エルシノア辺境伯領主館
「我はジェームズは嫌だといったはずだ」
グチグチと不機嫌オーラをまき散らしながらバルバロスが隣で睨んでくる。
「わっ、私のせいじゃない。私だってキャサリンだぞ」
なんでこんなことになってしまった。...あの衛兵のせいだ。あのヤロウ、余計なことまでしゃべりやがって。
現在私たちはギルドマスターと向かい合わせ座り、領主館へ向かっている。馬車ではない。まあ客席周りは完全に馬車だ。御者台の先に馬の代わりにエンジンが付いている(トラクターみたいな)、へんてこなクラシックカーだ。まあ厳密にはエンジンではないけれど。
「プレイヤーたちが生み出したものの一つだ。魔石を使ってモーター?とやらを回して動くそうじゃな」
バルバロスがいやジェームズが教えてくれた。
「あれ?でも通り過ぎた町や村は荷馬車じゃなかった?」
「魔動車を使えるのは貴族や豪商人くらいだな。ギルドでもこうして所有しているが、魔石を多く使うのである程度資産がないと運用は難しいのだ。だが、馬と違って天候や機嫌に左右されないし、病気知らずだ、便利ではある」
ギルドマスター、長いのでギルマスでいかせてもらう、が教えてくれた。そうこの世界では魔石から魔力を抽出してエネルギー源としている。まあ電気やガスとか(石だから石炭とか)の代わりになるようなものだ。そして高い魔力を有している魔石は高額で取引される。なにせそれが取れる魔獣は当然高ランクなのだから、簡単には手に入らない。ちなみに魔石の属性は抽出される魔力には関係がない。水属性の青い魔石でも魔道具のコンロの火力になる。多少変換効率に差はあるらしいが。
「なるほど、結局プレイヤーが生み出したもの、大体は貴族様専用ってことなんだね」
高い塀が続くしゃれた装飾を施した大きな門を抜けると領主館が見えてきた。お城のような...いやもう城で良いんじゃない?ってぐらい立派な館だ。もう面会の手続きは済んでいるようで、応接室のようなところに案内された。やがて、執事っぽい人を伴って貴族って感じの人がメイドっぽい人(こいつも緑髪に射抜かれてやがる)に開けてもらったドアから入ってきた。
「コーディ、骨を折ってくれてありがとう」
応接室の上座に座るなり、ギルマスに声をかける。執事さん(そういうことにしておく)は後ろに控えて立っている。
「とんでもございません。こちらが、冒険者のキャサリンとジェームズです。君たち、こちらがエルシノア辺境伯エルネスト・フリエリ卿だ」
ギルマスはドアが開くと同時に立ち上がっており、それぞれの紹介をする。座ったままの私たちに、部屋に控えている使用にたちは、不敬だという思いなのか息をのむようにしている。
「エルネスト・フリエリだ。」
「...。」
バルバロスとお互いにらみ合う。...名乗りたくない。使用人たちの視線が泳ぎだす。
「君たち、ちょっと席を外してくれないか?」
ギルマスが使用人たちに慌てて声をかける。
「お前たち、外で控えておれ」
辺境伯も声をかける。執事さんと合わせて5人になる。ギルマスが、
「改めて、こちらバルバロス様とクロエ・ビロウ様、守護者様と最きょ...「その名は無しで」
言わせない。かぶせた。
「そ、そうですか。改めまして、このエルシノアの領地を預かっておりますエルネスト・フリエリです。よろしくお願いします」
辺境伯、丁寧になった。
「我は今、守護者などではない。此奴と共に冒険者に過ぎぬ。気を使うな」
「わかりました。そのようにいたします、では何とお呼びすれば?」
と辺境伯。
「バルバロスでよい。ジェームズは好かぬ。此奴はキャサリンでよ「ちょっとまて」
割り込んだ。
「キャサリンは嫌だ。クロエで頼む」
「バルバロス、クロエ、よろしくお願いする。」
ようやく挨拶が済んだ。
「では依頼内容とやらを聞こうか」
バルバロスが口を開く。
「勝手に話を進めるな。依頼を受けるとは言ってないぞ」
