第八七話「こういう時のために攻撃魔術も覚えておくべきでしたね」
ベリアルが出て行き、外から閂を掛ける音が鳴り、そして部屋に沈黙が訪れる。
……閉じ込められてしまったか。
仕方ない。教会を破壊しちゃうけど、緊急事態だし後で謝るとしよう。
「主よ、どうかそのお力で、正しき怒りを示し給え――」
これから使う術は、絶大な力の奔流で対象を叩き潰す奇跡である。一応扉の向こうには神気も魔力も感じないので誰も居ないし、大丈夫だろう。
「〈怒り〉!」
………………。
あ、あれ? 奇跡が発動しない?
というか、神から神気をお借りするためのパスが切れているような……?
「……まさか」
慌てて今度は周囲の神気を探知する〈天使探知〉の神術を展開する。こちらはきちんと展開出来た。しかし――
「……神気が探知出来ない?」
いやいや、天使のカナフェル大司教猊下やハロムさん、シャロームさんなどがいらっしゃる筈。神気を探知出来ない筈が無い。
となれば、理由は一つだ。
「この部屋、神気が遮断されてるのか……、やられた……」
恐らくベリアルの結界か何かだろう。私が神から神気をお借りすることで奇跡を行使することが出来ることを聞き、対策を講じたのだ。神術は自分の神気を使うので使えた、ということなんだろう。
「魔力はどうだろう? その流れを我に映せ、〈魔力探知〉」
……うん、魔力は感じられる。ということは、魔力は遮られていないということだ。
しかしこれは困ったぞ。魔力が遮られていないのはいいのだけれども、私は攻撃魔術が苦手だ。ぶっちゃけると下手糞だ。この扉を壊せる自信が無い。
「風の精霊を呼んで閂を切って貰おうにも、ここは窓が無いし、うーん……」
いっそのこと火を付けるか? いやいや。教会にはたくさん人が居るし、延焼したら大惨事だし、何より逃げ遅れる可能性しか無い。却下。
「……もうこうなったら、魔術で壊すしか無いか」
下手だからとか言ってはいられない。魔力切れになる心配は無いんだし、壊れるまで魔力弾を放つだけだ。
私は深い溜息を吐くと、扉に向かって杖を掲げた。
「や、やっと出られた……」
小一時間も掛けて閂を破壊し、ようやく部屋の外へ出られた。途中で誰かが異常に気づいて開けてくれることを期待したのだけれども、そんなことは無かった。恐らくみんなベリアルの術に掛けられているのだろう。
さて、シャラを見せしめにすると言っていた。となれば猊下もシャラも大聖堂に居るだろう。手遅れになっていないことは〈魔力探知〉でシャラの存在を探知出来ていたから分かる。
私は急ぎ大聖堂へ向かうべく、廊下を走ったのだった。
◆ひとことふたこと
アフ、というのはヘブライ語でまんま「怒り」で、実は天使の名前でもあります。
イキり散らかしていたモーセを半分飲み込んでしまった(神の介入で吐き出させられましたが)、死を司る天使の一人です。
いつだって後悔は先に立たないものです。
若人たちよ、リーファちゃんのようにならないためにもちゃんと勉強しておくのですよ(笑)
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次回は明日21時半頃に更新予定です!