彼の心の中(死亡)
◯他作者
この物語は、非常でおかしいノートを書き写したモノです。なので、筆者が描いたモノではありません。筆者ではなく他筆者でしょうか。題名にはノートの表紙に書かれていた『彼の心の中(死亡)』を一言一句変えずにつけました。
◯おはよう
靴の擦り減る音と頭の激痛によって目覚めた私は、いつもとは違う雰囲気に戸惑いながらも、とっさに辺りを見渡した。寝起きで視界が朦朧としながらも、私の視界は、ブラック社(私の勤めている会社)を、しっかりと捉えた。そして、私は酷く戸惑った。なぜならば昨日、ブラック社の屋上から飛び降りたはずの私が、生きているからである。おまけに無傷なのだ。いきなりの事態に頭が混乱したが、まずはスマートフォンで時間を確認することにした。そこには、五時と表示されており、出勤一時間前に起きれたことに、私は心から安堵した。しかし、このときの私はいきなりの事態に背筋が凍りかけていたが、ブラック社の方が怖い私にとって遅刻しないことの方が大事であった。そんな私には、家に帰り、支度を済ませ、ブラック社に出勤することしか出来なかった。
家に走り帰りながら思う。正直出勤したくない。昨日、終わりにしようとした私にとって、ブラック社への出勤は苦痛でしかないし、普通に行きたくない。しかし、人通りのある時間に飛び降りるわけにはいかないので、ブラック社に出勤し、真夜中に実行するしかないのだ。今日の予定を確認するためにスマートフォンを出し、今日の日付と曜日を確認した。すると、さっきとは比べものにならないほどの安堵が私にもたらされた。今日は、日曜日だったのだ。ブラック社が、毎週休みにしている曜日である。笑みと涙が同時に溢れた。
◯お風呂
歩いて家に帰ってきた私は、風呂場に向かった。体を洗いながら、今日起こった異常事態について考えた。まずは、昨日の状況の整理からである。「私はブラック社の屋上から飛び降りた。その高さは飛び降りをするのに確実にあの世に行くことのできる十一階を越える十三階である。飛び降りた先はコンクリートになっており、その場所にはクッションになるようなものはない。言い換えればコンクリートしかない。そして、その日の天気は異常気象などもなく、会話の話題に上がることのないような天気であった。それら全てのことをふまえて私は飛び降りた。私の考えからいくと奇跡が起こる確率は、ゼロパーセントだ。」それもそのはず、私は飛び降りを成功させるために三ヶ月かけて計画を立てるのはもちろんのこと、検証だって沢山した。「一時半から二時が最も人が来ない、家から会社までは歩いて二十四分、外階段を使って屋上に行くには二分二十秒、屋上の鍵をピッキングするのに一分、睡眠薬は三十分五十秒で効く、地面に落ちるまでに二秒五十二。」落ちるまで何秒かかるかは、さすがに検証はできないので、数学が苦手な私は親友に計算してもらった。
◯良くない友達
こんな私にも友達がいて、名前は個人情報だから書かない。ので、【奏多】と書こう。奏多は今思いついた名であるので特に意味はない。【奏多】と書かれた男は私の親友であり、幼なじみであり、そして唯一の友である。小学校から中学校までは同じ学校であったが、高校は圧倒的な偏差値の差により、私の入学した、名前を書くだけで受かるような高校に対し、奏多は偏差値が六十五ほどの高校に入学した。高校は違くなったものの交流は続いており、今でも仲良しなのである。こんな私と友達を続けてくれる奏多は優しい。その優しさにつけ込んで私は「飛び降りを手伝って欲しい」と、奏多に頼んでしまった。「奏多は優しい」ので私の飛び降りの計画を二つ返事で手伝ってくれたのだが、私自身飛び降りに対して不安を抱いているからと言って、奏多に手伝わせてしまったことは少し後悔している。そんな私の気持ちとは裏腹に、奏多はほぼ全ての計画を立ててくれたのだ。ここまでしてもらったにも関わらず、飛び降りは失敗に終わってしまった。私は本当に何も成功できない人間だと再認識させられた。
◯無駄
そんなことを考えているうちに、時間はどんどん過ぎていく。明日を成功させるため、何がいけなかったのかを考えなければいけないのに、分からなすぎて話が脱線してしまう。考えが他のものに脱線しないようにしながら、私のポンコツ頭で頑張って考えたが、考えても考えてもゼロパーセントからは抜け出すことができない。挙げ句の果てにはこの世ではありえないようなことを考えてしまった。
