魚人族(マーフォーク)の国
黒竜を撃退した後、「サラマンド・フェスタ」は文字通り徒のお祭りとなった。まあ、あの大混乱の後で闘技大会という雰囲気にはならなかったというのもあるが、大きな被害を出さずドラゴンを始末できたわけだし、大きな安堵の反動で大いに燥ぐのは当然の流れという訳だ。
そしてもう一つ、そもそも闘技大会が開かれたきっかけだった私、というか「最強最恐のプレーヤー」という伝説に挑みたいという脳筋連中が、あの黒竜との戦闘を目の当たりにして戦意喪失というか、まあその気がなくなったということもある。当然、大会を続ける意味がない。こちらとしてもあのじゃれ合いみたいな大会に巻き込まれずに済んだのだから、大歓迎である。
祭りはというかどんちゃん騒ぎは三日三晩続いた。ルーは今までに失った酒を取り戻すが如く、飲みまくっていた。良いのか?見た目小学生が飲みまくって。まあそんなことを言えばそれより幼く見える「大精霊サラマンダー」がガバガバ飲んでいるのは良いのかということでもあるが。私は周りからあまりにも崇められるのに辟易して、あの温泉の露天風呂で過ごしていた。サラマンダーと話し合いができる状態になるまでしばらくかかりそうだったしね。
「ほう、そいつは捨ててはおけぬな。う~ん、そうじゃなぁ~、アヤツらとはあまり馬が合わぬので連絡しづらいのじゃがなぁ~」
ようやく騒ぎも収まり、話ができる感じになったので、「大精霊サラマンダー」へ不死魔獣の粒と「魔力の奔流」の件を説明したところ、まあ予想通りだが残りの大精霊への連絡を渋っているのだった。確かにリザードマン達が体育会系のノリだとすれば魚人族達は基本文化系のノリなのでちょっと話が合わないところがある。さらにエルフ達は自分たち以外の種族を下に見ているというわけではないのだが、なんていうのか上流階級?セレブ?みたいなノリなのでやはり合わない。しかし、闘技大会にマーマンの姿を見たように魚人族は全部が全部文化系というわけではないので、どちらかといえばそちらの方がまだマシということで、
「ワタシからウンディーネへ連絡しとくでな。まあよろしく頼む」
こうして、水の「大精霊ウンディーネ」へ話を通してもらうことに。事前にアポあった方が楽だしね。そしてこれはゲームの流れにも沿っている。
「なんかまどろっこしいねぇ~。迎えなんて別にいらないでしょ?」
ルーがブツブツ文句を言っている。最近何というか、積極的というか、協力的というか、遠慮がなくなってきている。それまでは、バルや私を警戒した感じで微妙に様子をうかがっていたのだが、この間のどんちゃん騒ぎで吹っ切れたのだろうか。それまで私が「ストレージ」から取り出すお酒などについては(きっと我を忘れて思わずなんだろう)文句をつけていたのだが、それ以外で疑問はともかく意見をぶつけてくることはなかった。どうやらあの騒ぎの中、サラマンダーやバルとも話をしている姿を見かけたし、なんか思うところに取り敢えずの決着をつけたのかもしれない。まあ、なんにしても自ら積極的になってくれるに越したことはない。
「まあいいじゃないか。こちらだって何も急ぎたいわけではないんだから」
と宥め賺す。というのも、実は足止めを食らっているからなのである。ルーの文句はそれに対してなのである。リザードマンの国を出立する直前に、サラマンダー宛てに連絡があったらしく、湖畔にて迎えが来るまで待つように言われたのである。
湖畔、そうここは「静謐の大湖」、マーフォークの国の手前に我々はいるのだ。彼らの住む場所とはこの湖の底、湖底世界である。そして国が入るくらいであるのでこの湖も当然広い。海でいいんじゃないかというレベル。
そんな訳で「ストレージ」から丸太のテーブルと椅子を出し、コーヒーとチョコレートをつまみながら時間をつぶしていた。なんだか久々に出したな、これらのセット。そういえば先ほどのルーの言い方の事だが、私が「ストレージ」から出すものに一々文句をつけることもしなくなった。これもまた変化の一つか。
そうしてしばらく待機していると、やがて湖面に微細な波紋が水面に広がり、次第にその波紋が大きくなる。そして水面が静かに膨れ上がり浮上してくるものの姿が露わになった。
それは巨大なシャコ貝にしか見えないものだった。浮上を終え、そのまま岸辺へと進んできたシャコ貝の口が、おもむろに開いた。中からマーフォークの女性、人魚だね、が現れ、こちらへ向かって歩み寄ってくる。まあ、歩くと表現したけど、実際はマーメイドの下半身は魚なので、なんていうのか尾びれで立ち上がった形でスススっと進んできたのだけど。
「お待たせして申し訳ございませんでした。案内役を仰せつかりました「遼遠なる響のナイーダ」と申します。よろしくお見知りおきください」
長いプラチナブロンドの髪を後ろに束ねた20代後半くらいの西洋風の美人だ(当然、見た目の年齢で実際の齢ではない、たぶん数百年は生きているはず)。白いシャツに黒いベスト、黒いボウで決めており、タイトな黒スカートから覗くのは先ほど触れたとおり魚の尾びれである。できる秘書といった佇まいの彼女は、丁寧なお辞儀をしてそう述べた後、碧い目を巨大な貝へ向け、
「人族の皆様を湖底へとお連れするため、こちらをご用意させていただきました。それではどうぞこちらへ。「大精霊ウンディーネ」様が「深く穢れなき泉」にてお待ちしております」
と案内を受け、私らはその巨大な貝に乗り込んだ。




