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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第九四話「やって来たのは謎のシスター」

 夕食時、私はケビンから聞いた情報を母さんとサマエルさん、シャムシエルに話していた。アンナも聞きながら真剣(しんけん)な顔でうんうん(うなず)いているけれど、絶対理解(りかい)してない。かわいい。


「なるほどねぇ、ナビールがねぇ……」


 母さんはお肉を(かじ)りながら、うーんと考え込む。母さんも名の知れた魔術師だけど、軍属(ぐんぞく)では無いので戦争要員(よういん)では無い。でも私と同様、戦争となると色々と面倒(めんどう)だなと思っているに(ちが)いない。


「戦争ねぇ。相変(あいか)わらず人の子というのは(おろ)かだねぇ」

「そうは言うけどねサマエルさん、実際に()えている人たちにしてみれば、もう他に手段(しゅだん)が無いんじゃないかなぁ」

(たみ)を飢えさせるくらいなら、頭を下げて属国(ぞっこく)になるくらいすりゃいいのよ」


 おおっと、なかなか(むずか)しいことを(おっしゃ)るぞこの悪魔。でも多分真理(しんり)なのだろうなぁ。既得(きとく)権益(けんえき)(すが)り付いている人たちが反対するだけで、飢えている国民からしてみれば、助けてくれるなら他の国の民になってもいいと考えるだろう。


「それで、そのナビールという国は手強(てごわ)い国なのか?」

「そっか、シャムシエルの居た時代にはまだ影も形も無い国か。えっと、向こうには翼竜(ワイバーン)に乗った騎士、所謂(いわゆる)竜騎士(りゅうきし)っていう兵士が居るので攻められると厄介(やっかい)。でも手強いかどうかで言うと、士気(しき)が低いだろうから微妙(びみょう)なとこかな」


 ナビール王国には古竜(エンシェントドラゴン)よりも知能が低い翼竜の()点在(てんざい)している。彼らはその翼竜を手懐(てなず)け、空を()る兵士を育成しているのである。


 空を自在に()べる兵、というのは戦略(せんりゃく)において非常に()がある。何しろ地形を無視して行動出来(でき)るし、弓矢や大砲(たいほう)、魔術でないと地上の軍は対応出来ない。


飢餓(きが)もあるので兵の士気が低いだろうし、何より翼竜の(えさ)も満足に確保(かくほ)出来ていない状況(じょうきょう)だろうね。運用するのは難しいんじゃないかな」

「竜騎士か……。天使のように空を自在に駆り戦えるというのは大きな利点だな。しかしリーファの言う通り餌が確保出来ないのであれば、すぐにでも宣戦(せんせん)布告(ふこく)をしてきそうなものだが」


 そうだねぇ。飢えた翼竜を放置(ほうち)してるなんてリスキーだもんねぇ。


「……と、あら? 誰かが結界(けっかい)に入ったわね」


 夕食の片付(かたづ)けを始めたところで、母さんが森の結界に誰かを感知したらしく、その人が来たのであろう方角(ほうがく)を向いた。えーと、西かな。山のほうから来た?


「こんな時間に一人で森を彷徨(うろつ)いてるのはあんまり感心できないわねぇ」

「アナスタシアさん、私が確認してきましょうか?」


 普段から(あた)りの見回りには()れているシャムシエルが立候補(りっこうほ)するも、母さんはかぶりを振ってそれを制する。


「いえ、もう来ているわね、家の前よ」


 と、母さんが言ったところで家のドアベルが鳴った。そのまま(よろい)も着けずにシャムシエルが「私が出ます」と言って玄関(げんかん)の方へと向かったので、私もついていくことにした。




 ノックされている玄関のドアの(かぎ)を、シャムシエルは躊躇(ためら)いも無く開けた。向こうに誰が居るか分からないけれども、強盗(ごうとう)(ごと)きはこの天使と魔剣〈隠された剣(クォデネンツ)〉の敵では無いだろう。


 ドアを開けると、そこには修道服(しゅうどうふく)(まと)った旅のシスターらしき女性が居た。(かた)より少し長めの金髪を三つ()みにしており、背は高いがすらっとした身体は日々の質素(しっそ)な食生活によるものだろうか。年の頃は二〇歳くらい? シスターらしく清楚(せいそ)な印象を受ける。


「このような夜更(よふ)けに(もう)(わけ)御座(ござ)いません。わたくしはミスティと申します。真っ暗な中を彷徨(さまよ)っていたところ、明かりが見えましたので立ち()らせて頂きました」


 そのシスターは困ったように眉尻(まゆじり)を下げてそんな風にのたまった。悪意は感じないし、武器も持っているようには見えないので大丈夫(だいじょうぶ)かな?


「こんな暗い中に森を歩くのは危険ですよ。ですがここにいらしたのは正解かも知れませんね。ここには魔術結界のお(かげ)(くま)(いのしし)などの危険な生き物は現れませんし」


 私は聖女モードに切り替えてそう応対する。母さんの魔術結界は、熊や猪が立ち入れないようになっている。お陰で私たちは日々を安全に()ごせているのだ。


 私の言葉に、「まぁ」と両手を合わせて(おどろ)くミスティさん。なんだかのほほんという空気を感じて、こっちまで心(おだ)やかな気分になってしまう。


「玄関で立ち話も何ですし、奥でお話を(うかが)いましょう。私はリーファ。こちらの天使はシャムシエルです。……シャムシエル?」


 なんだか先程から一言も(はっ)しない天使が気になって(となり)の顔をちらりと見ると、なんだか砂を()むような複雑(ふくざつ)な表情をしている?


「シャムシエル、どうかなさったのですか?」

「……あ、あぁ、いや、なんでもない。そうだな、(くわ)しい話を聞かなければ」


 なんだかシャムシエルには、奥歯(おくば)に物が(はさ)まったようにもどかしい気持ちが見える。いつの間にか玄関に来ていたサマエルさんが、「こっちこっち」とミスティさんを案内してくれた。


 残された私も、シャムシエルを引っ()ってリビングへ戻ろうとすると、逆に服を引っ張られた。


「……どしたの、シャムシエル?」

「……リーファ、その、だな…………、上手く言えんが……」


 この脳筋(のうきん)天使にしては珍しく歯切(はぎ)れが悪い。何か口に出来ない事情をなんとかして話そうとしているように見える。


「……あの女には気をつけろ。私から言えるのはこれだけだ」


 そう言って、シャムシエルも急ぎリビングへと(もど)って行ってしまった。


「……どういうこと?」


 シャムシエルがそんなことを言うなんて(めずら)しい。いつもなら、そう感じた時は本人の目の前でも「コイツは危険だ!」とか言いそうなんだけど。


 私は一人、彼女の言葉の意味を理解出来ず、首を(かし)げていた。


◆ひとこと


ワイバーンはドラゴンの頭に蛇の尻尾、鷲の足を持つ怪物ですね。

でもドラゴンと混同されがち。

ドラゴンとワイバーンを見分ける方法は簡単、手が翼と一体化しているのがワイバーンですね。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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