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24・第二王子、フローラに出会う


「――というわけで、こちらが『純粋な動機で』聖堂奉仕を望んでいる姉のフローラです」

「フローラ・カレンベルクと申します。よろしくお願いいたします、ヤスミン様」


「ふ、ふ、ふ……フローラ様!? 大聖女の三女であらせられる……」


 フローラ聖堂初奉仕の日、準聖女控えの間で全員と顔合わせする前に、ミアは中庭でフローラとヤスミンを引き合わせた。


 それにしても、ヤスミンの狼狽ぶりが半端ではない。

 足がガクガク震えて今にも膝をつきそうではないか。


 ヤスミンは準聖女にしては家格の高い伯爵家の令嬢で、公爵家といえどもそこまで引かなくてもいい身分だと思うのだが。現にミアに対しては数日ですっかり気安くなったではないか。正妻の子か愛人の子かであからさまに差別する人にも見えないのに。



「大聖女コルドゥア様のォォォォ――!」



 謎の雄叫びを上げて、ついにヤスミンはくずおれて地面に突っ伏した。


「だ、大丈夫? ヤスミン!」

「大聖女コルドゥア様のご息女……コルドゥア様のォォォ」

「ヤスミン様、どこかおかげんでも?」


「はゥヤっ!?」


 フローラが跪いてヤスミンの手をとると、今度は奇声を上げた。

 どうやら公爵令嬢より「大聖女コルドゥアの娘」に対して調子がおかしくなっているようだ。


「聖女アンネリーゼにお仕えできるだけでも僥倖なのに、ご息女フローラ様が私と共に働いてくださる? 夢かしら。私、夢を見ているのかしら……」

「母のことをご存知なのですか? でも、お歳が私と違わないのではないかしら……」


 フローラが不思議そうにヤスミンの顔を覗き込む。大聖女コルドゥアはフローラの出産時に亡くなったのだから、同い年のヤスミンが会ったことはないだろう。


「私は、生まれるときコルドゥア様に命を救っていただいたのです」


「まあ!」


「私のお産は難産で、そのままでは母子ともに死にゆく運命でした。親子でコルドゥア様に救われたのです。しかし、その後すぐにコルドゥア様が亡くなられてしまった……。コルドゥア様は身重のお体で、私たち親子を守ってくださったのです。私の命はコルドゥア様にいただいた命です。だから、聖堂にご奉仕することで少しでもお返ししようと」


「ヤスミン様、私もです。母が命に代えて生んでくれた身です。聖女の力は授からなかったけれど、少しでもお役に立ちたくて聖堂に」


 フローラはヤスミンの手をさらに強く握りしめた。


「私たち、仲間ですわね」


「フローラ様……」

「お会いできてうれしいわ、ヤスミン様」


 ヤスミンの目からダバア!と涙が流れ落ちる。


 ふたりの少女は手を取り合い見つめ合い、この出会いを精霊に感謝するのであった。


 若干蚊帳の外なミアは、よかったよかったと思いつつもなんとなく居場所をなくして、ぼんやり中庭を見渡した。


 すると、植え込みの向こうからこちらを見ている人物と目が合った。


(ふあっ!?)


 とんでもない美青年だった。


 朝日にきらきら輝く金の髪、すらっと背の高いほどよく引き締まった体に、建国の勇者をこれでもかとばかりに美化した彫像のような、凛々しく気品のある顔が乗っている。身に着けている衣服も一級品で、着こなしに一部の隙もない。


(誰? 誰? 絶対上位貴族だよね?)


