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アルバ―ヒルギルド

「ベッド2つある部屋開いている?」

 宿屋のおばちゃんに声をかける。こういった宿屋はたいてい1階は食堂だ。夕食時間にはまだ早いがちらほら客が飯を食っていた。

「2人で1日大銀貨1枚だ」

 ちょっと高いか?まあ5百年前と同じなわけもないが。

「7日で大銀貨5枚、夕食と朝食付きでどう?」

「はん、しれっと値切ってんじゃないよ。6枚だ。それと夕食は今晩だけつけてやる」

 しょうがない。6枚払う。

「3階の左端を使っておくれ」

 鍵をわたされ、部屋へ向かう。

「おお、なかなかいいじゃないか。上出来、上出来」

 ベッドがちゃんと2つあった。この世界ではじめて文化的に過ごせそうだ。木窓を開けて長椅子に腰を下ろす。ここまで、街を眺めてきたが、大して昔と変わらないような気がした。5百年経っている感じがしない。

「そんなに発展していないね」

「それはそうであろう。プレイヤーだとて改変前もこの世界で過ごすのに不満はなかったはずだ。なのに転移陣など作りおって」

 まだ言っている。しつこいなぁ。裏技を表で使わざるを得なかったんじゃない?知らんけど。

「他には何作ったの?」

「シャンプーとかリンスとかソープ?などはかなり持て囃されたはずじゃ。あと風呂か。四角い箱に湯を入れたやつじゃな」

 そうか、現実ともなればそこに力を入れたくなるのか。魔法で何とかなる世界で、敢えて楽しむということだな。そうすると割とどうでもいい文化が広まっているということか。とはいえ私も風呂につかりたいな。夕食の時おばちゃんに聞いてみよう。


「何言ってるんだい。風呂なんて貴族様の家にしかないよ。あぁ、そういえばギルドにはあったかね」

 夕食を食べながら聞いてみるとおばちゃんからそう返ってきた。ちなみに夕食はハンバーグ定食だ。デミグラスソースたっぷり、ロールパンに揚げたポテトやコーンスープも美味い。考えてみれば食はそもそも日本と同レベルだった。バルバロスも普通に食っている。

「ふん、森にいれば大地や木々から魔素を巻き上げればよいが、ここではそうはいかん。森とは得られる魔素の量が違うのだ。であるからきちんと食事は必要なのだ」

 なるほど、魔獣じゃなので魔素の代わりにHP/MP回復に食事で補える。ということかな。まあどうでもいいや。


 翌日、朝食を終えてギルドへ向かった。やはりギルドは記憶の通り立派だった。入り口を抜けると広いホールだ。食事も酒もここでとる。左手には掲示板、クエストが掲げてられている。右手はバーカウンター、厳ついクマ獣人がグラスを磨いていた。食事もここから提供される。今は配膳係の人はいないが、まあ昔とほぼ変わらない。

 早朝のクエストの張り出しが終わったのだろう。ホール内のテーブルは空いている。ちらほら暇をつぶしているパーティーがいる程度だ。チラチラとこちらへ向ける視線を感じながら、奥の受付カウンターを目指す。

 うさ耳獣人のお姉さんだ。なんだろう、ギルドは獣人が仕切らなきゃ気が済まないのかな?元の運営(ゲーム)の好みなのかな?これもまたどうでもいいけど。そしてこのうさ耳、バルバロスにロックオンしている。ケッ、どいつもこいつもイケメンですか。そういや宿のおばちゃんもこいつに夕食も朝食もサービスしてやがったな。気に入らん。

 ずいっと前に出て、フードを外す。息をのまれた。あぁ、オッドアイか。左は黒目で右は金色だ。眼帯で隠したいけど、「...疼く」とか言いたくないし、そもそも見た目でこれ以上病みたくない。気にせず声をかける。

