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紅茶とサヴァランをあなたに 【改訂版】  作者: もちづき裕
第三章  イザベルデ編
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第五十八話  断罪

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 本国へ帰って来たばかりなのに、全く休む暇がない私ステランの妻であるグレタは小説を書いている。


 毎日サンライフで掲載される小説『秘密』では、数々の秘密が暴かれる。作中、公爵家の令息を義姉から奪い取ったマリアは、妊娠するために夫以外の男の子種を手に入れるのだが、その子種の提供者である男こそが、正当なる公爵家の血筋を引く男だった。


 明るみとなる公爵家の乗っ取り、異母姉と夫との間で続けられる不貞行為に悩むマリアは、自分の子供を連れて子種を与えてくれた男の元へと向かうのだが・・


「これはこれは」

 血の証明の儀式を神の御前で行った大司教は、思わずといった様子で言葉を漏らしたのだった。


 タクラマ神聖国の大司教が行う『血の証明』は、神への祈りを捧げることで実現する。タクラマ神聖語を使った祈りの言葉は非常に複雑で難しい。低位の神官は簡単な祈りしか捧げられないため、一家族単位でしか出来ないことだが、大司教ともなると証明の範囲が広くなると話には聞いたことがある。


 私自身『血の証明』など初めて見ることになるのだが、大司教と六人の神官による神への祈りの言葉が捧げられた後、聖堂を光の絨毯のようなものが広がっていくことになったのだ。その光の絨毯は身廊の中程まで広がったのだが、その光から伸びる線が、私とグレタとグレタの腹の周りをくるくる回り始める。


 早朝のため、眠そうなルドルフ王子とマデレーン妃、オスカル殿下の周りには太い光の線が囲み、細い光の線がルドルフ王子と国王、王妃へと繋がっている。そして、乳母が抱えるリカルド王子の方を見れば、リカルド王子と乳母の二人を細い線が繋いでまわり、イザベルデの周りには何の光も取り巻くことなく一人で立っていた。


「一応、言ってはおきますが、これは血の証明を行うものであり邪悪な何かを弾くというものではありません。もしも、リカルド殿下とイザベルデ様とが親子関係であれば太い線が生まれますし、叔母と甥の関係であれば、そこに居る乳母とリカルド殿下とを結ぶ細い線のように現れることとなるのです」


「リカルドはカールの息子どころか、イザベルデ、貴女の子供ですらなかったの?」

 ルイーズ王妃が驚きの声をあげると、リカルドを抱える乳母が崩れ落ちるようにして泣き出した。


「だがしかし、確かにイザベルデは妊娠していたし、王宮内で出産をしたはずなのだが」

「おそらく入れ替えを行ったのでしょうね」

 大司教はそれも良くあることなのだと言い出した。


「子供は無事に生まれたとしてもその後、間も無くして死ぬということも残念ながら良くあることなのです。高位の身分であればあるほど、子供の死は受け入れられないことが多い。保身にかられることになった母親が、秘密裏に死んだ子供と生きている子供を入れ替えるなどということは、実は良くあることなのです」


「イザベルデ様は輿入れの時にはすでに妊娠していたのです!」

 リカルドの乳母は泣きながら言い出した。


「相手はハプランス人の男です、ハプランス人のイザベルデ様がハプランス人の男の子供を産むのは問題ない。ただ、何処で産むのかが問題となり、急遽、ヴィアンカ様を押し退ける形でヴァールベリ王国へ輿入れする形としたのです。ですが、生まれたお子は七日ほどで亡くなった。そうなった場合も想定して、赤子はすでに用意されていました。私の姉の子はハプランス貴族の子となりますが、時期がちょうど良いとされて、ヴァールベリ王国まで連れて行かれることになったのです」


「嘘よ!全て嘘!リカルドは私の子よ!私の子なのよ!」

 絶叫して暴れるイザベルデは近衛兵に押さえつけられているけれど、そんなイザベルデを無視して、オスカル殿下が乳母に問いかける。


「お前はハプランス人だな」

「は・・はい」

「そうか、その面立ちは確かにハプランス人の特徴と言えるだろう」


 ハプランス人の女性は目が大きく、鼻は弓形となっているのが特徴とも言われている。

「グレタ夫人、小説『秘密』とはまた違った展開になったな」

 と、言って立ち上がったオスカル殿下がグレタの方を振り返りながら言い出した。


「小説『秘密』の中では、例え行為がなかったとしても妊娠できるし、その妊娠するまでのエロが凄かったと思うのだが、そもそも、輿入れ前にイザベルデは妊娠していたというのなら、秘密の行為は全く必要なかったということになるな」


