エルシノア辺境伯領
本編始めます。できれば週1ペースで更新するつもりです。
「ロースターの森」を抜けると緩やかな谷間を歩くことになる。そしてそこを抜けると牧歌的な農村の風景がお出迎えなはずだったのだが。...あれ?谷間の終わりに砦が見えてきた。というかあんな砦あったか?周りの防壁も含め、ちょっとした城塞と化している。ゲームの記憶と違う。
「ねえ。あの砦、いつできたの?私の記憶にないんだけど」
こういったことは、知っているものに聞くに限る。こういうとこは便利だな「管理者」。
『ふむ。我が「ロースターの森」に居座ってからしばらくしてできたな』
バルバロスがつぶやく。龍族は人の姿をとれる。見た目20代の青年だ。身長は180cmくらい、細マッチョのイケメン。髪と目の色はエメラルド、グリーンドラゴンだしね。私についてくると主張した時の条件だ。でかい図体のドラゴン連れて歩くなんて、行く先々で恐慌起こしてどうするんだということである。しかしさわやかなイケメン面がちょっとむかつく。こちとら背低めの10代のちょっとイタイ魔法少女の格好だというのに。
「じゃあ、あれはドラゴン警戒してできたわけだ。あんたも迷惑なやつだねぇ。それにもう念話じゃなくて普通にしゃべってよ」
「よかろう。声を出すのは久しぶりだ」
ケッ。声までイケボである。よく見ると、結構な数の兵士が砦に集まっており、門の前や防壁の上で列をなしている。そういえば初めて人の姿を見た。とはいえフルフェイスの甲冑姿だから中身はわからないけど。しかし、警戒されているなぁ。微妙に敵意を感じる。威圧というか殺気というか。もはや単なる役割を演じるだけのNPCではなくなっているのだろう。穏便に中に入れてほしいなぁ、と思いながら砦へと近づいて行く。さて、ゲームではなくなった世界で無事ステージクリアはできるかな。
「おい、君たち。どこから来た?まさか「ロースターの森」を抜けてきたのか?」
門で整列している兵士の中からフルフェイスをしていない隊長格っぽい人(おぉ、よかったちゃんと人族だ)が、ずいっと前に出て、バルバロスに向かって訊いてきた。
「ふん、我に「ちょっと(黙ってて)、すみません、そうですその森からきたのですが、すごい兵隊さんの数ですね、何かあったのですか?」
ふんぞり返って余計なことを言いそうなバルバロスを制して、口早に応じた。あれほど、事前に打ち合わせておいたのに。
「おぉ、まあこれは昨日ものすごい魔力を感知したため、兵を増員して備えておるのだ。知っての通りあの森には現在ドラゴンが生息しており、昔から警戒をしているのでな」
いきなり答えた私に慌てて視線を移し、隊長さん(取り敢えずそういうことにしておく)が丁寧に教えてくれた。優しそうな人だ。立派なひげが似合う30代ぐらいで、恰幅も良い。そうか昨日バルバロスが私の正体(「黒炎龍姫」)に気付いたとき、ものすごい「咆哮」を確かに上げてたね。
「それにしても、本当に森から来たのか?」
どうやら疑われている。考えてみれば5百年前「チュートリアルの村」が壊滅、さらに2百年前からはこいつ(バルバロス)が住み着いていたのだ。森から人が来るわけないか。
「いや~、ちょっと「テレポート」に失敗したらしくてあの森の魔法陣に出てしまったんだ」
どうだろう下手な言い訳か?
「なに!そうなのか?あの森に転移陣があるはずがないのだが。それに遺跡があるという記録もなかったはず...?」
おっ。上手くいくか?
「もしかするとそのドラゴン、実は龍族で、だから設置できたのかもしれませんね」
これは本当のことだ。
「...う~む、なるほどあり得ぬこともないか。そうならば王都に連絡して、転移陣の運用に気を付けるようにしなければ。しかしよく無事だったな」
「?そうですね。運がよかったみたいです」
なんか上手くいったみたいだ。(でも王都?転移陣?運用?確か魔法陣の設置は高位のスキルを持った龍族くらいしかできなかったはず。王国のダンジョンは「クラスチェンジ」クエストのやつだし、遺跡以外にも魔法陣があるというのか?)
「では、この辺境伯領に来るつもりだったのか?」
「辺境伯?え、ええ...そうですね。領都までは遠いのですか?」
「そうだな。この先に村がある。そこから2日ほどだ。途中にも町がある」
(ふむ。大体以前の配置と変わらないな。しかし領都か。ギルドのあるちょっと大きな街程度だったが。辺境伯ね。まあこの場所の重要度が増したということか)
「失礼だが、身分証を見せてくれないか。一応外から来たものとして扱わねばならない」
素直にギルドカードを見せる。私は種族:人族、ジョブ:冒険者(魔法剣士)、バルバロスも種族:人族、ジョブ:冒険者(魔法戦士)だ。馬鹿正直にジョブ:プレイヤーだの、種族:龍族、ジョブ:管理者だの、面倒間違いないことするわけがない。本来ギルドカードを偽装するなんてことできないはずだが、そこは「管理者」、まだこの程度はシステムに介入できるらしい。ちなみにプレイヤーはクラスで分かれるが、NPCらのジョブはFからAランクに分かれる。我々は取り敢えず目立たぬよう一人前とされるDランクにしてある。そして冒険者ならどのステージでも自由に出入りできる。今もそうだと「管理者」の言。
「クロエ・ビロウとバルバロス...」
隊長さん。じっとこちらを見つめてきた。名前まではバルバロスが変えられなかった(変えたくなかった?)のでそのままだったけどマズったか?
「...よいだろう。ようこそ「エルシノア辺境伯領」へ。道中、気をつけてな」
よかった。通してくれた。ようやく1stステージ突入だ。
お読みいただきありがとうございます。ほぼ衝動的に書き始めたため、素人丸出しの拙いものとなっておりますが、これも経験と続けさせてもらえればと思います。どうか温かい目で見守ってください。少しでも自分自身、上達が感じられれば加筆修正を今後させていただく所存です。よろしくお願いいたします。