閑話:黒き槌のドルムル
その日、夢の中に百年ほど前に亡くなったワシの爺さんが出てきたのじゃった。そんなことはこれまで一度もありゃせんかった。
「ストーンサークルへ行け」
爺さんは一言、それだけじゃった。
次の日、ワシは「くにさかいの大草原」へと向かうことにしたわい。ストーンサークルはワシにとって曰くの場所じゃ。
ワシが生まれて百年、まだ小僧だった今から5百年前まではストーンサークルは好奇心旺盛のドワーフ達にとって魅力的な1stステージへの扉でもあったのじゃった。人族たちの作る酒や食事は旨く、こちらと同じような鉱石が取れる鉱山などもあったそうじゃ。多くの者がまあ大抵は若者ではあったがその扉を潜りよったな。しかし長く1stステージに居つくものは少なかったのう。それは、ワシら妖精族が使う術に必要な精霊が1stステージにはいないからじゃ。代わりにあるのが魔素じゃな。それで術を使うこともできるが、精霊のそれには及ばぬものらしいの。じゃから長く居つくものは相当な変わり者ということじゃ。まあ、それはワシの親父のことじゃがな。ワシが生まれて間もなく1stステージへと向かったのじゃ。なんでも1stステージから来た冒険者パーティーの一人と意気投合したそうな。そうして向こうに居つくつもりがあったかはわからん。その後ストーンサークルは消失しおったからな。それでもそれまで百年近く帰ってこんかったのだから消失せずともこちらに戻ってくる気はなかったと思うがのう。
ワシの爺さんは、1stステージへ行くでもないのに時折、ストーンサークルへ出向いておった。それは、ワシの親父が1stステージへ行く前からである。
…何故ストーンサークルへ行くのか
かつて爺さんに訊いたことがあってのう。そしたら「呼ばれているような気がするのじゃ」という何とも言えない答えが返ってきたのじゃった。なんでもワシら「黒き槌」の一族には代々そういうことをする者が時折現れていたらしいのじゃ。
「くにさかいの大草原」にあるストーンサークルはワシらの国のある「裂け目の深き谷」からそれなりに離れておる。歩いて5、6日ほどはかかる距離じゃ。1stステージへ向かうでもないのわざわざ行くようなところではない。精霊獣に襲われる危険も当然伴うしのう。実際、襲われて折よくストーンサークルから現れる冒険者パーティーに救われることもあったそうじゃ。それなのに爺さんのストーンサークル参りは大改変で消失した後も続いたのじゃ。それで2百年前にストーンサークルが出現し嵐龍が半壊させる場面に遭遇することになったのじゃな。
…何故ストーンサークルへ行くのか。
その答えが、あるような気がしてのう。夢に出た爺さんの言葉に従ったわけじゃ。
「おおおっ!ストーンサークルが!もしや、これが元の姿なのか!」
もの凄いものを見せらたものじゃ。まるで時間が巻き戻っていくような。半壊状態で崩れており、結界のせいもあって誰も近づけなかったストーンサークルが再生いや復元じゃな、いや復元とも違うか、やはり巻き戻しじゃな、とにかくそこには元の姿になったストーンサークルがあったのじゃ。奇跡、そう奇跡を目の当たりにしたのじゃ。
奇跡を起こされたお方は、人族で、とてもお美しい女性じゃった。クロウと名乗られておったな。人族の年齢はよくわからぬがまだ成人前と思われる。しかも「プレーヤー」であるという。人族や獣人族たち冒険者、その中で「プレーヤー」というのは異彩を放つ存在じゃった。そう、かつて彼らもまたいろいろな奇跡に近いことを起こしていた。既に2百年以上姿を見ておらんかったが、なぜ今になって現れてくださったのか。そして、ともに居った者も背の高い男の方、バルと呼ばれておった、こちらは成人しておるだろう美男も只ならぬ雰囲気を纏っておった。...あと一人は小僧じゃな、ルーといったか。とにかくワシは思ったのじゃ。ワシら「黒き槌」の一族に時折現れる者たちが、
…何故ストーンサークルへ行くのか。
それが分かった気がしたのじゃ。
とにかくその方々をお招きせねば。折よく向こうもそのつもりだという。これはもしかしなくともお導きじゃないのか。集落に戻り、長老たちから此度の異変を知った時、その思いは確信へと変わるのじゃった。
「鉱脈の集いし山」、ワシらドワーフにとって一番大切な山。他の山でも石は取れはする。鉄鉱石や宝石も手に入れることもそりゃできる。しかし、「鉱脈の集いし山」には及ばぬ。何せ土の「大精霊ノーム」様が住まう山なのだからのう。
集落に戻り、長老たちに聞かされたのは、なんとその山に異変が起きたというのだ。山へ入り石を取ろうとしても「石の意思」が使えぬというのじゃ。
「石の意思」は精霊属性の術でそれを使わぬと正しく採石ができぬ。下手なことをして見境なく掘れば山に毒が回る恐れがあるでのう。それはその異変を知らせたドワーフに限ったことではなく、他のドワーフも「石の意思」を「鉱脈の集いし山」では使えなかったというのじゃ。
他の山は問題なく術を使えるようなので、今すぐ困るということはない。しかし、あの山でないと手に入れられない「ミスリル」や「アダマンタイト」は何れ必要となる。その2つより作られる武器でないと通用しない精霊獣もおるからな。術が使えなくなった原因はまだわからぬらしい。何より「大精霊ノーム」様の気配が感じられぬという。これまた一大事。そう焦っておった時じゃ、
「ふむ、まずは行ってみるか」
バル様がクロウ様へ声をかけた。
「おお!」
長老たちの喜びの声。
この方々にお会いできたことをお導きと思うても無理はなかろうというものじゃ。




