閑話:元セリカレギオ帝国宰相タクヤ・カジワラ
第三章始めます。
「最強最恐のプレイヤー」ことクロエ・ビロウにスキル「事象改変」を譲渡し、人族に戻してもらってからもうすぐ1年が過ぎようとしている。その間にフランギスタル王国との和解協議も済んだ。
まあ、補償金の額はすごいことになっているが、数年にわたる分割にて支払うことを了承してもらっている。それも無利子無担保で。かなりの譲歩を受けた形であり、我が国の財政に配慮してもらったわけだ。...たぶんあの「プレーヤー」が報奨を受け取らなかったのだろう。大きな借りだ。
今後、アフロユーフラ獣神国との交易が以前の形に復活すれば、財政の立て直しも容易であろう。火の山エルダーアレンの調査によると、カカオ豆やコーヒー豆、その他香辛料などの生産もほどなく再開できるとのこと。
そのあたりの道筋がついた時点で、宰相を後進に譲り引退をした。
そして、帝都の端に広い庭のある小さな平屋に移り住み、手慰みに庭で始めた家庭菜園に精を出す毎日を送り始めた。非常に充実していた。こうして自分の生を全うできる幸せを感じていたのだ、...バルバロス様が目の前に現れるまでは。
現在、俺は3rdステージの「ロータウン」にいる。なぜなら、バルバロス(今はバルと呼ばれていた)に連れてこられたからだ。
ロータウンは周りを下級魔族が経営するダンジョンで囲まれた形となっている魔人族の街である。
「アーガルドハーツ~レジェンドオブレガシー~」、5百年前、俺が取り残されたこのゲームは1stステージは人族、獣人族がおり、2ndステージには妖精族が、そしてこの3rdステージには魔族と魔人族がいる。まあ、魔人族とは名乗ってはいるが、実際は下級悪魔の一種族なので魔族ではあるのだが。
それぞれステージ間で移動ができないわけではないが、頻繁に行われいる訳ではない。各種族、術を使う環境が違うのでよほどのもの好きでないと移る者はいない。妖精族は術は精霊により発動する。この精霊は2ndステージにしかないものだ。人族、獣人族は魔素を魔力に変え術を行使する。この魔素も1stステージにあるもので、2ndステージにはない。魔族や魔人族も魔素を魔力に変え術を使うのは同じだが、この魔素は1stステージの魔素とは別物だ。相反するものと言ってよい。1stステージの魔素が正とするなら3rdステージの魔素は負となる。正を生、負を死に読み変えた方がよいかもしれない。「死属性」のスキルは3rdステージ特有のものだ。
そしてこのステージ、魔族はダンジョンを経営して、魔人族はそのダンジョンの攻略を生業とする。魔人族は下級悪魔だが姿形やステータスは人族とさほど変わらない。扱える魔素が違うくらいだ。そして、すべての魔人族がダンジョンに挑むわけではない、1stステージの冒険者のようなものたちがいるわけだ。このロータウンに来ればわかるのだが、1stステージの街のように、宿や防具屋など魔人族にもそれぞれ役割はある。
ゲームの設定では「プレーヤー」はこの挑む者に交じりダンジョンを攻略することになる。もちろん生産者スキルにて支える者になる「プレーヤー」もいるにはいるが、かなり少数派だ、そもそも1stステージや2ndステージの方が資源がは豊富だからな。だが、ダンジョンで魔族や魔獣を倒したとき、魔石と共に落とされるドロップ品には希少な鉱物やアイテムが稀に現れることもあり、それらを求めそれなりにこのステージにやって来る者はいる。
当然俺は挑む側の「プレーヤー」で、5百年前このステージ攻略寸前までいっていたのだった。いや、攻略したはずなのだ。あの大改変さえ起きなければ。
5百年前、その時俺はクラスチェンジクエストでもある魔王城攻略にソロで挑んでいた。そう、ソロで、である。このゲームでソロプレイをする「プレーヤー」はかなり少数派だ。そもそもソロでステージを攻略するのは難易度が高い、1stステージでさえもである。なので普通はNPC達とパーティーを組む。それ故延々としかもこの3rdステージでもソロで行うプレイヤーには二つ名が付く。たぶん変人扱いなのだろう。基本、数人でワイワイとパーティープレイする方が楽しいだろうしそういう風に作られているゲームだとは思う。まあだから、俺にも「狂乱戦士」なる二つ名がついている。...そう呼ばれるのは当然恥ずかしいのだが、幸いそれほど浸透してはいなかった。ほかに飛び抜けた有名人がいたお陰だ。
そして、魔王が使役していたヒュドラを倒し、魔王も倒し、魔王城の魔核を手にする寸前だったのだ。クラスチェンジクエスト達成だったはずなのだ。飛び抜けた二つ名持ち達に肩を並べる手前までは行けたと思えたのに。
大改変が起き、全てが消え去った。呆然としたものだ。事態を把握するまでかなりの時間を要した。ログアウトできないとわかり、ステージクリアできないとわかり、上のステージに行けないとわかり、1stステージに戻ろうとしたのだった。それからの話は知っての通りだ。
あの時大改変がおきず、魔王城の魔核を手にしておれば、と思わぬこともなかった。まあさすがに5百年も経てば薄れていくものだし、それに俺はこの世界がゲームなどではないと嫌というほど自覚している、いや、させられている、...か。それでもセリカレギオ帝国で過ごした今までの日々はそれはそれで充実したものであったわけだが、...今、目の前にあの因縁の魔核があった。
数少ない二つ名を持つ者の手の中にだ。俺の二つ名が霞んで消え失せるほどの飛び抜けて有名な奴ら。
そう、俺の目の前にはその二つ名を持つ者、最強最恐のプレイヤー「黒炎龍姫」、そして「万年ルーキー」がいるのだった。




