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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第一章「聖女はじめました」
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第九話「彼女の意図が何なのか分からない」

 僕たちが古代遺跡(いせき)へたどり着くと、そこは以前見た景色とは(こと)なっていた。


「くっ……、流石(さすが)に……古代悪魔の力は一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないか……」


 古代遺物(アーティファクト)に手をかざし封印を破ろうとしているルピアの声が苦悶(くもん)(ふる)えている。それを(かこ)む岩々は魔力の共鳴(きょうめい)により震え、今にも(くだ)けそうだ。


「リーファ、どうする?」

「……止めたい所だけれど、周囲に魔術のトラップが仕掛(しか)けられてる。まずはそれを破壊しないとだね」

神術(しんじゅつ)で破壊を?」

「うん、僕は攻撃魔術があまり得意(とくい)じゃないから、神術で。でも万が一にでも封印に影響(えいきょう)するのはまずいから、広域(こういき)神術じゃなくてトラップを一つずつ(ねら)っていこう。そっちは僕がやるから、シャムシエルはルピアの方を警戒(けいかい)しておいて」

「了解した」


 小声での作戦会議を終えると、すぐさま僕は魔術による広域探知を行う。たぶんルピアに気付かれるだろうけどこればかりは仕方ない。見つけたトラップを〈光槍(ジャベリン)〉の神術で次々破壊していく。


「……またオマエたちか」


 封印を()く手を止めたルピアが振り返る。その金色(こんじき)の瞳は獲物を見つけた(けもの)のように、煌々(こうこう)(かがや)いていた。


 しかし、なんだろう、魔力の流れ方に違和感(いわかん)があった。


 もしかすると、あれは封印を解いていたのではなくて――


「神の御名(みな)の下に、古代悪魔の封印は解かせません! 何故にその身体へ()いているのかは分かりませんが、すぐに出ていきなさい!」


 剣を抜いたシャムシエルが高らかに()える。僕は一刻(いっこく)も早くルピアを止めに入れるように、トラップを破壊していく。残り一〇個だ。どれだけ設置したんだよ、もう。


 ところが、シャムシエルの言葉を聞いたルピアは一瞬ぽかんと口を開けていたものの、ぷっと()き出し、お(なか)(かか)えて笑い出した。


「な、何が可笑(おか)しい!」

「は、はっはっは! そうかそうか、古代悪魔の封印を解くことを止めるのか! 好きにするがいいぞ! この身体から出ていくのは拒否(きょひ)するがな!」


 次の瞬間(しゅんかん)、ルピアの身体から猛烈(もうれつ)な魔力の風が(おそ)()かった。咄嗟(とっさ)にシャムシエルが〈聖壁(ディバイン)〉を展開してくれたお(かげ)でこちらに影響(えいきょう)は無かった。


 でも、神術防壁(ぼうへき)を展開されるとこちらの〈光槍〉も放つことが出来ない。トラップも残り三つなんだけどな。


「ほらほらどうした!? 私を止めるんじゃなかったのか!?」

「ぐっ……」


 強まる魔力風を受け、シャムシエルの(ほお)一筋(ひとすじ)の汗が流れるのが見えた。昨日も思ったことではあるけど、展開している神術防壁の術式を見ると少し造りが(あら)い。彼女は神術があまり得意ではないんだろう。