私の考えが変な方向にいってしまうので、気持ちを切り替えるために風呂から上がり、ゆっくりしながら、その時のことを頭の中で再現した。―――私は仕事が終わり一旦家に帰った。家では風呂に入り、飛び降りた瞬間に眠れるように睡眠薬を飲んだ(痛みが怖いため)。それから、計画通りの時間にブラック社に着くように家を出た。何度もブラック社に出勤しているため、計画した時間通りに行くことができた。その時はハイになっていたのもあり、ブラック社に出勤してて良かったと初めて思うことができた。そのようなことを思いながら計画した通りに体を動かす。落ちたところに人が来たら大変なので、スマートフォンの画面の明るさを最大にして周りに人影がいないことを確認した。音もしなかった。しっかりと確認したあとに外階段から屋上に向かった。その日はいつもより身体が軽く、素早く行動することができたので、計画した時間より一分ほど早く着いてしまった。飛び降りた瞬間の記憶はあるが、睡眠薬のおかげで意識がなくなり、「落ちてる間と落ちた瞬間の記憶はなかった。」これが、私が飛び降りた時の記憶である。特に不審な点はなく、この時間も無駄になってしまった。
◯気づくのが遅い
私の中で結論はもう出てしまった。私にはこの不思議を解くことができないと言う結論だ。結構な時間考えているにも関わらず、まともな案が一つも出てこないのだ。私の中から出てきた案は全てギャグ漫画のようなことばかりである。「そんな奴からまともな考えが出るとは思えない。」私自身が私に言ったはずなのになぜか心が痛んだ。「また無駄な時間を過ごしてしまった。」
飛び降りた私がなぜ無事だったかを考えても無駄な時間が過ぎるだけであり、明日の成功に繋がることはない。ならば、私ができることはただ一つ。第一回飛び降り計画とは違う動きをすることである。飛び降りないとか、計画を変えるとか、そういう大きなとこを変えるのではなく。トイレに行く回数を変えたりするのだ。何もしないよりはましだろう。とりあえず時間も沢山あることだし、睡眠時間を二時間から七時間にすることにした。早速寝よう。まだ午前中ではあるが、外で寝ていたので疲れは溜まっている。私は睡眠薬を呑んでから布団に入った。勘違いされそうだから言っておくが、先程から私は【睡眠薬】を呑んでいる。だからといって不正行為で入手したものではない。私の不眠症のために病院から出されたのである。ブラック社からのストレスのおかげで睡眠薬を手に入れることができたので、「ブラック社にも良いとこがあるではないか。」――――私は疲れているな。そもそも飛び降りの一番の理由はブラック社であると言うのに褒めてどうするのだ。そのようなことを考えながら寝る準備を終わらせて、布団に入った。
◯暇人
布団に入ったからと言ってもすぐに眠れるわけではない。寝付くまでは暇なので脳を休めたくても勝手に働いてしまう。意外とこう言うときに良い案が出るもので、私の頭の中にはすでに案が出てきていた。「奏多に聞けばいいではないか」案である。予想外の出来事に頭が混乱していて、一番の近道を見失っていた。灯台もと暗しというわけだ。ことわざまで出てくる今の私は絶好調である。奏多が計画を立てたのだから奏多に聞けば良かったのだ。なぜ気付かなかったのかと私は笑った。とりあえず寝てから奏多に連絡することにした。――――いやいや待て待て、笑っている場会ではない。私は奏多に計画の手伝いをさせてしまったことに対して後悔しているではないか。このままではまた同じような後悔を作ってしまう。気づくことができてよかった。やはり、今の私は少し調子が良いようだ。
◯私メモ
今回は後悔を作る前に気づくことができたが、私は失敗からは何も学ばず、息をするように同じ失敗を繰り返してしまう人間である。
私は昔から何度も後悔をしてきた。だから、私は私なりにたくさんの工夫をしてきた。一番頑張っているモノを挙げるとすれば【私メモ】である。このメモに自分が考えたことや、言ったことを書き出している。こうすることで私自身の考えや、発言を客観的に見ることができるという作戦である。書く暇が有れば書いている。今も暇なので、先ほどからずっと【私メモ】に書き込んでいる。こういう時に【私メモ】は昔から今に至るまでずっと書いてきた。しかし、今も昔も後悔の仕方は変わらないままである。
周りから見たら私が後悔を作っていることは簡単に分かるが、私は息をするように後悔を作るので、「怒られたって、笑われたって、私には理解できない」ことが多い。だから、私は人間が嫌いになる。それを私は繰り返し続けてしまっている。私が私自身を理解してるかのように言っているが本当は分からない。最近少しずつだが、分かるようになってきたばかりなので、今言ったことも全て両親からの受け売りである。私自身の言葉で言える日はとうとう来なかった。
◯睡眠
