チュートリアルステージクリア
『お主はなぜ現れた?どうしてここにいるのだ』
バルバロスがこちらを見つめて、しずかに問いてきた。
「まず最初、私がこのアバターの姿となっていた時だが、たぶん5百年前の「はじまりの教会」の中にいたんだと思う」
『なに?彼奴が魔力暴走を起こしていた時、その中にいただと!』
おっと、ビックリしている。それに今回はあやつか。まあ、そんな場所に誰かがいたなんて思いつかなくても仕方がないか。
「確かなことは言えないがそうなんだと思う。まだ教会の中はかつての状態だったし、何よりその時ログアウトしようとしてできなかった。つまりそいつの魔力暴走?まあシステム改変がはじまっていたからなんだと思う」
そして魔力の奔流、つまりはシステム改変に巻き込まれた。その改変の具合なのか私に「クロエ・ビロウ」の中身がインストールされた。
「そして、次に気づいたのが今の朽ち果てた教会だ。つまりこの間5百年の記憶は当然ない。「自己冬眠」していたと考えるべきか「時間跳躍」と考るべきか」
『いや「自己冬眠」では、お主が教会にずっといたことになる。そんな形跡はなかった。しかし「時間跳躍」だと?』
そうなのだ。「自己冬眠」は無属性魔法でバンパイアなど不死系魔族がよく持つスキルだ。まあ長い時を生きるものはたまには長期休憩したくなるのだろう。しかし「時間超過」、時間を操るスキルはこの世界にはないことになっている。空間属性魔法のスキル「ストレージ」は中の時は止められるが、この世界と断絶した空間内のことだし、そもそも生き物は中に入らない。この世界の時間を操作できるとなれば、まあルール崩壊であろう。「管理者」が驚愕するのは当然だ。しかしやり直したいならリスタートすればよいのだし、ゲーム内時間に本来とらわれないプレイヤー(まあクエスト中はゲーム内時間に囚われるが)にとってそもそも時間操作スキルはそれほど重要ではない。ログアウトできればだけど。
『つまり、彼奴は時間を操作できるスキルをもっておったのか?』
「確定はできないでしょう。そもそも魔力の奔流だって謎の状況じゃない?ポータルの機能を停止するんだから」
『それもそうか。偶然が起こしたと考えてもよいのか』
ちょっとほっとしたような顔になっている。なんか単純だな、こいつ。
「それにしても、この世界にプレイヤーがいなくなって2百年経っているんでしょう?なんであなたは「管理者」をやっているの?」
そうなのだ。プレイヤーがいないこの世界は、もはやゲームではない。プレイヤーがいてこそのゲームじゃないか。NPCや魔物がただ動いているだけの世界。いや待てよ。この世界は確かにもうゲームではない。改変の影響であろう、食べて味わえる世界だ。ちなみに排泄は必要ない、何故か老廃物は魔力というか魔素(言葉の通り魔力の素)に変換される謎仕様の便利世界だ。そして魔物を含めこの世界の生き物は食料となる家畜などを除き、死ぬと魔石を残す以外はこれ(魔素)になる。そう、私も死ねば魔石を残し、魔素と消えるだろう。リスタートできない以上、現実の世界と変わらない。それにこの世界は既に5百年も経過しているわけだし。
もしかしてそれがバルバロスがいうところの"あやつ"の目的?プレイヤーのいないゲームではない世界。若しくは異世界からの干渉を受けない世界とでも言い換えるか。...そうなのか?
『確かにもう我以外は「管理者」はいない。プレイヤーがいなくなった後、皆は名を捨てた』
「管理者」だったものはただの古龍となり、それぞれ散っていったらしい。
『我は残った。彼奴と対峙し、この状況になるのを止められなかった。我はどうにも納得がいかぬのだ。だからプレイヤーがいなくなって後、「ロースターの森」に留まり、異変が起きるのを待っておったのだ』
5百年前、異変は「はじまりの教会」で起きた。次の異変、起こるとすれば「はじまりの教会」であろうと。...気の長いことだ。まあ古龍だし、時間の感覚がおかしいのだろう。
『そして「はじまりの教会」よりお主が現れた。この状況の打開をもたらすのかもしれん。それでお主どこへ行くのじゃ』
もともと少しでも情報を得たくて、次のステージに行くつもりだった。バルバロスに出会い、だいぶ状況の整理ができた。しかし漫然とこのままこの世界で過ごすのもどうなのだろう。いまだ私が「クロエ・ビロウ」であることに何ら解決がなされていない。
「とりあえず次のステージに向かうよ。私はプレイヤーだしね。一歩ずつステージクリアだ。システムの改変でこの世界がどう変化しているのか確認したいし。チュートリアルステージは、クリアというよりステージ崩壊していたけど」
『そうか。...よし、我も付き合うぞ!』
...ええええ。
序章完了です。次章から本編がはじまります。...たぶん。