セイラム男爵領都ロアノークの手前
「村々の病、みんな同じ症状だったね」
グレイグ村のロバート村長からもらった地図を片手に回復薬を渡して回り、先ほど最後の村を後にしたのだった。クレイグ村で回復薬の効果を確認した後、感染が広がっている村にも配ることを提案したわけだ。
私の問いに、バルバロスがつぶやく。
「感染力が高い病であれば、流行するのは別に不自然ではないが、それほど頻繁に村々に人々の行き来があるわけではなかろう。確かに、短期間に広範囲に流行するというのは不自然ではあるな」
「たぶん病原菌を持つものが意図的に村々を訪れたのだろうね。それらしい証言も得られたし」
どうやら各村に旅人を名乗る2人組が数日間泊っていたとのこと。ある村では夫婦が、ある村では兄弟が。そして必ず片方は肌や顔を見せぬようにしていたらしい。まあわかりやすいこと。おかげで、同じ2人組である私たちも随分と警戒された。ロバート村長の証文がなければ村に入れてくれなかったところだ。まあ証文を見せて回復薬を配ったら神のごとく崇められたけど。...正直いたたまれなかった。バルバロスは平然と受け止めていたが。そりゃあ確かにこいつは「管理者」だ。神(ゲーム運営)の使いといえるか。
「問題は何が目的かということじゃな。村々を弱らせることに何の意味もないからの」
そうなのだ。病が流行ることが不自然というより流行らせることの方がよっぽど不自然だ。仮に今回の調査対象である怪しい怪しいワリト・メンドーサ卿が犯人としよう。ではその動機というより目的は?となると、はてなマークが並ぶわけだ。自らの領民を弱らせる意味が分からない。
「まあ、考えてもしょうがない。ロアノークへ行こう。村長の手紙を渡さないといけないし、村々の病人達もその内よくなるだろうし」
街道を進めば遠くに領都の外壁が見えてきた。辺境伯領を出て、既に10日以上過ぎている。なんだかんだで、ボトトートの森から3日でロアノークの道のりがずいぶん遠回りになったものだ。
っと、感慨にふけっていれば街道から外れて追手から逃げるように疾走する件のクラシックカー(魔動車だっけ)が見えた。
(追手は盗賊か?でもこんな見晴らしの良い場所で盗賊が出るものか?)
付近に森はなく草原の広がる場所である。ともあれ、放っておくわけにもいかない。「ワープ」で瞬時に追手の背後に回る。
「あなた達、何してるの?」
突然後ろから声をかけられて、ギョッとする彼ら。近くで確認すると追手は盗賊ではなく兵士に見えた。
(これは殺すわけにはいかないな)
「バルバロス、魔動車をお願い」
と言うや、魔杖剣をスタンガン代わりにして「電撃」で兵士たちを次々と昏倒させる。「電撃」は風属性魔法のスキルだ。
十数人ほど倒して、前を向くとバルバロスが魔動車を抑えていた。魔動車に駆け寄ると中には誰もいなくて、御者台(というか運転台?)に10代半ばに見える女の子が座り、バルバロスに見惚れていた。
(なんじゃそりゃ)
少女が私に気付き目を見開く、アイスブルーの瞳だ。アッシュブロンドの長い髪を高価そうな髪留めでまとめていて、氷の美少女といった雰囲気がある。服装はメイド服だ。上流階級のご令嬢の雰囲気と全く合っていない。それにしても、だいたい若い娘は美少女で、若い男はイケメンが多いよな。ゲームの世界だからか?ゲームの世界だからだな。
その中でも頭一つも二つも飛び出ているバルバロスの容姿だ。見惚れるのは仕方がない。私を見て少女はバツが悪そうにする。
「追われていたようだから、取り敢えず助けたことになるのかな?追っていた兵士は気絶させただけ」
声をかける。
「ありがとう、ただ私が乗り慣れない魔動車を暴走させてしまい、それを止めるために彼らは追ってくれていただけなの。でも、連れ戻されるわけにはいかなかったから、助けてくれたのも事実よ」
おいおい。
「詳しい話を聞かせてもらえるかな。私らは冒険者だ。まずはここを少し離れよう」
このまま詳しい事情も知らずにこの娘を放したら、私らが単に兵士を襲っただけの犯罪者となりかねない。バルバロスに運転を替わってもらい場所を離れ、草原の先に見えた森のそばに魔動車を停めた。
(何の森だろう?魔獣の反応はひとまず近くにはないね)
客席から降りて、「ストレージ」から丸太のテーブルと椅子を出すと、コーヒーと一口チョコを並べて彼女に勧めた。彼女は終始私のやることなすことにびっくりしていたけど、遠慮なくバルバロスが食べて飲んでいるのを見て、コーヒーとチョコに口をつける。
「美味しいわ。なにこれ、こんなの戴いたことないわ。どこで手に入れたの?」
「え?」
思わずバルバロスを見る。
「こちらで生産できるものに変化があったのだ。コーヒー豆やカカオ豆等がそれにあたる。カレーのように香辛料を複雑に組み合わせるものもな」
大改変の影響でコショウやトウガラシなどはともかく、徐々に生産というか栽培できなくなった香辛料などがあったそうだ。コーヒー豆やカカオ豆もそれにあたる。なるほどバルバロスがカレーを貪り、コーヒーやチョコレートを貪るわけだ。大体2百年前くらいからこの世界ではもう手に入らなくなっているらしい。
「手に入れた経緯は秘密だ。というかもう手に入らない」
「そ、そんな~」
彼女が肩を落とす。それほどのものか?
「話を戻すよ。どうして追われていたの?」
「追われてなどないわ。私は至急王都へ行かなければならないの」
どういうこと?っていうか無謀じゃない?まともに魔動車操れないし、そもそも魔動車の中、旅の荷物なかったよね。...無計画?
「ええっと、まずあなたの名前は?私はクロエ、こいつはバルバロス」
「そうね。名乗っておくわ。私はセイラム男爵三女のデビー・メンドーサよ、デビーと呼んで頂戴」
男爵令嬢かい!




