第十話 ステランの興味
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ポルトゥーナ王国からヴァールベリ王国へ輿入れしてきたイザベルデ第二王子妃は、我が国に空前の紅茶ブームを巻き起こした。元々、茶というものは健康に良い『薬』のような扱いだった為、好んで飲むようなものではなかったのだが、豪華で美しい茶道具とお茶を飲む習慣というものをイザベルデ妃がポルトゥーナからもたらしたことにより、貴族の嗜みとして受け入れられることになったのだ。
軍人として働いていた私、ステラン・ヴァルストロムとしては『茶』など自分には全く関係のない飲み物であると思ったのだ。元々、紅茶よりも珈琲の方を愛飲していたし、
「とっても健康に良いのですよ!」
と言われても、はあそうですか、という程度にしか考えていなかった。
我が国に『紅茶』を持ち込んだイザベルデ妃の紹介によって、ロトワ大陸の遥か東に位置する安陽国から『茶』は輸入されることになったのだが、
「紅茶に夢中となったヒドルストン伯爵が破産!」
という記事が新聞にデカデカと載るまで、紅茶はただの嗜好品程度にしか考えていなかったのだ。
「旦那様・・旦那様・・本当に・・本当にまずいですよ」
流石に新婚の妻が同じ屋敷内に居るのだから、晩餐に招待するために秘書のウルリックを差し向けたのだが、顔を真っ青にして脂汗をかいた秘書は、執務室に入ってくるなり言い出した。
「旦那様が女心もわからない唐変木だというのは十分に理解しておりますけれども!今までの奥様の扱いはあまりにも酷すぎます!酷すぎたがゆえに、奥様は・・」
書類から顔を上げた私は、苛立ちを露わにしながら自分の秘書を見上げると、ウルリックは私の不機嫌さなど無視した状態で訴えた。
「奥様は離婚を考えております!すぐにでも離婚したいみたいですが、結婚は家と家との契約ゆえに、流石に今すぐの離婚は無理だとしても、一年後には絶対に離婚すると息巻いておりました!」
両手を胸の前で握りしめたウルリックはブルブルと小刻みに震えている。
「私は何度も結婚前にお会いになった方が良いと言いましたよね?お互いに意思確認を取った方が良いと言いましたよね?奥様は、あれほど素晴らしい披露宴会場を作り上げた方なのですよ?結婚に対しては夢や希望に溢れていたのでしょう!それを・・それを踏みつけにして叩き潰したのは旦那様なのですよ!」
「うぐっ・・」
二の句が出ないとはこのことで、私はそれについては挽回できないほどの大きな失敗を犯していたのだ。
ストーメア家の『鬼才』とも呼ばれるグレタ・ストーメア嬢は、誰も思いつかないような発想力を持つ女性であり、兄と立ち上げた商会をたった数年で王国で五本の指に入るほどの大商会に仕立て上げたような人物でもある。
グレタ嬢は優秀なバイヤーで、貴婦人たちが好む宝飾品、小物からドレスまで、流行を作り出していると言っても過言ではないと言えるだろう。私が手がけているロムーナの紅茶に興味を持ってくれたのもグレタ嬢であり、今回の結婚も私からの申し出によって進められたものだったのだ。
自分から進めた結婚だというのに、目がまわるほどの『多忙』と『侯爵』という立場を理由に、グレタ嬢を放置したのは間違いだった。更には、彼女の渾身の力作である披露宴のパーティー会場を、義妹のヘレナが、
「愛するお兄様の為に私自ら用意致しましたのよ!」
と、嘘をつき、自分こそがパーティーの主役だというように振る舞う素振りまで見せたのだ。
「私にも色々と事情というものがあったのだ、そのことを今日はきちんと話しておこうと思ってだな・・」
「一応、時間を置いて奥様の元へと向かいまして、晩餐に招待したところ、奥様は招待に応じると仰っています」
ウルリックは心底うんざりした様子で言い出した。
「旦那様、本当の本当に、女性に対する対応を学んで頂かないと困ります。今まで有象無象の貴婦人たちを追いやるために、塩で塩で塩対応を貫き通して来たのはよく分かります。ですがね、自分の妻まで塩対応というのは本当にどうかと思います。義妹のヘレナ様程度には愛想を良くしていただかないと困ります」
「ヘレナだって?」
「披露宴でも、花嫁であるグレタ様ではなく、ヘレナ様をぶら下げて歩いていたじゃないですか?」
「あれは、親族への挨拶へ無理やり誘導されていたからで」
「頭が沸いているんじゃないですかね?」
大きなため息を吐きながら黒髪をくちゃくちゃに掻き回したウルリックは、
「まずは自分の花嫁に対して興味を持ちましょう!」
と、言い出したのだった。
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