 美青年は「シーッ」と言うように人差し指を唇の前に立てると、ミアににこりと微笑みかけてから足を忍ばせて場を去った。控えていた従者がいそいそと後をついていく。


 聖女の癒しに訪れた御曹司が、中庭を散歩中に少女たちの感動の場面に出くわし、水を差さぬよう足早に立ち去ったというところだろう。


 あんなとんでもなく優美な上位貴族のご令息が来るのなら、化粧で塗り立てて自分を売り込みたくなるお嬢様も、そりゃあ後を絶たないだろうとミアは思った。


(あの人も準聖女をつまみ食いしたりするのかな。やーだな)

 フローラを見たのなら接触してくるかもしれない。ほかの準聖女がいくら塗りたくったところで、素顔のフローラがぶっちぎりで一番かわいいのだから。


 これは気合を入れてフローラを守らなければ!




 女癖の悪いおぼっちゃま方からフローラを守る前に、ライバルに意地悪を仕掛けてくる準聖女たちからもフローラを守らなければならない。


「僧服は棚に置かなかったわ。私が預かってる」

 ヤスミンが私物の包みからフローラの僧服を取り出した。


「さすがヤスミン」

「ミアはフローラ様の横に立って睨みをきかせるといいと思うわ。たまに指でも鳴らせば効果絶大よ」

「うんうん、もしフローラにわるさしたらわたしがボッコボコに」

 ミアはにやりと笑ってボキッと指を鳴らした。

「うん、いい悪い笑顔だわ」

「いい悪い笑顔?」

 フローラがきょとんと問う。


「安心してフローラ。わたしたちが完璧に守るから」

「なにから?」


 妬みと僻み、とは答えず、ミアとヤスミンはあいまいに微笑んだ。


 意を決して控えの間のドアを開ける。


 準聖女たちの顔が一斉にこちらを向き、フローラを見る。彼女たちの顔に敵意は浮かばなかった。



 彼女たちの表情にあるのは「完敗」だった。



 あまりにもレベルが違いすぎると、嫉妬も敵意も蒸発してしまうのだとミアは悟ったのだった。



     *****



「準聖女の少女たちにも様々な物語があるのだと、今日は感動した」


 聖女アンネリーゼの間で癒しを終え、第二王子フェリクスはシャツを羽織った。乾いてかさぶたになっていた傷は今回でほぼ治り、もう包帯は必要ない。


「彼女たちが殿下に何か申しましたの?」

「いやなに。庭園を散歩していて、準聖女たちの涙ながらの語らいを耳にしてしまった。大聖女のおかげで母子ともども命を救われたと、少しでも恩返ししたいから準聖女になったと。私も感激してしまった。なんと美しい……」


「イエンシュ伯爵令嬢ですわね。名はヤスミンだったかしら」

「もうひとりは聖女殿の妹君かな。大聖女が命に代えて生んでくれた身だから、聖女の力はないけれども、少しでも役に立ちたくて聖堂にという話だった。二人ともいくらでも煌びやかに暮らせる身の上だろうに、聖堂のために地味ななりをして、身を粉にして働くとは。大変に美しい心映えだ」

「……そうですわね」

「歴代の聖女が、有らん限りの癒しの力を皆に注ぎ続けてくれるおかげで、皆の心も美しい。ありがとう聖女殿!」


「大地の精霊に与えられたお役目ですもの。それはそうと……フェリクス殿下、妹のフローラをご覧になったの?」


「見たが、何か?」

「どう思われまして?」

「十五歳くらいかな、と」

「フローラは十七です。殿下のひとつ年下ですわ」


「なにっ? す、すまない聖女殿、これは妹君に黙っていてくれないか? 幼く見られて悪い気がするかもしれないからな……」

「わかりましたわ。ほかには? どう思われまして?」


「ほかに? 準聖女はたまに力仕事をしているようだが、腕力がなさそうで大丈夫かなと……ああっ、これも黙っていてほしい。見た目で勝手に力量を推し量ってはいけないな、私は」


