閑話:万年ルーキー2
「そ、そんな...」
絶句せざるを得なかった。目の前にはボク、いや私がかつて手傷を負わせた姿のままの泉龍がいた。「管理者」泉龍「エナリオス」、それが当時の彼女の名。
アーガルドハーツ~レジェンドオブレガシー~、そのゲームを始めたきっかけは眠れぬ夜の暇つぶしだった。家には私以外誰も居ないいつもの夜、ちょっとセンチな気分になってしまい眠れなくなった日の事。ちょっと評判のタイトルをと手を出したのだ。敷居が低い無料で始められるよくあるゲームの中の一つで、面白ければ、いや嵌れば課金していくタイプのゲーム。私は通常、まずは無課金でどこまでできるのかを試すのがセオリー。
無課金で選べるアバターは、ギルド登録ができる下限の10歳の子供だけ。男か女は選べるけど。顔も平凡だ。まあ見分けがつく程度には各々違いはあるようで、たぶんログイン時のIDから顔情報を得ているのだろう。そして、当然子供なのでステータスも低い。ステータスの伸びも低い。男はHPが多少高く、女はMPが多少高い位の違い。要は男は体力、女は魔力ということらしい。ステータスの伸びやバランス、全て兼ね備えているのは男は24歳、女は18歳のアバターになる。当然課金しないと手に入らない。
また、我々プレーヤーの種族は人族限定で、これは他の選択肢はない。そしてプレーヤーのアバターは見た目の歳を取らない。10歳で始めれば見た目はずっと10歳のまま(あの大改変によりその設定は無くなったそうだけど)。当然ステータスの伸びもずっと悪い。しかし永遠の10歳だが、寿命はある。ルーキークラスは10年が寿命、ゲームオーバーといったところ。ゲーム内の10年は、プレイ時間中のみ積算されるわけだが、毎日数時間プレイしてだいたい現実世界では3か月ほどであろう。そしてクラスチェンジするごとにその寿命が延びる仕組みになっている。...まあ商売だからね。グダグダと無課金のルーキーがうようよいても困るのだろう。
そして、チュートリアルステージにて経験を積み、寿命が尽きる前にルーキークラスを卒業するのだが、無課金でそれを成すことは困難なことであった。まあ、ゲームなのだ。商売なのだ。当たり前ではある。しかし、中には効率の良い攻略法を見付けたのか、それを成す者もいないわけではなかった。そいつは「万年ルーキー」という二つ名で呼ばれ、有名になったほど。...その話はいい。アイツは今は関係ない。
まあ私は、挫折した側。無課金ではチュートリアルステージをクリアできなかった。まあ、できなかったというより、根気よく時間をかける気が無くなった。つまり、嵌ってしまった。このゲームに。このゲームの世界に。まだチュートリアルステージだというのに。
最初にこのゲームにログインした時から、違和感はあった。なんか、ほかのゲームと違うと。それが評判に繋がっているといえばそうなのだけど、とにかく世界の作りこみが凄かった。ポリゴンらしさが全くない実写張りの風景、そしてNPC達。そう彼らの反応が自然で。いや自然すぎたのだ。AIでここまでできるのか?と疑問に思うほどに。...いや、実際にはその時、疑問に思い不審になったわけではない。むしろ、めちゃくちゃ楽しかったのだ。どっぷりと引き込まれてしまったのだ。...まあ現実から目を背けて逃げ込んだともいえるのかもしれないけど。
やがて、課金しまくり、最強プレーヤー「黒炎龍姫」の二つ名を貰うまでになった。
そして、直面する。寿命という問題に。1日数時間の標準プレイヤーならいざ知らず私は中毒プレイヤーだ。1日に10時間は当たり前、つまり3日で1年以上の寿命が消費されるわけだ。
どんなにクラスチェンジしても、最高のAAAで寿命は300歳が精々。妖精族なら少なくとも800歳、魔族は不死の者がおり、龍族や天族などは何千年と生きるというのに。ゲームのキャラクターだからとは言え、なぜ「プレーヤー」は人族なのかと思わざるを得なかった。まあ、カンストまで課金したプレーヤーがいつまでもゲームでのさばっていられても商売にならないとは思うけど。盲目だったその頃の私はもうこのゲームはゲームではなく私のいる世界になっていた。そして、ふと思った。このゲームの中で生きていくことはできないのかと。NPCの不死魔族や龍族のようになれないのかと。それをゲームの運営に問い合わせるのは愚であるのはさすがにわかっている。狂っていると思われるだけだ。しかし、何かあるのではと感じていた。そう、このゲームに最初から抱いていた違和感。私はその勘のようなものに従い、ゲーム内の「管理者」に問うことにしたのだった。
『何をたわけたことを、「黒炎龍姫」などと呼ばれ勘違いしおって!余を倒してからほざくがよい』
最初に見つけたのが、炎龍の「管理者」だったのが失敗だったのかもしれない。レッドドラゴンは基本脳筋系なので。でもこの煽りを私は真に受けて、本当に倒してしまった。そして次々に「管理者」から狙われる羽目に、何時しか「最強プレーヤー」は「最強最恐のプレイヤー」へと変わっていった。
そうして、出会うのだった。泉龍「エナリオス」に。...結果、向こうにも手傷を負わせたが、私は這う這うの体で逃げたのだった。それがこのゲーム、私のログアウト前最後の記憶。
そして突然、「万年ルーキー」としてログインしていたわけだ。ただ思いが叶ったのだと思っていた。だから自分のアバターを返してもらえばまた暴れ、襲うと思われていたのは不本意だった。しかしバルバロスが向ける殺意は怖く、大人しくしているしかなかった。それでも、旅を続けるうちにこれはこれで楽しいかもと思うようになっていく。まあこの「万年ルーキー」の性能も慣れてきたし(こんなに簡単になじむのも本来はちょっとおかしい気もするが、それを言ったら「最強最恐のプレイヤー」を私以上に使いこなしているアイツはもっとおかしいが)。そんなこんなでリザードマンの国では大いに騒ぐのだった。そこで、バルバロスに言われたのだ。「お主と出会った時の戯言は、ただの口から出まかせではなかったのだな」と。そうして、初めの「管理者」である炎龍とのやり取りからの説明をようやく受け入れてもらえたのだと感じた。...ていうか今まで戯言だと思われていたこともショックだったのだが。
そうしたこともあり、ある程度バルバロス達「管理者」に対する罪というか引け目というかそんな認識を薄れさせていったのだが、...
今、目の前にその時のままの姿でエナリオスがいる。何というか、自覚してしまった。当初の違和感の正体に。やはりここはゲームの世界なんかではない。だから私のしたことは「管理者」いや龍族の殺戮だったのだと。ここにいるのはゲームのNPCなどではなかったのだと。そんな単純なものではないと、そんな重圧を受けるのだった。




