閑話:アフロユーフラ獣神国公爵テュリス・テティ
ワディーエル宮殿の一室で、アフロユーフラ獣神国公爵で帝国に使者として渡っていたテュリス・テティは、目的であった2人の要人を伴い無事帰国を果たし、先ほど会食も終わり、今は一人ワインを嗜んでいた。
「どうやら我が国の悲願が果たせそうだ。帝国へ使者として渡った甲斐があった。カジワラ宰相閣下の情報は確かなものだった」
テュリスは1か月ほど前、この話を持ち掛けたセリカレギオ帝国宰相のカジワラに感謝するのであった。
アフロユーフラ獣神国は神獣フェンリルにより創られた国と言われている。国民のほとんどを占める獣人族はその類稀な身体能力で巨大な火山「火の山エルダーアレン」をいただくこの大陸で国を逞しく発展させていった。山で採れるコーヒー豆やカカオ豆、様々な種類の香辛料などの特産品は人族の国で重宝され、貿易により国力をさらに強化するのだった。人族との交流は進み、キラキラした装飾品、食や文化の高さなどにあこがれる獣人族、温泉や我が国の香辛料などから作られる料理に魅せられる人族、特に「プレイヤー」と呼ばれる人族には温泉はかなり高評価だった。まあ獣人族の女性の容姿に惹かれている御仁もそれなりにいた。物流や人流含めて国は大いに盛り上がっていたのだ。
しかし、5百年前に変化が訪れる。山に、そう特産品の産地でもあるエルダーアレンに火竜が住み着いたのだ。あの大改変の所為なのだろう。このステージにはそれまでいなかった火竜が現れたのだ。本来このステージに風竜はいるのだが(あと噂では地竜もいるといわれている)、基本単体で行動し、森の奥深くにいて滅多に姿を現さないといわれている。しかし、奴ら(火竜)は群れを成し縄張りを主張する習性がある。なぜなら奴らは翼をもっているが火属性なので風竜のように自由に空を飛べないのだ。高い山から滑空する程度である。なので一度平地に落ちると高台まで歩くしかない。まあ身体強化があるのでもたもたと歩くわけではないが、そのため仲間が滑空しながら守ることになるわけだ。滑空の技術は基本的に高いため、滅多に地に落ちないそうだが。群れを成して仲間を守る。それが火竜なのだ。
山に縄張りが作られると、コーヒー豆などの主力の品々が採れなくなる。ギルドにて討伐が行われるのは必然であった。だが、相手はドラゴンだ。簡単に討伐できるものではない。それでも高位ランクの冒険者や「プレイヤー」達がいた頃まではそれも可能だった。しかし、徐々にそれも難しくなる。寿命である。「プレイヤー」達が年老いてだんだんその数を減らしていく。そしてその「プレイヤー」達と共にパーティーを組んでいた冒険者たちも。
そうして、2百年前にはついにドラゴンの討伐ができなくなってしまった。今やエルダーアレンのほとんどが火竜の縄張りとなってしまった。
特産品がなくなれば、国も徐々に衰退していく。海を渡りこちらに来る人族はいなくなり、逆に出ていく獣人族は増えていく。ギルドに「転移陣」の設置の話があった時イルカ獣人達の大反対で見送られたそうだが、結果的に大正解だった。過疎化が進むだけであったろうから。
近年王宮で交わされる議題のほとんどが、この過疎の流れをどう食い止めるかというものだ。だからこそ、セリカレギオ帝国宰相の話は飛びつくに値するものだったのだ。
使命を帯びたテュリスは海を渡った。カジワラの話の真偽を確かめるためだ。ドラゴン討伐できる「プレイヤー」と冒険者が現れたというものだ。簡単に信じることはできない。が、飛びつきたくなる情報でもあった。テュリスは自ら志願した。この目で確かめなければと思ったのだ。あの伝説の恐怖の大王が現れるなんて。
「クロエ・ビロウ」、その超絶美しい容姿とは真逆の最強最恐のプレイヤー、「黒炎龍姫」の二つ名を持つ。現在語られているおとぎ話では恐怖の大王「最狂戦士」の名で呼ばれている。
アルトウルス城にて待っていれば何れ来るとカジワラには言われたが、一目でも早く確認したいという思いから国境近くの村まで出かけところ、運よく出会うことができた。お忍びで帝国の商人のようなスーツ姿だったので特段怪しまれることはなかったはずだ。そして伝説に違わぬ尋常ならざる魔力とその美しい容姿、一緒にいた男もただ者ではなかった。カジワラによると「守護者」様だという話だ。本当だろうか?最狂戦士と守護者の組み合わせ、おとぎ話をぶち壊すようなものだ。しかし、実際に2人を見ると妙にしっくりくる組み合わせだと思えた。彼女の持つ雰囲気はセイラム男爵領で彼女の行ったという話に確信が持てるものだった。何というか救世主いや聖女のいや女神の佇まいを見たのだった。
そして、2人を伴った晴海での航海で図らずも彼女のその戦闘力のすさまじさをこの目で見ることになるのだった。
「海の魔獣でシーサーペントと並ぶ最強のクラーケンをあんなにあっさりと討伐してしまうとは」
しかも、倒したクラーケンは触手を含めると300メートルはあった。たぶんクラーケンの中でも頂点に位置する個体であろう。
「とんでもない人に来ていただけた。必ずやエルダーアレンのドラゴンどもを蹴散らし、この国を救ってくださるはずだろう」