「すみません。ギルドカードの変更って、できますか?」

「えっ?ギルドカードの変更ですか?ジョブ変更やランク更新はクエスト達成時に行いますが?」

「いや、ちょっと名前の変更...実は門の衛兵に指摘されたのだが、私たちのギルドカードはずいぶん古いものらしいのだ。新しいものと交換してもらえと言われたのだけど」

 さすがにいきなり名前の変更では不審がられるか。ここは正攻法だ。当たって砕けろ、いや砕かれないけど。

「そうですか、それではギルドカードを見せていただけますか?」

 私とバルバロスのカードを渡す。また名前に反応されるだろうなと思ったら、やっぱり、

「?!!、しょ、少々お待ちください!」

 慌てて奥へ引っ込んだ。あれ?予想よりちょっと過剰じゃない?

 ホールにいる人たちの視線が刺さる。は~ぁ失敗した。注目浴びてしまった。じりじりとしながら待っていると、

「ギルドマスターがお会いします。お連れ様とご一緒にこちらへどうぞ」

 うさ耳が緊張した声で奥へと招く。仕方がないとついて行くことに。


「アルバ―ヒルギルドのコーディ・デッカーだ。手間をとらせて済まない。まあ座ってくれ」

 促されて、応接セットの長椅子に座る。褐色で長めの髪をオールバックに束ねた彫りの深いなんか酋長みたいな顔のこいつは人族だった。まあ大男で普通に強そうである。先ほどのうさ耳がお茶を持ってきた。配り終えるといそいそと出ていく。紅茶だ。アールグレイかな。そんな味。

「実は昨日、砦からの報告が領主経由でこちらにきていたのだ。そして昨晩、門の衛兵からも2人の話を聞いていてね。受付には申し伝えてあったんだ。慌ただしくて申し訳ないが時間をもらいたい」

 どうやら、こちらの素性は見破られているようだ。砦の隊長さん、ぜんぜん胡麻化されてなかったのね。すんなり通れたので、てっきり上手くいったと思ったのに。くそっ、手のひらの上だったか。

「まあ。別に構わないよ。私たちもクエスト探しはするつもりだったし、時間はあるよ」

「そうか、それはよかった。早速だがクエストを依頼したい。詳しくは私より依頼主から説明することになる。いいだろうか?」

 おい、早速クエストかい。なんか性急すぎやしませんか?どういうつもりだろう?

「いいも何も、その依頼主って誰?だいたい依頼の中身も知らないうちに答えられないでしょ?」

「依頼主は取り敢えず領主ということになるな。依頼内容は王国内の他領への潜入調査だな」

 おいおい、そんな政治的なもめごと。ますますどういうことだい?

「え?そんなこと私らに依頼する?こちらはDランクの冒険者なんだけど。王国の精鋭か高ランクの冒険者?それ専門の?であたるもんじゃない?」

 あくまでただのDランク冒険者ととぼけることにするが、相手はお構いなしに話をつづけた。

「詳しいことはこの場では言えないことだが、既に国の精鋭、高ランク冒険者いずれも失敗、というか消息不明なのだ」

「じゃあなおさらことは重大ってことじゃない」

 う~ん、なんだろうこの待ってましたと言わんばかりのこの状況。ちらっと隣を見る。涼し気に緑髪イケメンがギルドマスターを見つめている。っと、こちらを向いて、

「まあ、話を聞くだけ聞いてもよいのでは?」

 受けやがった。まさかお前の筋書きじゃないだろうな?

「いやいやいや、待ってくれ。だからDランクなんだってば。AランクやBランクじゃないの。ギルドがそんなランク無視しちゃダメでしょ。」

 抵抗してみた。

「それなら問題ない。おっ丁度できたみたいだな」

 ノックに引き続きドアを開けてうさ耳が入ってきた。

「新しいギルドカードだ。ちゃんとAランクだ。名前も「キャサリン」と「ジェームズ」になっている」

 ええええええ?

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