 このままではトラップの破壊も出来ないし、そっちは(あきら)めた方がいいのかも知れないな。


聖霊(せいれい)よ、異端(いたん)なる力の行使を(とど)めよ、〈神域(パーミッション)〉!」


 ギリギリ古代遺物に届かない範囲(はんい)で〈神域〉の神術を展開し、この区域内では魔力を使った術式を展開することは出来なくなった。


 ただし、トラップは範囲外に設置されている。そこから(はな)たれた魔術はこの区域でも有効となってしまうため、それによる攻撃を覚悟(かくご)しなければならない。


「シャムシエル、トラップは残り三つだけど(あきら)めよう!」

「……承知(しょうち)した!」

「ふん、魔術禁止の結界か、小賢(こざか)しいことを。神術の外へ移動すればいいんだろう?」

「させるかっ!」


 シャムシエルが剣で威嚇(いかく)してルピアの移動を阻止(そし)する。殺しはしなくても、多少傷つけるのは()むを()ない所があるだろう。


 剣を振るった瞬間に三つのトラップから魔術の光がシャムシエルへと放たれた。でもそれは彼女へと届く前に消滅(しょうめつ)する。


「……神官、貴様の仕業(しわざ)か」

「神官じゃないけどね」


 忌々(いまいま)しげに舌打ちしたルピアに、ニヤリと笑って見せる僕。トラップの方向から砲撃(ほうげき)を予測し、小さな〈聖壁〉を展開してシャムシエルを守ったのだ。


 しかし攻撃を予測しながら術式を無詠唱(えいしょう)複数展開(マルチキャスト)するのは頭が疲れる。残ってたのが三つでまだ良かった。これ以上あったら対応出来なかったな。


観念(かんねん)することだな。(やり)を捨てて憑依しているその身体から出ろ、でなければ……」


 ちらり、と僕を見るシャムシエル。うん、分かってる。神術を使って無理矢理(むりやり)追い出す方法は昨日教えて(もら)った。


 しかし、剣を突きつけられている状況にも関わらず、ルピアは(はな)で笑って見せた。


「……ふん、勝ったつもりか? 甘すぎだな。まぁ計画が少し狂ったが、構うまい」

「えっ……?」


 思わず目を(うたが)った。ルピアが短槍(たんそう)を古代遺物の()まっているあたりの地面へと突き刺し、膨大(ぼうだい)な魔力により〈神域〉を一部だけこじ開け、そこから封印へ魔力を送り込み始めたのだ。


 相手は神の奇跡による封印だ。普通の人間の魔力ならばビクともしないだろうけど、今彼女の身体には村で吸収(きゅうしゅう)した魔力がある。膨大な魔力を注ぎ込めばその封印も(はじ)け飛ぶ可能性があるだろう。


「こっ、こいつ、封印を力技で爆破するつもりか! そんなことをしたらその身体まで巻き込まれるぞ! シャムシエル、止めて!」

「ぐっ……ダメだ、押されるっ!」


 シャムシエルがルピアに近づこうとするも、強すぎる魔力の風圧に飛ばされそうになっていた。


「はっはっは! この身体が巻き込まれようが知ったことか! また()(だお)れなどの弱った憑依先を見つければいいだけだからなぁ!」

外道(げどう)があああ!」


 高らかに笑うルピアにシャムシエルがやっと近づき槍を(うば)うも、一度パスが通ってしまったために魔力の奔流(ほんりゅう)は止まらない。強すぎる魔力の放出に対する拒絶(きょぜつ)反応が起こっており、ルピアの肉体から(けむり)が上がっている。こ、このままじゃあの身体もタダじゃ済まないのに! こいつの目的は悪魔の調伏(ちょうふく)じゃないのか!?


 最早(もはや)ここまで来たら〈神域〉を展開している意味も無い。僕は別の一手に集中することにした。


「聖霊よ、何人(なんぴと)たりとも通さぬ守りをここに、〈聖壁〉!」


 ルピアと古代遺物との間に〈聖壁〉を生み出す。封印へ魔力を送り込んでいる場所に穴が開いているけど、これで少しでも封印が弾け飛んだ時の被害を減らせるだろう。


「来るよシャムシエル! その子をお願い!」

「承知した!」


 〈聖壁〉を維持(いじ)したままシャムシエルに()げると、彼女はルピアの身体を押し倒す。


 その直後、封印が(かか)えられる魔力は限界を突破(とっぱ)し、轟音(ごうおん)が山に鳴り(ひび)いた。


◆ひとこと


はい、詠唱が出てきました。

詠唱が無くても術式展開は出来ますが基本的に綻びが出ます。

シャムシエルのように技術的に未熟でも造りが粗いこともあるようで。


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次回は本日22時半頃に更新予定です!

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