「フェリクス殿下って本当に――」

「本当に?」

「なんでもありませんわ。殿下、心音を聞かせてくださいまし」


 アンネリーゼはため息まじりにそう言うと、フェリクスのシャツごしに背中にぺたりと耳をつけた。


 白薔薇のような美少女を見ても、絶世の美女に頬を寄せられても、第二王子の心臓は通常通りのはやさで乱れることなく、正しく脈打っているのだった。




 公務までまだ少し時間があったため、第二王子フェリクスは聖堂の視察をしていくことにした。


「視察は結構ですが、なぜ植え込みに潜むのですか?」

 準聖女が働く処置室の窓の外、フェリクスと従者は外壁と植え込みの隙間にいた。


「私の前では皆が普段通りの姿を見せてくれないのでな。聖堂の面々の、もっと生の働く様子を知りたいと、今朝の少女たちを見て思った」

「左様でございますか」

「兄上ほどにとは言わないが、私ももっと王宮以外の人々のことを知らねばな」

「良きことと思います」

 従者は真面目な顔でうなずいた。


 王子と従者は目立たないように、ひょっこり窓から処置室を覗き込む。


「どういうことだ?」

「どういうことでしょう?」


 美しい壁紙が貼られた絨毯敷きの、貴族と富豪用の処置室である。


 フェリクスも見知っているA伯爵とB伯爵の嫡男が、長椅子に座りそれぞれ準聖女を膝にのせている。準聖女たちは男にしなだれかかったり、首に腕を回したりしている。嫡男Aは準聖女の腰をなで、嫡男Bは「エッカルト子爵の夜会は凄いんだぜ。連れてってやるよ」などと誘いをかけている。


 王子と従者はとりあえず窓から離れた。


「どういうことだ?」

「どういうことでしょう?」

「A伯爵とB伯爵は今日の公務で顔を合わせるから、訊いてみよう」

「それがよろしいかと」


 王子と従者は納得のいかないまま、中腰になって隣の部屋の窓下に移動した。


 また理解できない光景が広がっていたらどうしようと、おそるおそる窓から中を覗き込む。


 石壁板張りの庶民用処置室は大部屋で、先程の部屋より人が多くにぎやかだった。比較的老人が多いが、子供もいる。


 オレンジの髪の準聖女が、泣きべそをかく幼児を高い高いしてあやしている。ものすごく高速で上下するので逆に怯えるのではないかとフェリクスは思ったが、やんちゃそうな幼児はすぐに泣き止み、ごきげんになった。


「あれは今朝目が合った少女かな。力持ちだな。持久力もある」

 自分はあんな高速でありつつ安定感のある高い高いを、幼児が求めるままに続けられるだろうか。やはり準聖女は立派であるとフェリクスは感心した。


 従者に目を向けると、彼は一点を見つめ「がんばれ、がんばれ」と小声で応援している。


 フェリクスも見てみると、黒髪の少女がぎこちない手つきで中年女性の手に包帯を巻いていた。指それぞれに巻かなくてはならないらしく、苦戦している。中年女性は「焦らなくていいのよ、新人さん」と穏やかに見守り、指導係らしき褐色の髪の少女も不安そうに見守っていた。


「今朝の少女たちだな。一生懸命だなあ……」


 時間はかかったが包帯はなんとかきれいに巻き上がり、中年女性は手をにぎにぎと動かして「うん、いいかんじ。ありがとね」と黒髪の少女に礼を言った。少女はぺこりと頭を下げ、顔を上げたときは少し涙が滲んでいた。


 褐色の髪の少女がねぎらうように黒髪の少女の背をポンと叩く。


 ふたりは顔を見合わせ、微笑んだ。


「がんばったな」

「がんばりましたね」


 王子と従者はじーんとしていた。心洗われるいい光景だった。


 褐色の髪の少女が「ちょっとミア! ここは曲芸を教える場所じゃないのよ!」と、幼児と調子に乗る仲間を諫める様子も、なんとも微笑ましかった。




 一日の公務を終え、第二王子フェリクスは充実した疲れとともに城へ戻った。


 公務のとき、聖堂処置室で見た光景をA伯爵とB伯爵に伝えると、「息子には厳重注意致しますので、なにとぞ、なにとぞ」と平身低頭して許しを乞われた。やはりあの行いは聖堂には相応しくないものだったのだと納得した。


