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ポルタラ子爵領グルジャノ村

 定食屋の客の入りは上々であった。カウンターにちょうど2席並んで空いていたのでそこへ座り、

「おっちゃん、しょうが焼き定食2つちょうだい」

 カウンター向こうにいるちょび髭生やしたいかにも中華料理人的なおやじに注文をする。

「あれ王国の人ね。えらい美人ね。旦那もいい男ね。その格好は冒険者かね、久しぶりね。この辺の依頼なんて最近はなかったはずね」

 何だろう?門番にも感じたが、この似非中国っぽいイントネーション。これは運営(ゲーム)の所為なのか?微妙にイラっとくるな。

「いや、コイツ旦那じゃないし。私ら今日王国から来たんだ。だからまだこちらのギルドの依頼なんて受けていないよ」

「王国から来たね。国境の森、ドラゴンいるね。帝国を守っているはずね。よく通れたね。」

「門番にも言われたね。なにもいなかったね」

 やばい、イントネーション感染(うつ)った。気を引き締めていかねば。それにしても、この村の雰囲気は王国に敵愾心があるようには見えない。王国が勝手にそう思っているだけなのか、帝国とセイラム男爵領との関係が悪くなかった所為なのか。

「おかしいね。セイラム男爵領と王国でもめごとが起きるということでドラゴンはいたはずね。まあそれじゃ、もめごとが収まったということね」

 勝手に納得してくれた。まあいいか。しばらくして、しょうが焼き定食が目の前に。おお、ご飯だ。ちゃんとジャポニカ米だ。味噌汁もある。具は豆腐だ。まさに日本の定食だね。似非中国イントネーションの見た目ちょび髭中華料理人だけど。

 食事を堪能していると、客が入ってきた。イヌ獣人の男だ。秋田犬っぽい顔をしている。商人かな?なんかできるビジネスマンみたいな眼鏡をかけビシッとしたスーツを着ている。


 獣人族は本来、帝国の東側に広がる海の向こうの大陸に自らが支配する国がある。しかし、基本的に生活水準は人族が支配するこちらの大陸の方が高いため、海を渡ってこちらで生活する獣人たちは、それなりに多い。獣人は大抵身体能力が高く、器量良しなので冒険者やギルド職員、貴族や商人の護衛や使用人となるのが一般的だ。それに、獣人族はいわゆる体育会系、いわゆる脳筋な連中だ。そのため上下関係、主従関係がきっちりしている。だから、人族の社会でもそれなりに重宝されているのだ。しかし、獣人族も別に人族から支配されていると劣等感を抱いているわけではないし、人族も獣人族を隷属していると思っているわけではないので、まあ両者に人種差別的なものはない。魔物や魔獣といった共通の脅威もあることだし、WinWinの関係だ。ゲームだしね。そんな社会派的なこと運営(ゲーム)も考えていないだろうし。...たぶん。

 そして当然、海を渡る手段は船である。空を支配しているのは、ドラゴンもしくはドラゴン亜種の魔獣だし、鳥系の魔獣も基本的に森以外で魔素を得られないので、海に出られないし、鳥系の獣人もいるが跳べるけど、飛べない。空を飛べる獣人はいない。人も飛べない。船しかない。

 海には海の魔獣がいる。当然普通に海に入れば襲われる。しかし、海に潜れるというか海に適応した獣人もいる。イルカ系だね。そいつらが護衛をして航路は確保されている。そうして獣人族の国と人族の国(まあ帝国だけど)は貿易をしているのだ。なので獣人の商人がいてもおかしくはない。今も船の行き来はあるのだろうし。なんで日本のサラリーマンのような格好しているのかは、わからないけれど。運営(ゲーム)の仕業かな。

(そういえばコーヒー豆やカカオ豆なんかは獣人族の国で産出していなかったけ?)

 つらつらと、そんなどうでもいいことを考えているとそのリーマン獣人と目が合った。っと、リーマンはすぐに目をそらし、カウンター角に腰を下ろすと、

「しょうが焼き定食くれ」

「はいね」

 もうこちらに目をやることはなかった。

(なんか気になる目線だったな。...まあいいか)

 気にせず食事を続ける。隣のバルバロスは夢中で食べている。

(コイツ、こんなに食うのが好きなのに、2百年近くもドラゴンの姿で魔素だけで過ごしていたのか?...アホじゃない?)

 食べ終わり、店を出る。そして領都を目指し村を離れ、街道を進む。


 似たような田園風景をかっ飛ばす。...夕方、ようやく領都の外壁が見えてきた。さて、ポルタラ子爵か。元プレイヤーの魔族について何か語ってくれるのだろうか。

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