私が文句を言う。なんか予定調和のように話が進むのが気に入らない。
「もちろん話を聞いていただいてから判断してかまわない。ただ状況が状況だけに力を貸していただけると大変助かる。これは王都からの依頼なのだ」
やんわりと辺境伯が声をかける。そりゃ依頼内容が王国にかかわることなんだからそうなんだろう。辺境伯はその代理を務めるというわけか。まあこの重大そうな流れ、かつてのゲームイベント「ステージクエスト」のような感じがしないでもない。
「わかった。取り敢えず話を聞こう」
「ありがとう。実はここフランギスタル王国の東に位置するセリカレギオ帝国との国境にセイラム男爵領がある。この男爵であるワリト・メンドーサ卿が叛意を抱く動きがある。つまり帝国に近づいている節がある。」
辺境伯が話を始めた。なんだ?このふざけた名前の男爵は。割とどころじゃない面倒事起こしやがって。
「ちょっと待って。帝国と王国って仲悪かった?」
確かゲームの頃はそうでもなかったような?帝国のお姫様とこの国の王子様が魔獣討伐するのに参加する「ステージクエスト」とかあったはず。
「だいたい百年前辺りから険悪になりだした。今では2百年前からその兆候はあったと理解されている。王国で産出する魔石が狙いだ」
「魔石の産出?そんな魔獣の数なんて大して違わないでしょ?」
「それが2百年前ダンジョンが発見されて、魔石の確保が容易になったのだ」
辺境伯の言葉に、思わずバルバロスを見る。1stステージのダンジョンは「クラスチェンジ」クエストでのみ解放される。...設定だった。また設定崩壊か。
「管理者とはいえ5百年前からは形ばかりじゃ。事象の違和感は感じたが、この程度は放置した」
言い訳しやがった。じゃあどの程度のを対処していたのか?
「プレイヤーたちの暴走程度じゃな。あれはこの世界の維持に有害じゃ。それも2百年前にはいなくなっておったし、我はその後はあの森で監視を始めたからの」
ダンジョンの維持がこのステージのNPCたちでコントロールできているということか。まあ転移陣なんかも運用許しているわけだしね。それなりに管理者規制を下げているのかもしれない。う~ん、設定崩壊か...
(ダンジョンも調査しなくちゃね。...まあ、ステージのクリアでどうせ行くんだけど)
「話を戻すよ。そこで、本当に帝国に取り込まれているのか、男爵を内々に調査することになった。コーディから聞いたかもしれないが、誰一人帰ってこない、何もわかっていない」
「じゃあ、そもそもなんで叛意ありと断じたの?きっかけはあるのでしょう?」
「きっかけは当然ある」
話はこうだ。まず1年前、帝国の使者を王国の第3王子が迎い入れた。セイラム男爵領の領都ロアノークでだ。当然メンドーサ卿がセッティングしたものだ。まあ魔石の友好的な取引に関するものだったのだが、その席上で王子が身に着けていた王族の秘宝であるアーティファクト「状態異常無効の指輪」が作動した。何やら攻撃されたのだ。王子は身の危険があるため王都へ帰還。帝国の使者は無関係を主張、むしろこちらが被害者だとばかりに帝国へ逃げ込む。男爵はそれを見逃す。
その後も男爵は明確に敵対しているわけでなく、こちらに恭順しているように見せかけてはいるが、調査に出した消息不明者の問い合わせに対しても、のらりくらりとはぐらかし続け、ついに2か月前に男爵領のすべての連絡が途絶えたらしい。
「状態異常というのが微妙だね。硬直や麻痺?弱体化や幻覚?まあ他にもあるけど、人族が使えるスキルじゃ何がしたかったんだか。暗殺したかったわけではなさそうだし、でも交渉に有効なスキルなら...」
交渉の場で相手に「状態異常」をかけるとなれば、魅了や洗脳、狂気など相手の行動を操る系のスキルは有効だろう。だがそういったスキルは死属性魔法で魔族特有のものだ。
「まさか魔族?」