 城内は昨日よりざわついており、旅装の騎士を見かけたフェリクスは、第一王子が地方の視察から戻ったことを察した。


「兄上~!」


 犬のように喜び勇んで兄の姿を探し回る。


 小ホールで第一王子を発見するも、彼はすでにもう一匹の子犬にまとわりつかれていた。


 第三王子ユリアンである。


「あにうえ~旅のおはなしきかせてきかせて。どんな魔物とったの? 強かった? キバあった? トゲは? どくはいた? とぶやつ?」

「こらこらユリアン、兄上はお疲れです。腕にぶら下がってはいけない」


「軟弱はうっさい」

 九歳の第三王子は次兄をちらりと見て言い捨てた。


(軟弱……)

 いつものことだが非常に傷つく。弟王子はそれはそれは冒険者に憧れていて、最小限の従者だけを連れて魔物が危険な地域に視察に行く第一王子を心から尊敬している。フェリクスとて兄を尊敬する気持ちは同じなのだが、兄と比べられて弟にバカにされるのがつらい。


 先日無理をして魔物と戦ったのも、ここで魔物を倒せば弟に見直してもらえるのではないかと期待したからだ。結果、惨敗して負傷したわけだが……。


「ユリアン、フェリクスは軟弱なんかじゃないぜ」


 第一王子ディートハルトは、右腕にぶらさがった第三王子をぶんっとホール中央にぶん投げた。あぶない!と叫びそうになったフェリクスだが、ユリアンは猫のように軽く着地を決めた。


 こんなとき、この二人にはかなわないとフェリクスは思うのである。


 身体と身体が信頼し合っている。

 頭でっかちの自分には入り込む隙がない……。


「フェリクス、俺がいない間、公務代行ありがとな。おまえがやったほうが格段に段取りが良くて、報告書を見て舌を巻いたよ。さすがだなあ」


 ディートハルトはそう言って、フェリクスの背をポンと叩いた。


(ああ、こんな光景を今日聖堂で見た)


 フェリクスは胸があたたかくなった。きっと今の自分はあのときの黒髪の少女のように、満足そうな笑顔をしているだろう。


「ユリアン、フェリクスはしっかり政務の勉強をしているからな。軟弱なんかじゃない、とても頼りになる男だ」

「でもー……」


「魔物倒すだけが勇者じゃないぜ。建国神話の第一巻だけ読んで終わりにするんじゃない。魔物から土地を奪ってから先が物語の本番だよ」

「だってたいくつなんだもん」

「退屈なんかじゃないさ。明日俺が説明しながら一緒に読んでやるよ」

「本当!?」

「ああ。ほら、ばあやが呼んでるぞ。また晩餐の席でな。みやげもそのときに」

「おみやげあるの? なに? なに?」


「これと同じ鱗」


 ディートハルトは服の胸元から、細い鎖に通した魔物の鱗を引っ張り出した。



 薄青く輝く小さなタラスクスの鱗。



「あにうえのお守りと同じ色の?」

「ああ、ほしがってただろ。青いのはめずらしいんだ」

「やったー!」

「ばあやの言うことを聞かない子にはやらないからな。ほら行け」


 素直に走り去る弟の小さな背中を見つめ、フェリクスは感嘆の思いで兄を見た。


「さすがです、兄上。あの手のかかる子をこうもやすやすと」

「そんなに手がかかるかぁ? 乳母と教師には反抗的らしいが」

「魔物を倒したことのない者は尊敬に値しないようですよ……。私も」


 討伐教練のときは討伐隊員に狩ってもらったようなものですからとフェリクスは言葉を続けようとして、やめた。討伐教練の話題は城では避けられているのだった。


 貴族の通過儀礼のような魔物討伐教練の場で第一王子が行方をくらませたことは、一部にしか知られていない。行方不明の半年間は、世間では病ということになっていた。


「そういやお前、魔物に襲われて怪我したそうじゃないか。大丈夫なのか?」

「情けない限りです。聖女アンネリーゼのお力で怪我はもうすっかり」

「……そうか」


「すばらしいお力ですね。さすが兄上の未来の伴侶でいらっしゃる。そうそう、聖女アンネリーゼの妹君が準聖女として聖堂に入られましたよ。とても一生懸命な働きぶりで、感動しました」

