第六十二話 紅茶とサヴァランをあなたに
こちらのお話はこれで終わりとなります、ここまでお付き合い頂き有り難うございます!!
皇帝と大司教様は、自分たちの部下をロムーナ茶の産地であるイレネウ島へ送る手配をすると、本国に帰ることを決めたみたいです。そのお見送りに来たところで、驚きの遭遇事件が勃発したってわけですね。
長年、虐められていた異母姉はにこやかに車椅子で移動をしていくのに対して、長年、異母姉を虐げてきた妹の方がうなだれながら船へと向かっていくわけです。ギャフンでざまあはすでに終わったと思ったのに、まだ続きがあったんですね〜。
結局、ヴァールベリ王国を征服しようとしたハプランスとポルトゥーナの王は死んでしまったわけですが、ハプランスの王の首は『悪の元凶の首級』として皇帝の三男であるアドリアヌス様がタクラマ神聖国まで持って行ったってわけです。
サビエラの王配になったアドリアヌス様は炎の神からタクラマに宗旨替えをしたのですが、周りから全然信用されていなかったので、ハプランスの王の首の進呈はアドリアヌス様にとってやらなければならないことだったみたいです。
だからこそ、ハプランスの王の暗殺は彼自身がやるつもりだったのですが、より完璧に実行するために、暗殺に特化していると言われる夫ステランが投入されたってわけです。
ハラルド様が暗殺したポルトゥーナの王は、自分で戦争をやると息巻いておきながら落馬して死んだ間抜けな王として、遺体は王都にある王宮まで運ばれることになったそうです。王都に入る際には、城門に丸焦げの遺体がぶら下がり続けていたらしくって、
「お前らがくだらない戦いをしようとはしゃいでいる間に、王国はハプランスに滅ぼされるところであったのだぞ!」
という新王フェデリコの意図がビリビリと感じられることになったみたいです。
ポルトゥーナは正妃の息子フェデリコが新王となり、隣国の王弟パウロを破り、新王を支え続けたヴィルヌーズ公爵が後見人として名乗りをあげたそうです。ハラルド様からの協力と、ナルビク侯国に静観してもらう形となった為、長年、両国の騒動の元となっていたカルラ平原を渡す形となってしまったわけです。
新国グェンダルとポルトゥーナ王国は、今回の騒動で国土を削ることになりましたが、帝国とナルビクが本気になればもっと大変なことになっていたのは間違いないので、仕方ないと納得する形になったみたい。
そりゃ文句を言いたい貴族は山ほどいたみたいなのですが、ハプランスの王が神聖国から『破門』されたばかりだったので、巻き込まれ事故で『異端審問』をされても堪ったものじゃないということで、みなさん静かにしているそうです。
「グレタ、マリーとソフィが君に花束を渡したいと言っている」
夫に声をかけられて振り返ると、花束を持ったマリーとソフィーがいました。しゃがみ込んで花束を受け取ると、二人は私に抱きつきながら言い出した。
「グレタ様!困ったことがあったらまた呼んでね!」
「また呼んでね!グレタ様!」
そして二人の姉妹の後に立っていたケイシーがニコニコ笑いながら、
「グレタ様、いつでも私たち家族はグレタ様のために動きますので」
と、言い出した。
帝国に渡ったケイシーと子供たちは皇帝から熱いスカウトを受けたんだけど、
「夫のお墓があるイレネウ島を離れるつもりはないんです」
という一言で一蹴したそうです。
「それに、グレタ様がイレネウ島にあるお貴族様たちが利用していた屋敷を使って、麻薬の治療も兼ねたリゾート地を作ると仰っているのです。多くの国々の方々が来て頂ければ国を越えて娘のマリーも治療が出来ると思いますので、陛下もまた、何かご家族の方で問題があれば、いつでもイレネウ島まで来てください」
皇帝相手にそんなことが言えるケイシーはすごいよ!本当に凄すぎるよケイシー!
「グレタ様、イレネウ島に戻ったら早速、救護院の院長先生とお話をして、各国の患者さんをお招き出来るように、治療院の開設を急いでもらうようにしたいと思います」
ケイシーがマリーとソフィーの頭を撫でながらそう言うと、その後ろからアンデルバリ公爵が、
「グレタ夫人には色々と世話になった。礼にもならないとは思うが、うちの優秀な文官を同道させて治療院やリゾート地の開発を手伝わせることとしよう」
と、言い出した。
「アンデルバリ公爵様、先ほどご子息が帰国したみたいですけど?」
「ブランドンとは後で幾らでも話すことが出来るから問題ない」
そう答えてせつなそうに見つめる公爵様の目に、ケイシー、全く気が付いていないよね!流石だよ!ケイシー!
