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1・死んだ母さんは変な魔法使いだったらしい

 

 ミアがアジトの裏庭で花を摘んでいると、討伐隊リーダーのガウが「新入りが来たぜ」と声をかけてきた。


 ふりかえると、整った顔立ちの少年がガウの後ろに立っている。美形でありつつ野性味もあって、村のお姉さんたちが見たらきゃーきゃー言いそうだ。十五歳くらいだろうか。爺さんのガウと比べたら申し訳ないようなぴかぴかの若者。お肌も褐色の髪もつやつやと輝いている。栄養状態だってよさそうだ。


 辺境の魔物討伐隊なんぞに若くして入る人にありがちなワルぶった様子もなく、ミアは一目で彼を気に入った。


 ミアが少年を見上げながら立ち上がる。ミアはまだ十歳なので、立ち上がっても少年をはるか上に見上げるかんじだ。背が高いなぁと思った。


「ディーだよ。よろしく」

 はにかみながら少年が言う。かわいい。

「ミアだよ」

「ガウさんのパーティーに入るには、ミアのお母さんにまず挨拶だって言われて」


「母さんならあそこ」

 ミアは人間ほどの大きさの石を指さした。


「えっ……。墓石?」

「母さんは十年前に死にました。わたしが赤ちゃんのころだよ」

「そうだったのか……。ガウさんが、うちのお頭が裏にいるって言うから」

「ウチのお頭って。死んでるのに」


 ミアがあきれてガウを見やると、ガウは「うちはモニカがお頭なんだよ」とぶっきらぼうに答えた。


「なんで自分の娘くらいの死んだ女のこと、いつまでもお頭って言うのかわかんないんだけど。パーティーのリーダーはガウだから。そこんとこよろしくね、ディー」

「うん」

「じゃあちょうど花束つくったから、これ母さんに供えてあげて」

「うん。わかった」


 ディーは薔薇に野の花を合わせた花束を受け取ると、片膝をついてうやうやしく墓石に供えた。

 うつむく横顔にも祈りを捧げる所作にもどこか品のようなものがある。王都の人ってこんなかんじかなぁとミアは思った。


(でも王都の人だったら、普通こんなド田舎で魔物討伐稼業しないよねぇ。いわゆるワケアリってやつ?)




 ミアの母親モニカは、特殊な魔法使いだったらしい。そして民間魔物討伐隊を率いていた。


 「民間魔物討伐隊」というのは王都中央の格式ばった言い方で、一般庶民には「冒険者パーティー」と言われる。魔物を狩って皮だの角だのをとったり、魔物が跋扈するエリアに入ってめずらしい植物や鉱物をとったりなどして生計を立てている辺境民だ。宮廷や領主に属している魔物討伐隊は選抜もあってエリート揃いらしいが、民間は誰でもなれるため、レベルはピンキリ。


 実力者と名高いらしいガウがお頭と呼んで従っていたのだから、モニカは相当強かったのだろう。


 ミアが赤ん坊のころ死んでしまったので、ミアに母の記憶はない。


 「母さんは特殊な魔法使いだったって言うけど、どんな魔法使い?」とミアが尋ねても、ガウや仲間たちはあまり歯切れよく答えてくれない。


 「ワケアリ」だそうである。


 冒険者パーティーに入る人間にはワケアリがよくいる。借金や人間関係のこじれや取り返しのつかないやらかしから逃げて辺境にやってきた人が少なくないので、「ワケアリ」と言われたらそれ以上追及しないのが暗黙のルールである。


 モニカの魔力は大っぴらにしたら面倒があるのかもしれない。


 たとえば、その魔力を用いて悪いことをしたことがあるとか? そして処罰から逃げてきたとか? 魔力の種類がバレたらそこから足がつくとか?


 ――などと考えるとこわくて追及できない。


 ミアとしては、自分も母と同じ魔力が発現するかもしれないのだから、知っておきたいところではある。そうガウに言ったら、「ミアに魔力発現の予兆があったら教える」と言われた。



「わたし特殊な魔法使いかもしれないんだよー」

 一緒に食事の下ごしらえなどしつつ、ミアは新入りのディーに自慢する。


「ふーん、めずらしい複合型とかかな? 魔力の発現は遅くとも十五歳って言うよね。ミアも出るとしたらもうじきかもね」


 ディーはじゃがいもの皮と格闘している。調理経験はないっぽい。身ごと削がれた皮が調理台に重そうな音を立ててぼとぼと落ちる。


「分厚い! もったいない」

「すみません……」

「ディー、実はいいとこのおぼっちゃんでしょ。うちのパーティー、そういう人もたまに来るからわかっちゃう」

「う」

「スキルは高いんだけど魔物狩りの経験が少ない人、レベルが判断できないからギルドがうちに紹介してくるの。ガウは爺さんだから今はゆるい仕事しかしないけど、母さんと組んでたころまではかなりぶっ飛ばしてたらしくてね、等級の高いレアな魔物ガツガツ狩ってたんだって。経験豊富だから冒険者ランクの見極めも上手いの」

「俺は値踏みのためにここを紹介されたのか……」

「たぶんそうだよ。ザコから手ごわいのまでガウにいっぱい狩らされるよ」

「それは願ったりです」

「わたしも先輩としてきちっと指導入れるからさ」

「よろしくお願いします、先輩」

「ディーは素直な子だね~。皮むきももっと薄くする努力しようね」

「はいー」



 家事や武器防具の手入れなどに関してミアは先輩だったが、ガウが「ディー、ミアに読み書き教えてやってくれ」と言ってからは生徒の立場に落ちてしまい、残念ながらミアがディーに先輩ヅラできたのは一瞬だった。





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