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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第八九話「彼女の望みを叶えるために」

「シャラ……シャラ!」


 私は全身が痛むのも(かま)わず、シャラの名前を呼びながら()()った。(やり)はシャラの(むね)貫通(かんつう)しているものの、抜けきれずにそこで(とど)まっている。


「あぁ……リーファちゃん……。無事(ぶじ)やったんやな……」

「うん……うん、シャラのお(かげ)で、無事だよ……!」

「あかんで……、人前やし、言葉(づか)いに気ぃ付けんと……」


 こんな状況にも関わらず、聖女モードも忘れて声をかける私になんとも緊張感(きんちょうかん)の無いことを言うシャラだったが、その身体からみるみるうちに魔力が霧散(むさん)していくのが見て取れた。心臓を(つらぬ)かれても生きているのは流石(さすが)女神ではあるけれども、神格(しんかく)である彼女が魔力を失うということは、(すなわ)ち死を意味する。


「待ってて! 今槍を抜いて、神気(しんき)を分け与えるから!」

「ええんや……、それが無駄(むだ)なことくらい、うちにもわかっとるさかい……」


 シャラの言う通りなんだろう。ベリアルの(のろ)いの槍は、貫いた者の生命力と魔力を根こそぎ(うば)っていくものであるのは私にも分かる。


「なあ、リーファちゃん……。あん時の返事、やっぱり答えてくれんでも、ええわ」


 あの時の返事。


 シャラをベリアルから解放した翌朝、私を好きだと言ってくれたことだ。


「その代わり……」


 シャラの血に()れた手が、私の(ほお)()れる。シャラの瞳からも、私の瞳からも涙が落ちる。シャラの顔をはっきりと見ていたいのに、視界(しかい)がぼやけて見える。


「うちを、村が見渡(みわた)せる場所に、()めて()しいんや……。うちによくしてくれたみんなを、見守(みまも)っていたいんや……せやから…………」

「そんな……、まだ私にも、村にもシャラが必要なのに……、教えて(もら)っていないことがたくさんあるのに……」

「せやなぁ……まだ心残(こころのこ)りがいっぱいや……。でも、残念やけど、ここで(しま)いや」


 シャラは眉尻(まゆじり)を下げて苦笑する。私だって、村のみんなだって、心残りしか無いよ。


 もう目も見えていないのだろうか、私を見るシャラの視線はおぼつかない。そして段々(だんだん)と彼女の身体は()けていく。女神としての身体が終わりを(むか)えようとしているのだ。



「リーファちゃん、みんな、短い間やったけど……」


 (にぎ)っているシャラの手から、力が抜けた。



「うちは……幸せ…………」


 最後にそれだけを言い残し、跡形(あとかた)も無く女神の身体は消滅(しょうめつ)した。



「………………」


 夢でも見ているのだろうか。なんとも呆気(あっけ)なく、シャラは()ってしまった。


「……あ…………」


 コロン、と音がしたかと思うと、彼女の身体があった場所に落ちている何かがあることに気づいた。(まよ)わず拾うと、それは親指ほどの大きさのある種だった。



 ――うちを、村が見渡せる場所に、埋めて欲しいんや……。



 そうだ、シャラはそう言っていた。


 ならば彼女の(のぞ)み通り、村に帰ってから植えよう。


「シャラの、(かたき)()ってから」


 私はそう(つぶや)き、シャラの残した種を仕舞(しま)うと、全身の矢を抜き終えたベリアルを(にら)み付けた。


◆ひとこと


というわけで、二章のヒロインのシャラが退場です(T_T)

お疲れ様でした……。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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