深く穢れなき泉
明けましておめでとうございます。
「深く穢れなき泉」、「大精霊ウンディーネ」がいる処である。湖の底に泉とは何ぞや?とお思いかもしれない。その泉は、マーフォークの国のある「静謐の大湖」の深い湖底のさらに深い場所にある。その深さはマリアナ海溝に匹敵するとか。...もうこれ海でいいんじゃないかなぁ?
その深き場所より滾々と湧き出る豊富な穢れなく清らかな水、そう、それがこの湖の水源のひとつだ。そしてこの湖は2ndステージに流れるすべての川の源でもある。
さらに「深く穢れなき泉」はこの湖底世界に張り巡らされた結界の源にもなっている。そしてその結界の内側は空気で満たされている。そう、この国では普通に肺呼吸ができるのだ。...マーフォークの国なのに。水中で呼吸できるし普通に生活することもできるのに。なので、迎賓艇なるあの大きな貝の潜水艇がお迎えに来たという訳だ。行き着く先が水の中なら、態々潜水艇を待たずとも、最初から自分で潜って行けば良い。どうせ濡れるのだから。「水中呼吸」や「水中起動」できないわけじゃない。
まあ何故彼らマーフォーク達の国、湖底世界が空気で満たされているのかにも意味はある。
確かに、太古には彼らも普通に水中で生活していたそうだ。しかし、他の種族との関わり合いや文化的交流、その他なんやかんやでこうなったそうだ。考えてみれば、食事やら芸術やら、水中では不都合なことは多々あったのだろう。スープやワインを嗜むにしても、絵を描くにしても、水中では食材も絵具もなんかいろいろ混ざるからね。音楽だって空気中と水中では音響とか考えるとやっぱり不都合がありそうだ。...と、そいうことである。まあ実際、この結界の外で今でも普通に水中で暮らしている部族もいるそうだけど。
そういったわけで、ここは文化芸術に溢れている。美味しそうなスイーツが並ぶ一角や、香ばしい匂いのパン屋、オープンカフェからは紅茶の香りが、耳にはピアノやヴァイオリンの音色や美しい歌声、広場では写生をしている画家が、もちろん目に入る石造りの建築物も意匠を凝らしたものが多い。
そしてそんな街中には、様々な服装に身を包んだマーフォーク達が行き交っており、またその姿形も目を引くものがある。というのも、マーマンは大抵二本足で歩いている。中には尾びれの者もいるが、逆にマーメイドは二足歩行の者は少なくナイーダのような尾びれで「空中機動」のスキルを使い進んでいる。二足歩行の者は上半身というか顔が魚の様で、尾びれの者の上半身は人型である。目を引くとはこういうところであった。なんだろう、マーフォークは何処かしら魚な部分がないとダメなのだろうか。アイデンティティ的に。
その行き交うマーフォーク達から私たち一行は視線を集めていた。中にはガン見してくる者も。まあ、人族がこの国を訪れるのは数百年ぶりの事だろうから、仕方がないのかも知れない。
そうして今、「深く穢れなき泉」の前に佇んでいるのだった。目の前には巾数百メートルはあろうかという淵より噴水、というか滝だよね。滝が逆流して下から上へ吹き上がっているかのような逆再生現象を只々眺めている。この吹き上がった水がこの結界の外へ流れ、湖を満たしていくのを。
しかし、こういったものってずっと眺めていられるよね。普通の落ちる滝の水もそうだけど、岩場に打ち寄せる海の波とか、焚火の炎とか、...。
やがて、その滝の中からすうっと一人の女性が現れた。白いドレスに身を包み、透き通るようなというか透き通っている碧い肌、サファイアブルーの長い髪は、ドレスも同様に濡れた様子はない、顔は西洋系で当然美しいその妙齢に見える女性が、二本足ででこちらに歩み寄る。何故か裸足だ。
「「大精霊ウンディーネ」様です」
ここまで案内をしてくれたナイーダが紹介をした。
「よく来た。迎えを遣るのが遅くなり、待たせてしまったようだの」
静かな声だ。小さい声ではないのだが、静かという表現がぴったりなのだから仕方がない。静かなのに、大声ではないのに、ハッキリとこちらに聴こえてくる。美しい歌声を聞いているような、そんな感じ。
「これも運命というものなのか。まあ、巡り逢わせなのかもしれぬな。其方の知らせを受ける少し前にな、此方でも異変が起きての」
どうやら、サラマンダーからの連絡が入った後に、その異変でてんやわんやしたと、それで湖畔で待たされたのか。サラマンダーからは、リザードマンの国やドワーフの国での顛末を聞かされていたのかもしれない。しかし、このウンディーネ、サラマンダーが苦手だということも分かるな、なんていうか話が硬い。まあそれは置いといて運命とはね。...いや私らが厄介事起こしているわけじゃないからね。そういえば、街中での視線には、珍しさだけでなくその厄介事に関連したものもあったのかもしれない。...面倒な。
「別に其方が運んできていると思うてはおらん。しかし、因果というものも否定できぬ」
おっと、顔に出ていたのか、ウンディーネに庇われてしまった。
「そういうことで、力になってもらえぬか」
まあ、なんとなく予想していたことだけど。どうやら三つ目のクエストが発注されるようだ。




