閑話:万年ルーキー
第二章始めていきます。...うまく着地できれば良いのですが。
(うん?ここは?)
気が付くと、草原に寝そべっていた。明るいので日中のようで、時間はわからないが太陽の位置からすると正午すぎたあたりかな。遠くに森が見える。その奥に巨大な木が聳えているのが目に入った。
「あれは世界樹?」
今見ている風景よりもまず、自分の出した声の方に驚く。
「なっ?何この声?」
そう自分の声とは思えない声。そして自分の恰好を見てまた驚く。
「えっ?男の子?」
立ち上がり、もう一度自分の姿を確認。皮の短靴、茶系の布の長ズボンに皮の膝あてが結ばれている。緑のシャツに皮の胸当てをつけ、短めの黒いマントを羽織っている。そして腰には短剣。いわゆる駆け出し冒険者のようだ。...そして、あの世界樹。どうもここは「アーガルドハーツ~レジェンドオブレガシー~」の2ndステージ、つまりゲームの中っぽい。しかし、いつログインしたのか?それに私ではないこのアバター。...なんか見覚えがあるような。取り敢えずステータスを確認しようと...あれっウインドウが出ない、っと頭の中に情報が流れてきて、思わず蹲った。
...ちょっと気を失ったらしい。太陽の位置からするとそれほど時間はたっていなさそう。...でもなんか違和感を感じる、...まあいい。それより、
「いや~、信じられないけど「万年ルーキー」だよね」
近くに流れていた川へと移動して自分を映す。そこには10、11歳くらいの短髪の少年が映っていた。可もなく不可もないまあ普通の顔だ。背も140㎝中程と思われる。ザ・小学5年生といったところかしら。
状況が分かったところで疑問が解消されたわけではない。「万年ルーキー」。いわゆる無課金プレーヤーとしてそれなりに有名だ。私もこの二つ名は知っていた。課金しまくっていた私とは真逆の存在だ。でもなんで私が彼になっているのか?
「ないわ~」
そもそもログインした記憶もないし。...飲みすぎたのだろうか?いやそりゃないわ。
遠くに世界樹のある森が見え、左に目を移せば奥に高く聳える山々、たぶん目の前の川の先には大きな湖があるのだろう。ならこの草原は「くにさかいの大草原」かな。つまり、2ndステージ最初の地点になる。
どうやらログアウトもできないようだし、それに五感が訴えている、この世界がゲームではないと。本当に夢だった「ゲームが現実となった世界」に転移?転生?したということなの?
それにしても「万年ルーキー」になっているなんて。なんのためにこれまで苦労して時間と金をかけてあの自分のアバターを育て(強化?)してきたのか。そりゃないわ~という感想しかない。たとえ今置かれているこの状況、私の望みが叶ったものだったとしても、なんかこれはちょっと違う。...いや、全然違う。
しかし、いつまでも此処にいるわけにはいかない。取り敢えず移動するのなら、1stステージに戻るのが正解よね。基本、人族と獣人族の住むステージだし。同じ境遇のプレーヤーも探しやすいと思うし。そうなるとこの近くにストーンサークルがあるはず。1stステージへ戻るためのものと、ダンジョンクリアした後2ndステージへ来るものと2つのサークルが、まあ入口と出口ね。
そうして記憶を頼りに進むとすぐに見つかった。...半壊状態だったけど。
「なにこれ~。壊れているんじゃないよね」
それぞれのサークルにある結界は機能しているっぽい。ちなみに結界に石を投げたらちゃんと弾いたけど。1stステージへ戻る方のサークルはダンジョンクリアした者(人族・獣族)、若しくは2ndステージ以上の種族の者しか入れない(つまり魔獣や魔物などは入れない)。またダンジョンから2ndステージへ来る方はこちらからは入れない。つまりどちらも一方通行となっているのだけど。
「いや~、どうなの~。大丈夫?」
不安は尽きない。2ndステージへ来る方のサークルを眺める。実は先ほど手を入れたら結界を通過した。イヤイヤおかしい。弾かれなければならないのに。一気にこのストーンサークルの信用度が下がる。
「だから、転移だとか「テレポート」なんてものは嫌いなのよね」
奇遇にも「万年ルーキー」の記憶も私と同じ感想だった。
と、まごまごしているうちに魔獣、いやこのステージでは精霊獣だった、の気配が近づいてきた。SLvは低いものの「万年ルーキー」も「探査」は持っていたので早めに気付けた。この草原、別に安全な区域というわけじゃないので、予めこのスキルは常時発動していた。
「ドゥーノンね」
水棲だが陸にも上がってくる二本の角を持つ蛇のような精霊獣だ。冒険者でいえばⅭランクが討伐推奨となるくらいの強さだ。川からさほど離れていないし勢力圏内だね。
向こうもこちらを認識したよう。水弾丸を放ってくる。このステージにいる妖精族や精霊獣は魔術ではなく精霊術を使う。でも、それぞれの術により起きる現象はほぼ一緒。こちらは石弾丸で相殺する。まあSLvがしょぼいので水弾丸の方向を変えて直撃を避ける程度だけど。でも、スキルの練度というかコントロールはさすがに高い。立派な二つ名とは言えないけど名が知られているだけはあるわ。今度はこちらがお返しする番。
「土生成」
ドゥーノンの口の中に土の塊を生成。それをドンドン大きくしていく。喉の奥へと広げながら。焦って吐き出そうとするがもう遅い。顎が外れ、動きを止めたドゥーノンはやがて川へとすごすご去っていった。
「まあ「精霊結界」を張ってなくて助かったわ」
魔力を使う魔術と精霊を使う精霊術は現象は同じでも当然違うものだ(もちろん精霊属性特有の術もある)。魔術は魔素を取込み体内の器官で魔力に変換してして、術として発動されるが、精霊術はそのまま精霊に術を行使してもらう。先ほどの水弾も実際は水精霊が水滴を作り風精霊がそれを飛ばしているのだ。だから精霊術では精霊のいない体内にスキルを発動することはできない。が、魔術ならそれができる。とはいえ視認できる口や鼻の穴ぐらいだけど。なので「魔力結界」を張るのは1stステージでは基本だ。というかチュートリアルステージではこれを手に入れないと魔獣と戦えないので「ロースターの森」へは挑めない。ちなみに「精霊結界」も「魔力結界」も術に対抗する意味では同じものである。
「しかし、コイツ迂闊だよね~。なんで結界張ってなかったのかな?」
まあそれでも倒しきれないところが「万年ルーキー」たる所以だよね~、なんて考えていると後ろのストーンサークルが光りだした。ダンジョンから出てくる方。そして現れた姿を見るや、
「なっにっ~!」
叫ばざるを得なかった。




