれ伏せばいいのだわ!
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