閑話:ロータウンギルドマスター ジェネ・マパッチ
話が終わり、目の前の4人の「プレーヤー」と思しき連中は、テーブルを挟んで2人ずつに分かれ座っていた長椅子より立ち上がり、
「それじゃあ、行ってくるよ」
その中の1人である黒髪の物凄い美少女が、頼まれたお使いでも済ましてくるような気やすい感じで声をかけ、部屋を出ていこうとする。
「よろしく頼む」
ジェネ・マパッチのその返答をその背に浴び、彼女らは扉の向こうへと消えていった。
―魔王が倒された―
ハイタウンからそんな話が流れてきたのは、5百年前の大改変よりしばらくたってからの事だった。ロータウンギルド内でのその時の印象と言えば、「ほぉ~」といったレベルであった。別に魔王は不倒無敵の存在ではない。過去にも倒されている。それに不死魔族だ、どうせ数年もすれば復活する。とはいえ魔族最強の存在だ。簡単に倒せるものではない、精々百年に一度あるかどうか。それが今回を入れればここ百年では三度目、それもタイミング的には大改変直前の出来事だったらしい。まあ、その話に嫌な予感を抱いた者も当然それなりにいた。そしてそのことを日誌に記したマパッチの3代前に当たるギルドマスターもその一人であった。
「ふう~」
吐いたため息とともに執務机の上で広げていた日誌を閉じ、マパッチは目をつむる。
その3代前のギルドマスターは、魔人族には珍しく几帳面で職務熱心な男だった。ギルドマスターのみが閲覧可能な禁書庫にある歴代のギルドマスターの日誌をすべて読み解くほどに。
今より数千年前は、3rdステージは魔王が存在しない時代であったらしい。なので、それぞれの魔族には王がいた。現在と似た状況である。しかし、現在と違う点がある。それはその当時の3rdステージの日常であったということだ。つまり、ハンターの質が全然高かったのだ。ゴブリン王のいるダンジョンを攻略するのが苦でないぐらいには。それでも、王のいないダンジョンの方が攻略が楽なことは自明だ。それにそれは若手ハンターの育成を容易にすることにもつながる。魔族一体倒して得る魔石より、ダンジョン攻略して得る魔核の方が経験値として破格であるからだ。
しかし、王のダンジョンを攻略して魔核を手に入れても、その後新たにできるダンジョンには、やはり王が現れる。そのため難易度が下がらないのだ。それではいつまでも若手が魔核を手にすることができない。
そこで、当時のハンターはどうしていたのかというと、100年毎に大規模攻略を行っていたのである。大規模攻略とは、ロータウン、ハイタウンそれぞれで、すべてのダンジョンの魔核を一度に手に入れる事を指す。
そしてそれを行ったロータウンもしくはハイタウンでは一定期間、50年程だが、ダンジョンに王が起たなくなるのだ。その50年でハンターを育成し、王の起つ次の50年で徐々にハンター全体を強化し大規模攻略を行うというサイクルを繰り返していた。魔人族の世代交代は大体200年程である。なのでハンターは一生に少なくとも一度はこの大規模攻略を経験するのであった。
しかし、何時しかハイタウンに魔王が現れ、そのことにより各魔族のダンジョンに王が起たなくなった。それに伴いハンターの質は次第に下がっていったのだ。まあ下がったというか綺麗にランク分けされ、均等化されたのだろうが。
そしてその頃かららしい、「プレーヤー」と呼ばれる人族がこのステージ現れるようになったのは。そして今では人々の常識である、他のステージがあることや、ここが3rdステージであるということ、他のステージと魔素の質が違うなどは、その「プレーヤー」達が語った内容であったと言われている。そしてそのことを証明するようにドワーフなど妖精族や人族が現れるようになった。もっとも魔素が違うため「プレーヤー」とは違い長居することはなかったが。
総じて「プレーヤー」達の能力は高かった。最高位のハンターを凌ぐ実力を持つものも珍しくなかったらしい。魔王を倒す者は大抵「プレーヤー」であった。とはいえ単独で挑む者はほとんどおらず、普通は高ランクハンターとチームを組んでの攻略ではあった。
マパッチは静かに目を開けた。現状を打破するために入った禁書庫でまず目についたものが、この3代前のギルドマスターの日誌であった。何故目についたのか。ぶ厚かったからだ。そしてわかりやすく整理されていた。過去のギルドマスター達の日誌により知り得たものや自身の経験で得た重要な事柄についてご丁寧にも見出しまで付けてくれてある。そしてその事柄全ては驚愕の内容ばかりであった。
―ロータウンあるすべての王がいるダンジョンの魔核を揃える。―
この現状を打破する方法を得ても今の戦力では到底不可能と思われ絶望的な気持ちでいたのだ。「プレーヤー」が現れたという知らせを受けるまでは。
目の前にある日誌の見出しの中には単独で魔王を倒したという二つ名持ちの「プレーヤー」の名もあった。
「もういるわけがないと思っていた二つ名持ちの「プレーヤー」が3人も現れたんだ。しかも一人はあの「最強最恐のプレイヤー」、賭けるしかねぇ」
ひとり呟いた。




