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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第九六話「信仰ってそういうものなんですか?」

 翌日(よくじつ)、朝早くにミスティさん、サマエルさんと一緒(いっしょ)に家を出てシュパン村へと向かう。春もそろそろ本格的(ほんかくてき)になってきて、こんな時間でも(あたた)かな風が心地良(ここちよ)い。


 シャムシエルは一人、「私は遠慮(えんりょ)する」と言って私たちより先に出て行ってしまった。本当に何があったのやら……。


長閑(のどか)な場所ですね」

「はい、良い所ですよ。最近は色々と技術革新(かくしん)がありまして、畑でも良い物が()れるようになり(ゆた)かになってきております。安定したら、肥沃(ひよく)なシュターミッツ州を(ふく)め各地へ技術を(つた)える事が出来るでしょう」

「それは素晴(すば)らしいですね。人々に余裕(よゆう)が出来れば、心も豊かになりましょう」


 道すがらミスティさんに村や周辺環境(かんきょう)の説明をしておく。(おそ)らくこのシスターは村に滞在(たいざい)することになるだろうし、その(あた)りはちゃんと教えておかないとね。


 ちなみに技術革新の発信元は勿論(もちろん)豊穣(ほうじょう)の女神様だったシャラだ。今は(おか)の上に()えている()()み着く精霊になってしまっているけれど、今も変わらず農作(のうさく)に関して人々の質問に答えてくれている。根本(こんぽん)は今も優しい女神様だよね。


「ミスティちゃんはさー、村に()まるお金は持ってるの? (しばら)く滞在出来(でき)るん?」

「はい、一応路銀(ろぎん)はそれなりに持っております。寄付(きふ)(つの)るつもりですが、そちらは教会を建てる方へ回したく思いますので、普段は酒場などで働こうかと思っております」


 うーむ、酒場で働くシスターか。いいのかそれは。まぁ、先立(さきだ)つものが無ければ何も出来ないだろうしねぇ。


「ミスティさんの信念(しんねん)を感じますね。そこまで献身的(けんしんてき)になれるというのは尊敬(そんけい)いたします」

「でしたらリーファ様も、教会を建てることにご尽力(じんりょく)(いただ)けますでしょうか?」

「……わたくしは、根本が魔術師ですので……」


 うーん、価値観(かちかん)(ちが)うんだよなぁ。ミスティさんは教会……というか神様第一なのだろうけれども、私は魔術師なので知識(ちしき)真理(しんり)を追い求めることを第一としている。だからその(けん)については平行線にならざるを()ないのですよ。


 そんな会話をしながら歩き続け、私たちはシュパン村に到着(とうちゃく)した。まずは別の建物で(かり)運営している教会への挨拶(あいさつ)に向かう。




「シスターミスティ、ですか。ようこそ遠路(えんろ)はるばるいらっしゃいました。私はこの仮教会で神父(しんぷ)(つと)めておりますデニスと申します」

「はい、よろしくお願いいたします、デニス神父」


 (せま)木造(もくぞう)建物の中に、燭台(しょくだい)()いて祭壇(さいだん)見立(みた)てた簡素(かんそ)なテーブルがあるだけの仮教会を(おとず)れ、私たちはデニス神父にミスティさんを紹介(しょうかい)していた。


「リーファ、サマエルも案内ご苦労(くろう)だったね。シスターを泊めてくれて感謝(かんしゃ)しているとアナスタシアに(つた)えてくれるかな」

「はい、分かりました」

「りょーかーい、デニスのおっちゃん」


 もう六〇代のデニス神父は、(しわ)の多い顔に(おだ)やかな笑みを()かべて私たちを(ねぎら)ってくれた。相変(あいか)わらずこの人の言葉は(あたた)かみを感じるね。このお方はシュパン村の多くの人にとって、いつも見守ってきてくれた父親みたいなものだし。


「して、これからシスターミスティは寄付を募るため活動するとの事だが、村民(そんみん)も日々の生活がある。あまり無理はさせたくないことを分かってくれ」


 デニス神父もサマエルさんと同じことを言ってくれた。神に(つか)えるお方だけれども、基本優しい人だ。日々の生活を(おびや)かしてまで教会を建てようとすることにはやはり反対らしい。


「そうですね……。それでもここに教会を建てるべくわたくしは尽力したいのです。何年()かるかは分かりませんが、この村の信仰(しんこう)(ため)されることでもあると思っております」


 信仰が試される、か。


 教会が無ければ信仰は無いのだろうか? そんな事は無い(はず)だ。


 でもこのシスターは、それよりも強い、もっと分かりやすい信仰を求めているんだろうなぁ。


 そんな感じで私がもやもやしたもの感じていると、外でガチャガチャと金属(きんぞく)音が鳴った。この聞き()れた音はシャムシエルの(よろい)


「リーファは居るか!」

「シャムシエル? どうかしたのですか、そのように(あわ)てて」


 急いで飛んで来たのだろう。シャムシエルは息切(いきき)らせた様子だった。青ざめた顔と言い、何かあったに(ちが)いない。


「ここから西の山に、巨人の()れが(せま)っている!」

「……は? 巨人の群れ?」


 そんな所に巨人の集落(しゅうらく)なんて無い筈だ。夢でも見ているのか、この天使は?


 でもこの生真面目(きまじめ)な天使がそんな馬鹿げた(うそ)()く筈が無い。あくまで真剣(しんけん)なのは分かっている。恐らく本当の事なんだろう。


 私とサマエルさんは、疑念(ぎねん)(むね)にシャムシエルの案内で急ぎその現場へと向かったのだった。


◆ひとこと


魔術師とは真理を追い求める性質を持っています。

リーファちゃんのように神術へ興味を示すこともあるのですが、信仰ではありません。

彼女たちの価値観はいつまでも平行線なのです。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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