「マリー!ソフィー!」
「お前ら絶対にまた帝国まで来いよー!」
慌てる護衛を引き連れて、ルドルフ王子と皇帝のお孫さんであるカリグラ皇子がやって来た。カリグラ皇子がミディ中毒になっているという噂を聞きつけた私は、帝国まで聖女一家を送り込んだんだけど、無事に回復した皇子様はお祖父様(皇帝)と一緒にヴァールベリ王国までやって来たんですね。
これが物語の展開だったら、幼いながらに恋とか愛とか生まれるんだろうけど、
「うちのイレネウ島にも来てよ!」
「また王宮の探検をしようね!」
「お菓子また食べたい!」
「今度はマリーとソフィとルドルフで帝国に来いよ!」
六歳児、五歳児、四歳児の四人の間に生まれるのは友情らしい。
「グレタ・ヴァルストロム夫人」
ルイーズ王妃と皇帝アントニウスは、ゾロゾロとお付きの者を連れて私と夫の前まで来ると、皇帝は皮肉な笑みを浮かべながら言い出した。
「その男に飽きたらいつでも帝国に来い、私の妻になるのが嫌だったら、息子を紹介するからな」
「「グレタは絶対に渡しません」」
ルイーズ王妃と夫がほぼ同時に言い出すと、吹き出して笑った皇帝は、
「随分と気に入られている」
と、言い出した。
「アンネ、陛下にあれをお渡ししてちょうだい」
後ろに控えるアンネに声をかけると、アンネが指示を出して、大量のサヴァランが入った箱と、パッキングされたロムーナ茶が入った箱を持ってくる。
「オルランディ帝国の皇帝陛下、あなた様に紅茶とサヴァランをご用意いたしました。船中でのデザートに、宜しかったらお食べくださいませ」
側近が箱の山を受け取るのを眺めながら、
「これは大司教にも渡したのか?」
と、問いかけられる。
「もちろんお渡ししました。紅茶とサヴァランを教皇様の元へ届くよう、特別に加工したものを用意致しました」
「真空パックとか言うやつか」
「そうです」
「クウーッ、もうちょっとヴァールベリ王国に居たかったなあ・・」
皇帝陛下が悔しそうに声を上げると、
「お兄様、もうすぐ出航の時間ですよ」
と、王妃様が冷めた調子で言い出した。
色々と揉めていた皇帝陛下と大司教様だったけれど、同じ日にそれぞれの国へと船で旅立った。茶葉の生成工程を見学するために王国に残った使者たちも、用意された船で出発した。
その船には聖女一家も乗っているので、アンデルバリ公爵が泣きそうな顔で見送っているのを眺めていると、
「グレタ、私の分の紅茶とサヴァランは?」
と、頬ずりしながら夫が問いかけてくる。
最近、宣伝の意味で紅茶とサヴァランを振る舞うことが多かったんだけど、夫は自分の分をきちんと用意しておかないと、途端に拗ねるのだ。
「もちろん用意しておりますよ、サヴァランはタクラマ神聖語で『あなたを愛しています』という意味になるのですもの」
夫に引き寄せられるようにして抱きしめられると、
「ルイーズ王妃様とルドルフ殿下はもうお戻りになられるようですよ?奥様もそろそろ戻らないとお腹が冷えてしまいますよ」
と、アンネが容赦無く言い出した。最近、アンネは私のことを奥様と呼ぶ、彼女は遂に夫のことを認めたのかもしれない。
「ねえ、アンネ、私はアンネの婚活のことを忘れていないわよ?」
「はいはい、分かっておりますよ」
「本気にしてないでしょう?きちんとアンネの相手は私が責任持って見つけてあげるから」
「はいはい」
ようやっとヴァールベリ王国に平和が訪れたので、アンネの結婚相手を探してあげよう。夫の秘書となるウルリックが、チラチラとアンネのことばかり見ているのだから、灯台下暗しってことを教えてあげなくちゃいけないのかもしれない。
「なんだ、ウルリックはアンネのことが気になるのか?」
夫が私の顔を覗き込むように問いかけて来たので、私は自分の唇を噛み締めた。
「また・・私ったら心の中の声を呟いていたのかしら?」
「小さい声だったからアンネには聞こえていないと思う」
夫は不貞腐れた顔をするアンネの方を見ると、悪戯を思いついたような顔で私の方を見た。
皇帝と大司教様が帰った一ヶ月後に兄のヨエルが王国に戻って来たけれど、兄は帰ってくるなり寝込んでしまうし、カール殿下は公爵の地位を譲り受けたブランドン様に嫉妬しまくるし。
結局ヴィアンカ様は、ほだされた形でカール殿下と結婚することになるのだけれど、カール殿下のことを気に入った皇帝陛下が殿下を帝国に誘ったりと、王家のゴタゴタはいつまでも続いていったので、オスカル殿下の髪の毛は更に薄くなってしまった。
ナルビク侯国に嫁いだヴィクトリア様だけれど、グレタ式結婚披露宴をナルビク侯国に流行らせたらしい。妻のやることは何でも許してしまう血が付いた翼竜?みたいな二つ名を持つハラルド様は、妻にベッタリすぎていつも側近に怒られているらしい。
ハラルド様の二つ名を夫に問いかけてみても、
「血豆が出来た翼竜だろ?」
と、いつでも言い出す答えが違っているから、何が正解なのか、いつまでもわからないのだった。ちなみに夫は、子供が生まれたら私の親族たちを招待して、披露宴パーティーをやり直すつもりでいるらしい。
「だって、父上母上への手紙をグレタは読みたかったのだろう?」
そりゃ前世の話になるのだけれど、まあ、確かにやりたかったよ。花束贈呈もやりたかったし。
「その前にまずは子供を無事に産まなくちゃですけどね」
私がそう言って自分のお腹を撫でると、夫は蕩けるような笑みを浮かべるのだった。
〈 完 〉
これでこのお話は終了となります!最後までお付き合い頂きありがとうございます!
ハタヤシキ様はちす様ほか誤字脱字チェック頂き有難うございますm(_ _)m
あとがき的なものを活動報告に載せているので、覗いて頂けたら嬉しいです。
この作品は改めて書き直したものとなるのですが、予想以上に長くなってしまいました。テレビでは終わらない戦争の映像を毎日のように見る日々ではありますが、物語の中くらい、パッと終決しても良いじゃない。という思いで作り出された作品ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
『悪役令嬢は王太子妃になってもやる気がない』も連載していますので、お暇な時にでも読んで頂ければ嬉しいです!!
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