睡眠薬が効くまでに三十分ほどかかるので眠りにつくまでには意外と時間がある。その間に、たくさんの考えが私の脳で駆け巡った。もちろんくだらない考えである。その中で一つだけ他の考えとは身嗜みが違う考えが通った。私は急いで布団から出て、急いで身嗜みの考えをつかまえた。その考えは、奏多が私に考えてくれた作戦で、飛び降りた私が人にぶつかる可能性についてであった。私は飛び降りた時に人にぶつかりたくはなかったので、人がいないかを確認する機会を奏多に設けさせてもらった。勝手に大丈夫だと思っていたが、それは思い込みであった。なぜなら、奏多の作戦だと人が周りにいないかを確認するのは屋上に行く前なので、その間(三分間ほど)に人が通る可能性は十分にある。しかも、第一回の飛び降りの時、私は一分ほど早く着いてしまっていた。ということは、確認してから四分ほどの間があったことになる。人が通るということは、私が人とぶつかる可能性があるということである。言い換えれば、「人がクッションとなって私が助かる可能性がある。」と言い換えることができる。と、思ったが違和感があるのだ。次はその違和感を探すために私はまた考え込んだ。が睡眠薬が効いてきたのか意識が朦朧としてきた。それに伴い、面倒臭いが着いてきてしまった。それからは考えが頭の中を流れていった。「どうせ明日も飛び降りるし、多分たまたま助かったってことでいいや」という奇跡ありきの結論に私はすぐに納得し、そこから意識がなくなるのは数秒もかからなかった。
◯嬉しい
私は何にも起こされずに自然に目覚めた。少しゴロゴロしてから、ゆっくりとスマホを覗くとそこには大量の通知が表示されていた。私は恐る恐るスマホを手に取るとそこにはブラック社からの大量の電話と一通のメールが入っていた。メールの送り主は、私と連絡をとれる唯一の女性(母親は除く)からである。この女性は私の危機を救った方である。私が三日も失くしていた鍵を見つけてくれたのだ。その上、よく私の話を聞いてくれる良い人である。しかし、お話も会社だけで、メールは初めてだ。少々緊張する。そして、緊張からか彼女のことを少し思い出した。彼女は、変わった二次創作小説を私のために書いているらしい。完成したら、読むこと。それが、鍵を拾ってくれた彼女へのお礼であった。しかし、なかなかなかなか完成しないので、忘れていた。今気づいたが、彼女なりの優しさだったのかもしれない。ここにきて、またやってしまっていることに気づけた。「申し訳ない。」
◯機械音痴
彼女のメールへの緊張を落ち着けたところで、満を持してメールを開いてみると、そこには私の予想とは反する内容が打たれていた。その内容は私が遅刻をしているというものであった。メール内容の反が大きすぎる恐ろしさで、私の身体は支配されてしまった。「ゴン」という鈍い音が鳴る。気づくと私は、スマホを床に投げてしまっていた。音と共に、我に帰った私は、壊れてないことを願い、そっとスマホを拾う。所々ヒビは、はいっているものの、スマホは無事であり、私は安心した。壊れてしまっていたら、予定も確認できないし、私は携帯のパスワードも設定できないほど機械音痴なので、壊れられても困ってしまう。
仕切り直して予定表を確認すると、私の記憶にはないたくさんの予定が入っていた。そこには、今日だけならまだしも、来週の日曜日にも予定が入っていた。さら追い討ちをかけるように、一ヶ月前の予定表には、休みが一日もなかった。頭は混乱しながらも、身体はいつもの手際で出勤の支度を済ませる。そして、玄関のドアノブに手をかけながらスマホを取り出し、時間を確認する。が、スマホの画面には、二十二時と表示されており、いつも私が帰る時刻であった。私は、このとき背筋が凍りついたが、同時に暖かくもあった。私はこの初めての感覚をもう少し、感じていたかったが、「そろそろブラック社の屋上にいかなければならない。」ほんの少し動きたくなかった。しかし、そこに輝かしい未来はない。と見切りをつけ、私は深夜を歩いた。ブラック社の屋上から第二回飛び降り計画を成功した。
◯わたしだけのモノ
どうせ飛び降りるのなら、私自身の中身をすっきりさせたかったので【私メモ】に記す。
私がブラック社を辞めれない理由は、私にある。学歴社会であるこの日本で私の学歴は下の下であった。そのため私は、就職をしたくても就職ができない状態であった。そんな時にブラック社は、私を雇った。就職が初めてなのと、就職できた嬉しさにより、私はブラック社に提出する書類が、労働基準法に違反しているとも知らずに提出してしまった。気づいた時にはもう遅く、私にとってブラック社は怖いものとなっていた。私はブラック社が怖いという思いと、親には迷惑をかけたくはないという思いから退職はできなかった。
まだ、責任転嫁をしている。
私は昔から。真面目に生きずに、将来というものを考えてはいなかった。だから、生きるために必要な努力をしなかった。それは今だって変わっていない。迷惑をかけたくないと思える親がいて、努力しなかった過去に気づけた。努力のできる環境に置かれていたのだ。しかし、自分の人生から目を逸らし、言い訳で自分を納得させている。その結果、未だに努力のできない人間として存在している。その証拠に努力することではなく、あの世へ行くことを選んだ。今だって、あの世に行く方が正しいと思ってしまっている。
「行動が終わってから言うことは卑怯だと知っていますが、ごめんなさい。」
作品をお読みくださりありがとうございます。