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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第九五話「信仰が大事ということは分かるんですけどね」

「じゃあミスティさんは、シュパン村への布教(ふきょう)のためにバーレの町から来た、ということ?」


「はい、そうです、アナスタシア様。わたくしは普段(ふだん)宣教(せんきょう)のために活動をしております。シュパン村には教会が無いと聞き、非常に悲しい気持ちになりまして……」


 私、母さん、シャムシエル、サマエルさんの四人は、リビングでミスティさんのお話を(うかが)っていた。アンナも居るけど、シスターの服が(めずら)しいのか一人ミスティさんをモデルにお絵()きをしている。なんともマイペースな子だ。


 バーレの町というのはシュターミッツ州の東側、つまりシュパン村とは山を(はさ)んで東西の反対側にある町だ。このシスターはそんな所から一人(けわ)しい山越(やまご)えをしてきたのか。


「そうねぇ、シュパン村からはベンカーの町が近いですから、数年前の火事で全焼(ぜんしょう)した時も、特にお金を出して教会を建てようという動きにはならなかったみたいですよ。でも、熱心(ねっしん)なカナン教信者も多く居ますし、別の建物できちんと活動はされています」

「それでも! 教会は人々の()(どころ)になります。村に無いというのは、(さび)しいことです……」


 そうだねぇ。小さな村でも大抵(たいてい)教会はある。でもシュパン村には無いのだ。


 それは母さんの言った通り、数年前に火事で全焼した所為(せい)である。(さいわ)人的(じんてき)被害(ひがい)(まぬが)れたのだけれども、再建(さいけん)にはお金が()かる。今も(わず)かずつではあるが再建のために寄付(きふ)(つの)ってはいるけれども、未だ目途(めど)は立っていない。


「そうは言うけどさー、だったらシスターがお金出して建ててくれるの? みんな日々の生活があるんだからさ。建物が無いだけでちゃんと教会の活動はしてるんだからいいじゃん。まぁアタシは悪魔なんでどーでもいいことだけど」


 うわ、流石(さすが)サマエルさん。言い(づら)いことをぶっ込むなぁ。まぁでも、彼女の言う通りだよね。(たと)え建物が無いからと言ってもきちんと活動はしているのだ。外野(がいや)()(かく)言うことでないのも確かだ。


 と、ミスティさんは驚愕(きょうがく)の表情でサマエルさんを見つめた。あれ、悪魔だって説明してなかったの?


「サマエル……まさか、元御前(ごぜん)の天使の、堕天使(だてんし)サマエルですか!?」

「たぶんそのサマエルだよん」


 いえーい、とピースをするサマエルさん。神に(つか)えるシスター相手でもこの調子である。


「神を(おそ)れ、このような所に(かく)れ住んでいたのですね……」

「いや別に神を恐れてる(わけ)じゃ無いし隠れ住んでる訳でも無いけど。そこに能天使(パワーズ)も居れば聖女も居るし」


 あ、私が聖女だってバラしたよこの悪魔。まぁ良いけど、私の居場所はトップシークレットだから、ミスティさんに口止(くちど)めしておかないとなぁ。


「聖女……ですか?」

「はい、一応わたくしは国の聖女として(みと)められております」


 私はにっこりと聖女スマイルで返す。ぽかんと口を開けていたミスティさんだったけど、何か気づいたように(うなず)いた。


「聖女リーファ……、なるほど、『(けもの)』を(ほろ)ぼした聖女ですね」

「滅ぼしたのではありません、神の御許(みもと)へ送ったのです」


 これを一々(いちいち)訂正(ていせい)するのも面倒(めんどう)だけれど、『獣』の尊厳(そんげん)のためにもきちんと説明しておく。彼は(あわ)れな一匹の仔羊(こひつじ)だったのだ。


「それならばなおのこと、村には教会を建てるべきではありませんか? 聖女が居るとなれば、人々の信仰(しんこう)(あつ)くなりましょう」


 む、最初の話に(もど)ってしまった。まぁその話は分からないでもないんだけど、生憎(あいにく)とねぇ……。


「わたくしは聖女と認められてはおりますが、根本(こんぽん)は魔術師です。心の(そこ)から神に仕えていないというのに教会の活動をするなどとは、逆に失礼に当たると思います」

「……そうなのですね」


 聖女でありながら心の底から神を信仰していないという私の言葉がショックだったのだろうか、ミスティさんは(つら)そうな表情で(うつむ)いてしまった。でも仕方ないじゃない、本当のことなんだから。


「ミスティさん、取り()えずシュパン村に向かうのは明日にして、今日はうちに()まっていってくださいな? お(なか)()いているでしょうし、すぐにお食事もお出ししますね」

「ありがとうございます。皆様(みなさま)と、神に感謝(かんしゃ)を」


 母さんがいそいそとキッチンへ向かうのを後目(しりめ)に、ミスティさんは手を組み、目を閉じて私たちと神への感謝の気持ちを(しめ)した。


 結局(けっきょく)お話を伺っている間、シャムシエルは一言(ひとこと)(はっ)さなかった。


◆ひとこと


教会に限らず、日本でも寺社などは地域の拠り所として頼られてきました。

それはこの世界でも変わらない姿のようです。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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