「フローラ嬢が? 公爵家の令嬢が準聖女になるなんて異例じゃないか」

「大聖女コルドゥアが命に代えて生んでくれた身だから、聖女の力は授からなかったけれど、少しでも役に立てればと志願して聖堂に入られたそうです。カレンベルク家の女性は皆ご立派で、頭が下がる思いです。さすが大聖女の家系です」


「フローラ嬢なあ……。聖女の力を授かっていたら、お前の婚約者候補だったんだけどな」


「え……」


 あの黒髪の少女と結婚する可能性があった?

 一生懸命で笑顔の清々しい、あのけなげな少女と?


 フェリクスの脳裏に、彼女の無事包帯を巻くことができてほっとする顔、礼を言われて涙ぐむ顔、仲間と微笑みを交わし合う顔が次々と浮かんだ。


「あっ残念? すごい美少女だって噂だもんな。実際どう? 美少女?」

「乙女は皆美しいですよ」

「そういう返事は期待してないんだけど……。ああでもそうなんだった、お前ってそうなんだった。毎日鏡で見る顔がそれだから麻痺してるんだった……」

「麻痺は残っておりませんが」

「怪我の話してねーよ」


 ではなんの話だろうと思ったが、兄の護衛の魔術師が小ホールに入ってきたので、麻痺の話はそれまでになった。


 この長い黒髪が印象的な魔術師が近くにいると、ディートハルトは不機嫌になるような気がする。


 魔術師は何か話があるようなそぶりをしたものの、ディートハルトに「ちょっと外で待ってろ」と退室を求められ、一旦廊下に下がった。


「彼は何か用事があるのでは? 私は兄上にご挨拶ができましたし、もう行きますよ」

「あ、ちょっと待って」


 フェリクスが出て行こうとするのを引き止め、ディートハルトは内ポケットをごそごそ探って何かを取り出した。


 小さな青い鱗だ。


「ユリアンへのおみやげですね」

「お前、ちょっとこれなでて」

「なでる? なぜですか?」

「いいから。おまじない」

「おまじない? どこか地方の風習ですか?」

「違うけど。まあいいから、なでて」

「はい」


 よくわからないままに、フェリクスはつるつると鱗をなでた。


「タラスクスの鱗は魔法防御の力があるそうですね。近年魔力が危険な魔物が増加傾向にあって、価格が高騰しているようですね」

「そうだな。一枚だけじゃ魔法防御には気休め程度にしかならないけどな」

「きっと兄上の思いがユリアンを守ります」

「だといいな」


 フェリクスの言葉に、ディートハルトはふわっと笑った。そして「お前もなでたしな」と付け加えた。


 こうやって、ちょっとしたことで兄は不甲斐ない自分をいつも立ててくれる。フェリクスは小さいころからディートハルトが大好きで、行方不明になったときは毎日城の礼拝堂で無事を祈ったものだった。


 大地の精霊が願いを叶えてくれて、兄は無事に帰ってきた。


 自分はこの兄を補佐してハルツェンバイン国を守り盛り立てることが、持って生まれた使命なのだ。フェリクスは常々そう思っている。


 王位を継ぐ兄の伴侶は、大いなる力を持つ聖女アンネリーゼ。



 そして兄を補佐する自分の伴侶は――。



 黒髪の少女のけなげな笑顔がまたしてもちらつく。


 フェリクスは軽く頭を振って、フローラの面影を追い払った。王家の男の伴侶は、聖女であることが望まれる。


 フェリクスは周囲の期待を裏切ったことがなかった。



 これからも裏切るつもりはない。




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