ロースターの森
嵐竜を風竜に変更しました。竜と龍の差別化です。
翌日、「ロースターの森」を抜けることにした。
(村にはプレイヤーやNPC、誰一人いない以上、このステージにいつまでいてもしょうがない。森を抜けて次のステージに行けば何かわかるかもしれないし)
森に入ってしばらくしても、魔獣に出会うことはなかった。やはり、「ロースターの森」の魔獣どもは「チュートリアルの村」を抜け「デビュタンの森」に逃げ込んだのだろう。その原因であろう濃密な魔力の気配が森の中心であろうところから漂ってくる。
(どうしようかな。別にスタンピードの原因を解明したいわけじゃないし、迂回して次のステージに行ければそれに越したことはないしね。まさかロースターの森の魔獣討伐縛りで森を抜けられないってことはないだろうし。...設定崩壊しているはずだよね?)
別に平和主義ではないが、かつての「クロエ・ビロウ」じゃあるまいし戦闘狂のつもりはないので、好き好んでドラゴンっぽいのに挑むつもりはない。今はゲームを楽しんでいるわけではないのだ。何がどうなっているのか、出来れば誰かに教えてもらいたい。他のプレイヤーもしくはNPCでも情報が得られる存在に出会わなければ。
なんとなく向こうもこちらに気付いているっぽいけど、じっと動かないでいるので、この距離感を保ちつつ迂回しながら奥へと進む。昼過ぎた頃、ちょうど木々の開けた広場に出た。食事にしようと丸太のイスとテーブルを出す。
(あともう少しで森を抜けられるね。今日中には町に入りたいよ)
ハンバーガーをパクついていると、突然前方に魔法陣が光りだした。
(しまった!罠を張られていたのか!)
魔法陣から濃密な魔力の塊が浮かび徐々にその姿をあらわす。
明るい緑色に輝く鱗を纏うドラゴンが目の前にいる。やはり風竜だ。
『我の縄張りに無断で入り、そのまま抜けられるとでも思うたか』
おっ、念話だ。とすると竜ではなく龍か。久しぶりにというかこの世界で初めて会話をすることができそうだ。
「いや、縄張りを荒らすつもりはないけど、挨拶が必要だった?」
(う~ん。色の感じだとまだ若そうだけど)
『何を生意気に若そうとは失礼な。我は千年の時を生きるものぞ』
やべ、心の声が漏れていたようだ。確かに「テレポート」の魔法陣を張れることからも高位ランクであることは間違いない。龍族だしね。どうやら誘い込まれたようだが、争いたくはないなぁ。下手に出てみるか。
「すみません。この世界にきて初めて会話ができたので舞い上がってしまいました」
『ふん。初めて?この世界?何をたわけたことを。お主から発するその魔力。そしてなによりあの村から現れた。我が排除してくれる』
まじか。会話が成立しない。どうせならこの世界の状況を少しでも引き出したいのだが。
「まあまあ。本当にこの世界初めてなのです。というか私の知っている世界ではないのです。申し遅れました私はプレイヤーです。「クロエ・ビロウ」と言います。ここはまだチュートリアルステージ「ロースターの森」ですよね?」
長い時を生きているのなら、こちらの情報を与えれば、何か反応があるのではと期待を込めれば、果たして、
『なに?プレイヤーだと?そうか、その魔力も考えてみれば...お主がプレイヤーならば...ふむ、それに「クロエ・ビロウ」という名も聞き覚えが...う~む。もしや状況が打開される?』
よかった。反応してくれた。すぐには戦闘にならさそうだ。
「状況が打開、とはどういうことですか?詳しく教えてもらっても?」
『そうだな、まあよかろう。我も膠着の時が長く退屈してきておったのだ。もしかするとお主がそうなのやもしれん。聞かせてやろう。よし、まずは名乗っておこう。我の名は「バルバロス」という』
おお!まさかの「ネームド」だった。