閑話:万年ルーキー3
「おい!どうなってやがるんだ?アイツ、チョットおかしいだろ?」
カジがこちらに話しかけてくる。...というかボヤキだね。
「ボクに言うことじゃないでしょ?まあ、気持ちはわかるけどさ」
そうなのだ。どう考えてもアイツ、クロウはチョットおかしい。...いやチョットじゃないな。
ボク、いや元々私のアバターである「黒炎龍姫」クロエ・ビロウは、ゲーム時代の大改変前もそして伝説となった今のこの世界でも知らぬ者のいない超有名「最強最恐のプレイヤー」である。戦闘力が半端ないことは、誰でも知っていることである。とはいえ聞くと見るとでは違うのだろう。カジは相当衝撃を受けていた。そしてそれは、あのアバターを誰よりも知っていたはずの私もだ。「大地固化」って何だ?そんなもの知らない。たぶん固化系(硬化系)スキルを派生させたのだろうけど。ダイヤモンド並みの硬度って、しかもダンジョン全体に?そんなもん出来るなんて知っていたらワームなんて気色悪がることもないじゃないか。...反則だよ。なんでアイツ、私よりアバター使いこなしてんの?
後ろでカジと二人で驚愕していることも構わずクロウはダンジョンの最深部へと突き進んでいく。ワームとの連携が取れないコボルトどもが哀れにすら思うくらいにサクサク狩り取られていく。...ほんとアイツ何者なんだ?
大体このルーの能力もおかしい。そもそも無課金アバターだ、初期ステータスは低く、伸びも悪い。実際、ルーのステータスも大したことはない。スキルもそうだ、無課金でガチャを回す数が制限される中、よくここまで集めたと思わなくもないが、Slvはやはり大したことはない。しかし「プレーヤー」のクラスはAAAなのだ、とても魔王城を単独攻略できたとは思えないレベルだと言うのに。
ルーのアバターにある記憶で、巧みなスキルの使い分けを行っていたことはわかる。が、どうしてそうできるようになったのかが、わからない。結果だけを見せられているようなものなのだ。...何かある。
そう思わなければ、説明がつかない。
「おいおい、もう最深部だぜ?おかしいよな?な?」
「いや、だからボクに言わないでよ」
結局、クロウの後ろで倒されたコボルトの魔石やドロップ品など拾うのを手伝っているだけで最深部、ダンジョンボス、おそらくコボルト王が待つであろうフロアにたどり着いてしまった。クロウが最短ルートでガンガン突き進んでいくのだからカジがあきれるのも無理はない。いくら「探査」スキルでマッピングが可能とはいえ、王が起ったダンジョンだ、戦士長や軍隊長クラスがダンジョンボスのものとは規模が違う。こんな感じで進めるわけがないのだが。少なくとも私があのアバターを使って同じことができる自信はない。...やはりアイツはおかしい。カジの言う通りだ。
私は2ndステージ「天空の泉」でこの世界が現実であることを真の意味で知った。まあ、元々このゲームの中に生きたいと願ってはいたし、それが実現したことを単純に喜んでいて、どこかゲーム感覚が拭えなかった訳だが、その傲慢でしかなかった私に冷や水を浴びせたのだ。確かにもうゲームコンソールは現れないし、ギルドにはセーブポイントはないし、宿屋等でリスボーンポイントを設定することもできない。リスタートできるわけでも、ニューゲームで「はじまりの教会」からスタートすることもできない。それでもどこかしらゲームのつもりでいた。しかし死んだら終わり。この世界のNPCや魔獣達と同じ、ただ魔石となるだけ。...それを実感できたわけだ。
カジは5百年もこの世界で生きてそれを実感してきたのだろうが、そうじゃないアイツはそれを理解していた。私と同じ経緯でこの世界にログインしているはずなのに、私とは違い、何故か最初から理解しているように感じる。...やはり何かある。
目の前、玉座にあたるところにコボルト王がこちらを睨みながら腰を浮かしかけていた。その脇には将軍と大魔法士達が守りを固めている。ゴブリンの時と大体同じ感じだ。ランク的には一つずつ上がってはいるけど。...何やら喚いているが、興奮して何いているか分からない。下級魔族の奴らは言語能力が低い上にすぐ興奮するので、ただ喚いているだけにしか聞こえないのだ。たぶんここ数十年、もっとか?ボス部屋までたどり着いたハンターがいなかったからだろう。ギルマスがゴブリンですら攻略に数年をかけていると言っていたし。もしかしてこのダンジョン、王が起って初めて攻略戦なのかもしれない。...と言ってもたぶん私らまた魔石拾うだけだろうけど。
「さて、とっとと終わらせて、魔核を持ち帰らないとね」
クロウが魔杖剣を軽く振りそう告げると、大魔法士を始めとした魔法士達のまわりに結界が展開される。詠唱阻害の結界だ。...あきれるほど簡単にそして素早くスキルを使う。
「ゴブリンの時、魔法は割と面倒だったからね。封じさせてもらったよ」
と、言い終わらないうちに「ワープ」して魔法士達の首を刎ね、魔石に変えていく。やがて、将軍達や王も同じ末路を辿った。
クロウが王の魔石を掴み玉座を退け、奥に現れた魔法陣に進む。そして手に持つ魔石をその魔法陣にかざすと、全体が光り輝き、魔核が姿を現した。魔石は球体だが、魔核は正多面体である。コボルトのは正六面体だ。つまりCランクダンジョンということだ。ちなみにゴブリンもサイコロだった。大きさは違うけど、この形はCやDランクにあたり、EやFランクは正四面体らしい。Bランクは正八面体、Aランクは正十二面体、Sランクが正二十面体だと、カジが教えてくれた。確かに魔王城のは正二十面体だった。まあ、私もそしてクロウも、ロータウンで魔核を集めることはしなかったので、魔核の形に種類があるとは知らなかった。
「ひとまずギルドに戻ろうか」
クロウがあれほどの戦闘をこなしておいて、微塵も感じさせず、ちょっとギルドから頼まれたお遣いを済ませたような気楽さで我々に向けて言い放つのだった。




