おう と おうじ
はじまりの出会いは、定められた無意識のうちに。
愛しの街を出発してから、かれこれ数週間が経過した。ある時は森で狩りをしながら、またある時は他の街で過ごしたりなど、色々なことをしてきた。しかし終着点である『新天地』は、その気配さえ感じない。しかしこの世に生を受けて実に四十余年。このような旅は初めてのことである。本来の目的は、新天地に至るための旅。いつかは終わらせなければならない長き旅。しかしその旅を、何処か楽しんでいる自分がいるのも確かだった。だがそんな中でも、時折考えることがある。何故あの大国は私の国を襲ったのだろうか。あの国は広く、豊かな領土を持っている。人口も多いとはいえ、民が住むには十分すぎるほどの広さである。これ以上、侵略を続ける理由などあるのだろうか。……考えても仕方のないことほど、気になるのが人間というものなのかもしれない。
そんなことを時折考えながら、私は旅を続けていた。そうしてひと月かふた月か。孤独な旅の途中で、私は同じ旅人たちと出会うことになった。青年と形容するにふさわしい、しかしその若さに見合わない『何か』を感じさせる若い男。そしてその男に付き従う者たち。そのすべてが、老若男女問わずその目に暗い何かを宿していた。しかし彼らは一様に生気のない足取りで、まるであてもなく彷徨っているように感じた。どうにも放っておけず、私は彼らに事情を聴いてみることにした。
彼らは、ある滅びた王国の王子と民たちであると名乗った。私と同じように、大国に侵略され、暴虐の限りを尽くされたとのことだった。ただ彼らは、ある程度の民と共に逃げおおせることが出来ていた。その点では、私よりもよっぽど運がいいと言えるだろう。だがここにいる彼ら全員が、耐え難い苦痛の如き恨みを抱えていることは想像に難くない。そして、彼らは大国への復讐心をその心に秘めながらも、何をすることもできないこの現状に、次第に旅の意味と生きる意味を失いつつあった。実際に、生きることを放棄して自ら死を選んだ民もいたという。……なんと、むごたらしいことか。
私は王子に手を差し伸べる。復讐心を否定はしない。それが生きる糧となるのなら、それを絶やさずにいるのもいいだろう。しかし、それでは民たちもいずれ絶えてしまう。私と共に、新天地を目指してみないか? 私のこの言葉。元より1人での旅を続けてきた私は、心のどこかで仲間を求めていたのかもしれない。確かに彼らを想ってのことではあったが、もう半分は私の孤独を、失った何かを埋めるための誘い。つまりは、私の勝手であった。
王子は戸惑っていた。それもそうだ。出会って間もない謎の男に、道を共にするよう提案されたのだ。しかし戸惑う彼をよそに、一部の民たちの顔には安堵が宿っていた。それは少しづつ伝播していき、やがては1人の少女を除くすべての民が私のことを見ていた。少女は王子に進言する。兄さま、私たちの目的を忘れないでください。そう言われても、王子の顔から戸惑いは消えなかった。そこで彼は後ろを振り向く。そこにあるのは期待に満ち溢れた民たちの顔。それを見た王子は少し間を置いた後で向き直ると、私の差し出した手を取った。
多人数での旅とはどうにも慣れないものだ。考えなければならないことも、やらなければならないことも増えている。だが、こういうのも悪くはないと思っている自分がいるのも確かだった。民たちが抱いたように、私もどこか安心していた。希望と共に、私『たち』は旅を続けるのだった。
第三話でした。王と王子の出会いと共に、旅は少し活気を持ちます。