最強最恐のプレイヤー
(しまった。まさか「管理者」だとは思わず最初に名乗っちゃったね)
ギロリと、出会った頃のような敵意むき出しの視線をこちらに向ける。
『我が名を与えられたあの時、本来古龍としてもまだ若すぎた。にもかかわらずだ。何故かわかるか?』
「え~と、...何故でしょう?」
『とぼけるな!お主が知らぬはずがなかろう!』
特大の「咆哮」が響き渡る。「状態異常無効」の私は硬直も何もしないけど。しかし、これはまずい。ここで争っても無駄というか、まだ聞きたいことがある。
「いや、それは確かに私が原因というか、そうなんだけど。ちょっと説明させてくれ。その原因だった私と今の私は同じではない。別の存在なのだ」
『なにをたわけたことを!そんな言い訳通じると思うのか!』
「いや冷静に考えてくれ、5百年経っているんだろう?プレイヤーだぞ?人族だぞ?生きているわけないじゃないか!」
バルバロスが動きを止める。チャンスとばかりに、言葉を続ける。
「まず初めに言っておくと、このアバターの本来のプレイヤーは今の私ではない。しかしこのアバターが持つ能力は確かに引き継いでいでいる。なぜそんなことになったのかはわからない。そもそも元の私のアバターがどうなったのかもわからない。そしてこのアバターが何をやらかしたのかは経験として知っている。だがその時のプレイヤーが何を思っていたのかだってわからないのだ」
一気にまくし立てた。まあ寿命を持ち出したりアバターの引継ぎなどいろいろ無理がある説明だがここは一気に押し通したい。
『それでは何か?あれほど我々「管理者」を次々に滅ぼしたことは知っていても、今更その意図はわからないとでもいうのか』
そうなのである。「黒炎龍姫」最強最恐のプレイヤーといわれる所以である。なにせこの世界の最強種族というかそもそも滅ぼしちゃいけない「管理者」を狩りまくっていたのだから。私でもイカレているとしか思えない。ゲームを楽しむ為にあるルールをぶっ壊すヤツなんて、普通に頭おかしいでしょ。そりゃ恐れられるよ。そして実際、何体かの「管理者」を狩っていたし。最強種族を倒すんだからほんと最強である。当時世界中のプレイヤーやNPC達、大混乱の大騒ぎだった。でも少なくとも5百年以上前のことだ。記憶の片隅から消えていてくれればよかったのに。...無理か。
「嘘は言っていない。それにもしその意思がまだあるなら、こうして会話をしているわけないでしょう?」
まあこのアバターの中身が今は別人であることは事実だし、ドラゴンにしかも古龍に嬉々として戦いを挑むなんて、私は正常なのだ。ルールは守る人なのだ。必要がなければそんな面倒なことはしない。
『お主の言い分、納得しかねる部分は多大にあるが、確かにここで争っても同胞が戻ってくるわけでもなし、お主も我らを滅ぼそうというのでないのなら、このことは一旦保留にしておいてやる。ただし、完全に許したわけではないぞ』
よかった。話が続けられそうだ。
「話を戻しても?つまり5百年の間プレイヤーがログインもログアウトもできなかったということだよね。ということは、その時この世界に残されたプレーヤーはどうなったの?」
『ふん。平気で話を戻しよって。まあいい、残されたプレイヤーは当然この世界で生きていくしかなくなった』
どうやら、残されたプレイヤーの反応は様々だったらしい。帰れなくなり恐慌状態になり、中には自殺したり、自棄になって高ランク魔獣に挑み命を落とすものなど。変わらずにプレーヤーとしてクラスチェンジを目指すもの(ようはそのままプレイを続けたということ)。プレイヤーを実質やめてNPCと同じような生活を始めるもの。実に様々だったらしい。
『そしてお主も知っての通り、プレイヤーは全て人族だ。寿命がある。「AAA」クラスに上がったとしても精々が3百年だ。およそ2百年前には、この世界にプレイヤーはいなくなった』