 秘密の行為とはアレだ、子種を自分の手で仕込んでいくアレ、とにかくエロがエロしてエロしているような状態なので、読者(特に男性)を非常に刺激する内容になっている。


「そうよ・・そうよ!小説!あの小説!なんであんな小説を読んで皆が私を想像するのか全く理解出来ないわ!意味がわからない!同じようなところって、義姉から男を奪ったっていうところだけじゃない!」


「えっとですね、小説って架空の物語なんですよね?娯楽でもありますし、面白ければそれで良いというところもあるわけで・・」


 イザベルデに睨まれたグレタは、怯えたように私にしがみつきながら言い出した。


「結局、ポルトゥーナ王国の側妃エリザベート様は完全にクロですし、子種を運んでいた侍女も厳しい取り調べの末にゲロってますし、全部が架空ってわけでもないんです。アンデルバル公爵家のアウレリア夫人も同じことをしていますしね」


 こうなるとハプランス人の女は信用ならないということになるだろう。新しい王が新しい国を作り、変わってくれるといいのだが。


「でも!私はそんなことしていないわよ!」

「ですがね、王家に嫁ぐっていうのに輿入れ前に妊娠していたら、遅かれ早かれ毒杯案件ではないのでしょうか?」

「ど・・毒杯?」


 間抜けな顔をするイザベルデを見て、思わずため息を吐き出したくなる。


 ハプランスの王は過激なほどの選民思想を持つ男で、オルランディ帝国の皇帝に対して強いライバル意識を持っていた。帝国が周辺諸国を平定して巨大な国家を作り上げるというのなら、自分は密かに周辺諸国の王族の血をハプランス人のものに塗り替えて、ハプランス人による統治国家を作り出そうと考えたのに違いない。


「帝国は周辺諸国を次々と呑み込む形で大きくなったのだから、ハプランスも同じようなことをしようと考えること自体が間違っている。帝国は宗旨替えをして今はタクラマ神聖国が信奉する神を信じることをやめている。だからこそ、神の許しなど必要ない形で国土を広げ続けている。私は貴女の父を直接見たが、貴女の父はタクラマの神を信奉しながら、帝国と同じことをやろうとしていた。いくらでも女を抱いて、聖なる自分の血筋を広げようと躍起になっているように見えたが、その王の孫となるイザベルデ様、あなたもまた、王の妄執に利用されたということですよ」


 私がそのように言うと、オスカル殿下が呆れた様子で口を開いた。


「なるほどな、ハプランス人の血で我が王家を染めようと考えたのか。無事に私を追い落として、ハプランス人の子供に王位を授ければそれで良し。それが駄目となれば、武力で制圧すれば良いと考えた。私の母を最悪排除して、それが我が王家の所為ともなれば皇帝である伯父上は激怒する。そこを利用しようと考えたのだろうがな・・」


 オスカル殿下はめっきり少なくなった頭髪を右手で撫でながら言い出した。


「全てが明るみとなった時に皇帝の怒りが自分達に向くことを想像出来なかったのか?全てが明るみとなった場合、タクラマの神がハプランスの王の妄執のような願いを受け入れるわけがないということを想像できなかったか?」


 すると、大司教が前に出て言い出した。

「タクラマの神は人々を統治する権利を正当なる血筋の者へ委譲しているのです。正しき血筋を己の欲望で塗り替えようとする行為は、毒杯どころの罰ではなく、異端審問案件となりますからね」

 にっこりと笑う大司教を見つめたイザベルデは、その場で失神してしまったのだった。



6/10(月)カドコミ様よりコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』が発売されます!!書き下ろし小説(鳳陽編)も入っておりますので、ご興味ある方はお手に取って頂けたら幸いです!!鳳陽ってどんな国?なんてことが分かる作品となっております!よろしくお願いします!!

宣伝の意味も含めて『モラヴィア侯国編」の連載を開始いております!サヴァランももうすぐ終わりとなりますので、最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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