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閑話:三叉槍のイクスタルズ

「ほう、あの最強最恐のプレイヤー「黒炎龍姫」がねぇ~」

 「大精霊ノーム」様から連絡を受けた同じく大精霊であられるサラマンダー様がそうつぶやいた。

 その瞬間、周囲のリザードマン達がどよめいた。あの伝説の「プレーヤー」がドワーフの国に現れ、彼らに降りかかった「鉱脈の集いし山」の問題を解決に導いたらしい。伝説とはいえ寿命の長い妖精族である。5百年前の以上も前の事とはいえ、「神の使途」様をも屠るその姿を目の当たりにした世代もいるのだ。ドワーフの国での彼女の行いは、驚き、いや衝撃をもって受け止められることに何ら不思議はなかった。

 それにしても長くその不在が続き、粛清が噂され、伝説とすらなった彼女がいま、なぜ再びその姿を見せたのか。しかも同伴者は「神の使途」様かもしれないということである。...もう一人は徒の小僧らしいが。

「やはり「くにさかいの大草原」で起きた「異常な力の流れ」は、彼女が...」

「いや、それは早計であろう。何より「神の使途」様も同行されておるらしいではないか」

「左様、それに先ほど戻ってきた調査隊の報告では確かにストーンサークルが元に戻っておったそうだ。あの「異常な力」の特性では修復のようなことを起こせたとは思えぬ」

「ノーム様の話では彼女が戻したということでしたな」

 周りの視線が再びサラマンダー様に戻る。

「うむ、そう言っておったな。それにストーンサークルを戻したのは時間的にあの「力」が起きた後のことじゃからな。関係はないであろうな。それよりその者たちは、今この国に向かっているそうじゃぞ」

「おお!伝説のお方のその姿をお目にできるとは!」

「なにやら興奮しますなぁ。是非ともお手合わせ願いたいものだ」

「いやそれは私が」「いや私が」「...」

 収拾が付かなる事態になってきた。...とはいえ私も当然手合わせ願いたい者の一人だ。

「うるさいわ!そんな寄ってたかっても、全員を相手するわけがなかろう!」

 サラマンダー様が一喝する。一同を見まわすと、

「...まあ任せとけ。面白いことになってきたの」

 そうしてその考えを我々に与えるサラマンダー様であった。


 そんなことがあり、一時期不穏な事態として話題にしていたあの「異常な力の流れ」の事など彼方へとすっ飛ばした我々は「最強最恐のプレイヤー」一行が現れるのを心待ちにしていたのだ。...ずいぶんと寄り道(温泉)をされていたようであったが。

 そして無事に謁見を終え、サラマンダー様の思惑通りというかやや強引に「サラマンド・フェスタ」が開かれることとなった。事前準備を行っていたこともあり、つつがなく舞台は整えられた。彼女(「クロウ」と呼んで欲しいとのことなので以降はそう呼ぶ)は、あっという間に整えたと思ったようで呆れていたが、そんなことはなかったという訳だ。

 クロウはその伝説の凄まじさとは対照的な可憐な美少女であった。なるほどストーンサークルの奇跡を目の当たりにすれば、その場にいたドワーフが彼女を「神の使途」様と思ったのもさもありなんといったところだ。そしてノーム様より「神の使途」様と伝えられておる(こちらは「バル」と呼ばれていた)者も美男子であり、なるほどその様な雰囲気があった。どういう意図を持っておられるのやら。...もう一人は徒の小僧(「ルー」といったか)だったな。

 そして、予選の一日目、特別観覧席にて開始された予選の様子を何やら呆然と眺めていたクロウ達に後ろから声をかけた。

「楽しんでいただけてますかな?」


 和やかな談笑が途切れる事態が起こった。

「黒い竜だ!」

 大会の会場のアムフィシアタは「火の巨釜」外輪部近くにある。その外輪部近くの上空に竜と思われる個体が確認できた。竜は精霊獣の中でも最強種で、このステージで空を飛べる竜は主に火竜(レッドドラゴン)である。しかし、今こちらに向かってきている竜は赤くない。黒い竜なんて見たことも聞いたこともなかった。

「落ち着け!戦闘できるものは外輪部へ!迎え撃つぞ!それ以外の者は速やかに退避!」

 大声で呼びかける。それを聞いた者たちがすぐさま行動に移る。退避するもの、外輪部へと向かう者。

 闘技場にかけていた結界が解かれ、新たに「火の巨釜」を覆うように結界が張りなおされる。

「ワタシの力が及ぶのは「火の巨釜」内だけじゃ。外にいるものになるべく被害が出ぬようにするのじゃ」

 サラマンダー様の言葉に従い、外の者へ避難の手配をし、その他すべての指示を終え私も外輪部へ向かった。

 幸いにも黒い竜は辺りをブレスなどの攻撃をすることもなくこちらへ向かってきている。しかし、いきなり竜を相手にすることになるとは。サラマンダー様の威光があるこの国の火竜は基本好戦的ではあるが狂暴ではない。が、ごく偶にはぐれ竜となり狂暴化し人里に被害をもたらすような場合に、討伐に赴くことはある。その場合、20人から30人ほどの討伐隊を編成して臨む。精霊獣の頂点にいるということはそれだけ強敵であるということなのだ。

 その火竜よりも厄介そうだ。先ほどからあの黒い竜に向けて「火投槍(ファイアジャベリン)」や「岩砲弾(ストーンキャノン)」などが放たれておるが、直撃を受けているにもかかわらず、霧のようなものに変化(へんげ)しているかのように突き抜けてしまい、効果がなさそうに見える。しかし、突然現れたようだがどこから来たのだ?ここまでダメージを与えられないでいる黒い竜をどのようにして倒せばよいのだという思いで呆然と眺めていると。

「転移したんだろうね。この外輪部上空にいきなり現れたようだし」

 いつの間にか私の横にはクロウがいて、そう声をかけてきた。...なるほどそれなら気付かなかったわけだ。つい、クロウの呑気な声の調子につられてそんなことを考え、

「しかし、あなたもいきなり現れましたな」

「私のは「ワープ」だよ。「テレポート」なんて嫌いだからね」

 涼しげな顔でそう返してきた。

「他の方々は?」

 私の疑問に、

「置いてきた。バルはあまり動かないし、ルーは自分の身を守れるぐらいだしね」

 なんてことなく答える。

「あれは、異常種ということかな?元は火竜(レッドドラゴン)なんだろうけれど」

 それより衝撃的な言葉を投げてきた。

「あれが火竜ですと!」

「元、だね。奴らから精霊属性だけではない、霧化しているみたいだしね。どうやら死属性も得ているね。だから元、

 ...まあ、なんにしても始末してくるよ。どうやら私らとも無関係ではなさそうだからね」

 そう言い残し、黒い竜のいる上空へ向かったクロウはその後、我々の度肝を抜き、伝説が事実であった、いやそれ以上であると実感することとなるのであった。

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