第一部-3 少女
水上バスは白かった。
少し傾きかけた日の光を浴びてキラキラと輝いていた。
だが、決してきれいとは言い難かった。
バスの下側は黒っぽく塩が吹いていて、少し塗装がはげて緑色の下地が剝き出しになっていた。
バスの窓からは第三島の出身の子供達の何人かが興味深くエリたちを見つめている。
バスが停留所に着いたときには、おいらが先だから、いや俺が先だから、と何人かの男子が誰がバスに一番乗りするかで揉めていた。
バスの扉が開いて我先にと、誰よりも早く飛び乗ったのは、短い茶髪の少年だった。
「おいらが一番乗り!!」
高い声でそう叫んでいた。
「アタシたちも乗ろうか」
そう言ってエリは女の子とバスに乗り込んだ。
「乗車券は?」
中年の運転手さんは気だるそうに言った。
二人はバックの中から乗車券を取り出し、運転手さんに渡した。
「奥の方の座席が空いてるよ」
そう運転手さんに言われて二人は広いバスの中を見回した。
確かに、前方の席はすでに埋まっていたが、後ろの方はまだらに空いている。
席と席の間の細い通路を、重いバックを抱えて二人は歩く。
バスの中は騒がしかった。
何人かの男の子はお菓子の奪い合いをして、他の子達はおしゃべりに花を咲かせていた。
中には寝ている子もいたけれど。
茶髪の男の子のそばを通り過ぎるとき、その男の子の大きな声が聞こえた。
「あのエリっていうやつ、出しゃばりなんだぜ」
何人かの男の子が笑う声が聞こえた。
「ビキ、なんか文句でもある?」
エリは怒って言った。
エリにビキと呼ばれた少年は憎たらしく、
「な~んにも」
と大きな声で答えた。
エリは何か言い返そうとしたが、いつの間にか辺りがしんと静まり返って、周りの視線がエリに注がれているのに気付き、口をつぐんだ。
エリは悔しかった。
「行こう」
エリはそう言ってビキを睨んでから、二人は人目を避けるように奥の方の右側の座席に座った。
そして、
「よいこらせっ」
とバックを持ち上げ、頭の上にある荷物入れに押し込んだ。
エリは柔らかいクッションに身を沈ませて、少しめくれた壁紙を睨んだ。