セイラム男爵領クレイグ村
藍色髪の初老の人は村長だった。責任感が強そうな細長の目をした四角い顔だ。私を見て、どぎまぎしている。ノエルに気を取られていたらしい、改めて私たちをみてびっくりしている感じだ。自宅へ案内してくれるとのこと。少し左足を引きずっている。義足のようだ。たぶん以前は冒険者だったのだろう。
(戦士かな?かなりの場数を踏んだ雰囲気がある。かなり高ランクの者だったのだろうな)
村長の後をついて歩き道すがら村を眺めると、子供や年老いたものばかりが目立つ。
(こりゃどう見ても訳ありなんだろうねぇ)
不穏な動きのある男爵領のはずれにあるこの村の状況、ロアノークに入る前からうさん臭さが匂ってくるようだ。
村長の家は、周囲の家と比べやはり大きかった。役場も兼ねているためだ。しかし、中は人の姿がちらほら。開店休業状態だね。会議室のような場所に通される。
「ここまで案内させていただく中ですでにお気づきでしょうが、この村は今人手不足となっております。現在この村で元気というか活動ができるものは子供と年寄りがほとんどなので」
お茶を勧められた後、村長が説明を始めた。
「助けていただいたノエルは薬師の娘です。その薬師である父親は今ロアノークへ行っております。というより周辺の村もそうですが現在、男手のほとんどが領都へと集められております。」
どうやら2か月前に領都で大規模な災害が発生したらしい。地震なのか暴風なのか分からないが、負傷者の手当やがれきの撤去などで「回復」など光属性魔法スキルを持つもの、薬師や冒険者などの招集連絡が各村に入った。ちょうど収穫も終わり農閑期ということもあって、男爵領の一大事とばかりにこぞって皆応じたわけだ。そして皆が移動し終わった頃を見計らったかのように村には病が流行りだした。厄介なことにそれは、20~30代の若者が重症化するものだった。村に残っていた数少ない若者が次々とダウンした。そして、
「ノエルの父親をはじめロアノークへ行ったもの誰とも連絡が取れないのです。」
村の役場でもある村長の家には連絡を取る魔道具(電話だね)がある。しかし現在は領都の担当官にもロアノークギルドにも連絡がつかないらしい。不在なのか居留守なのか。
「とうとう薬草が足りなくなってしまって、森へ採取に行くにも護衛をギルドに依頼できないですし」
よその村も同じような状態らしい。当然薬草そのものの融通も難しく、領都に連絡がつかないのだから取り寄せもできない。そしてノエルの母も病に臥せってしまう。母の為、村の為、そして何より薬師の娘としての責任感からか、彼女は意を決し森に採取に出かけたのだろう。まああの格好見ればそういうことだ。村では朝から姿が見えず、かといって森に捜索に行ける者もおらず、おろおろ状態だったというわけだ。村長としては、若い娘の思いつめた行動にやりきれなさというか無力感を感じているのだろう。そんな中、現れた冒険者が我々だ。村長は頭を下げ、
「ロアノークへ行かれるのでしたら担当官に、この周囲の村を含めた病の現状と回復薬もしくは神官の派遣依頼をした手紙を渡してほしいのです。そして厚かましいのですがその前に、どうか薬草採取の護衛をお願いいただけないでしょうか。現在村には冒険者はおろか腕の立つ若者がいないのです」
神官など聖職者は光属性「回復」スキルを持つ。光属性「回復」はケガや骨折、欠損部などの回復はできる。あと毒消しなどもできるが、風邪などの病は難しい。しかし体力(というかHP)は回復できるので、あとは自己治癒に頼ることになる。魔法とはいえ万能ではない。とはいえ「状態異常無効」をカンストしている私は病すら無縁なのだが。ちなみに「状態異常無効」は聖属性魔法のスキルである。聖属性も空間属性と並びレアである。チートである。そして「状態異常無効」はパッシブスキルなので他者の状態は無効できない。同じく聖属性の「状態異常解除」はアクティブスキルだが、こちらは闇属性や死属性の「硬直」や「魅了」なのど状態異常を解除できるが、病は直せない。
そして光属性スキル持ちがいない村の現状では、薬草による回復薬で体力をつけることが、唯一の治療法となるわけだ。なるほど、男手が少なく、光属性持ちがいないところで病が流行り、しかも若者を中心に重症化ね。
「患者はどんな症状なの?」
「高熱が出て、全身に発疹ができております」
(麻疹っぽいね。こちらの世界にもある病なのだろうか?かつてこのゲームの病と言えば風邪ぐらいしかなかったけど。そこら辺の知識はさすがにないな)
そもそもロアノークの大規模な災害というのが怪しい。そんな話エルシノア辺境伯からひとつも出てこなかった。まあ王都やギルドの調査員がこれに巻き込まれて消息不明というオチもありなのかもしれないが、それなら逆にセイラム男爵から王都へ支援要請があってもよさそうなものだし。それとも帝国へ要請した?
そして領都周辺の村での病の蔓延。これもタイミングがおかしい。まあワザと病を引き起こすことができるのかも謎だけど。それもただの風邪ではなさそうな病だ。というかこれが故意だとしたら。...嫌な予感しかしない。
(いずれにしてもまずはこの村だね)
麻疹にしてもただの風邪にしてもすぐに治る特効薬はない。体力つけて自然治癒力に頼るしかない。これは元の世界の理屈だが、この世界も同じ理屈だった。...ハズ、設定崩壊してなければ。
「薬草からできる回復薬と同じものを私は持っている。とりあえずそれを渡すよ」




